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◆第二幕 月に叢雲、花に風◆
終わりの日①
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袴姿で闊歩する清虎は、まるで凛々しい若武者のようだった。何も持っていないはずの右手に、刀が握られているような気さえする。
廊下で立ち話をしていた生徒らが、清虎を見て思わず道を開けた。気圧されながらもその目には、確かに賛美の念が込められている。
カリスマ性とは、こういうことを言うのだろうか。
そんな事を考えながら、清虎の動きに合わせてなびく長いハチマキに目をやった。うっすら土埃で汚れているのは、練習の時から身に着けていたからだ。それはこの一カ月、清虎が確かにここに居たと言う証のようにも思えた。
「ねえ清虎。ハチマキ交換しようよ」
「ハチマキ?」
「そう」
言葉にした後、なんだか急に照れくさくなって「別に無理にとは言わないけど」と付け加える。
ハチマキ交換は、運動会の影のイベントでもあった。
カップルはもちろん、片想いの相手からハチマキを貰うために告白すると言う恒例が、大昔から続いている。
最近では仲の良い友達同士で交換することも増えたが、いずれにせよ、自分にとって大切な人だと白状するのに等しい。
清虎は深い意味には取らないだろうが、それでも気恥ずかしくて頬が熱くなった。
「俺は……」
清虎が躊躇いがちに口を開く。言葉を選んでいるのか、ぽつりぽつりと迷いながら話し出した。
「俺は、陸のハチマキ欲しい。だから、交換しよ。でもな、多分、哲治も陸に交換しよ言うやんか。そしたら俺のあげたハチマキ黙って渡してな。陸のはもう俺に渡したとか、余計なコト言わんでええからな」
「嫌だよ。俺だって清虎のハチマキ、想い出に持ってたいのに」
「可愛いコト言うやんけ。でもなぁ、ホンマ頼むで、陸」
冗談めかしながらも、真剣な面持ちだった。
「清虎は哲治に気を使い過ぎじゃないの」
「本音言うたら、気ぃ使てる訳ちゃうねん。アイツが自棄になって陸に何かしたらと思うと、怖くて仕方ないだけや」
今朝も似たようなことを言っていたなと思い出す。これ以上駄々をこねればハチマキ交換自体を断られそうで、陸は渋々承知した。
「わかった。もし哲治に交換を持ちかけられたら、余計なこと言わずに素直に渡すよ」
「うん。おおきに」
互いにハチマキを解いて手渡し、改めて自分の額に締め直した。自然と顔を見合わせて、ふっと小さな声で笑う。
校庭には既に、パラパラと応援団員が集まり始めていた。清虎の袴姿を見つけると、他チームの生徒らまでもが黄色い声を上げる。
そんな歓声とは別に、「先輩!」と焦りの混じった声が聞こえてそちらに目をやった。二年生の応援団員が、落ち着かない様子で口を開く。
「青組の奴らが、普通にやったんじゃ清虎先輩に敵わないからって、ギター演奏で対抗するみたいです。アンプ通して大音量で。あいつらズルいですよ!」
切羽詰まった下級生とは対照的に、清虎は口の端を上げてニヤリと笑った。
「ほぉ。おもろいやんけ」
「卑怯な手を使われてるのに、先輩呑気過ぎますよ。あのギター弾いてるの、ジュニアのギターコンテストで優勝したことある奴ですよ」
「へぇ、そら凄いな。けど、卑怯とはちゃうやろ。楽器は別に、禁止されとるワケやないし。なぁ?」
清虎は確認するように陸を見る。陸は忌々しそうに顔をしかめて頷いた。
「楽器は一台まで認められてて、例年どのチームも大太鼓を使うことが多いかな。まぁ、吹奏楽部の部員がトランペットやサックスを吹いた年もあったけど。でもさぁ、部活で使ってる楽器とわざわざ家から持ち込んだ楽器は、ちょっと違う気がするな。抗議してもいいんじゃないの」
至極まっとうなことを言ったつもりだったが、清虎は涼しい顔で首を横に振った。
「なんて抗議するん? 『管楽器ならええけど、エレキギターの音は派手過ぎて勝てそうもないからズルいです』言うん? ええやんか。それくらいのハンデ、くれてやれ。普段、金貰ろて舞台立ってる俺が出るんも大概やろ」
清虎が当然自分の意見に賛同してくれると考えていた陸は、驚きながら反論する。
「そんな、悔しいじゃん。折角今日まで練習してきたのに、邪魔されるみたいで」
「向こうかて今まで真剣に練習して、その上で策を練ってきたんやろ。それが多少強引な手であったとしても。応援団の発表は、赤、青、白の順やんな? メインの演舞は同時にはならんし、邪魔されることもないやろ」
「でも最後には応援合戦を、全チーム一斉にやるだろ。このままじゃ、青組が一番目立っちゃうよ」
「そないなこと、させへんよ」
憤る陸を清虎が静かに見下ろし、低い声で言い切った。その自信に満ちた物言いに、陸も後輩も息を呑む。根拠などあるのか解らないが、それでも清虎の言葉には不思議な安心感と説得力があった。
廊下で立ち話をしていた生徒らが、清虎を見て思わず道を開けた。気圧されながらもその目には、確かに賛美の念が込められている。
カリスマ性とは、こういうことを言うのだろうか。
そんな事を考えながら、清虎の動きに合わせてなびく長いハチマキに目をやった。うっすら土埃で汚れているのは、練習の時から身に着けていたからだ。それはこの一カ月、清虎が確かにここに居たと言う証のようにも思えた。
「ねえ清虎。ハチマキ交換しようよ」
「ハチマキ?」
「そう」
言葉にした後、なんだか急に照れくさくなって「別に無理にとは言わないけど」と付け加える。
ハチマキ交換は、運動会の影のイベントでもあった。
カップルはもちろん、片想いの相手からハチマキを貰うために告白すると言う恒例が、大昔から続いている。
最近では仲の良い友達同士で交換することも増えたが、いずれにせよ、自分にとって大切な人だと白状するのに等しい。
清虎は深い意味には取らないだろうが、それでも気恥ずかしくて頬が熱くなった。
「俺は……」
清虎が躊躇いがちに口を開く。言葉を選んでいるのか、ぽつりぽつりと迷いながら話し出した。
「俺は、陸のハチマキ欲しい。だから、交換しよ。でもな、多分、哲治も陸に交換しよ言うやんか。そしたら俺のあげたハチマキ黙って渡してな。陸のはもう俺に渡したとか、余計なコト言わんでええからな」
「嫌だよ。俺だって清虎のハチマキ、想い出に持ってたいのに」
「可愛いコト言うやんけ。でもなぁ、ホンマ頼むで、陸」
冗談めかしながらも、真剣な面持ちだった。
「清虎は哲治に気を使い過ぎじゃないの」
「本音言うたら、気ぃ使てる訳ちゃうねん。アイツが自棄になって陸に何かしたらと思うと、怖くて仕方ないだけや」
今朝も似たようなことを言っていたなと思い出す。これ以上駄々をこねればハチマキ交換自体を断られそうで、陸は渋々承知した。
「わかった。もし哲治に交換を持ちかけられたら、余計なこと言わずに素直に渡すよ」
「うん。おおきに」
互いにハチマキを解いて手渡し、改めて自分の額に締め直した。自然と顔を見合わせて、ふっと小さな声で笑う。
校庭には既に、パラパラと応援団員が集まり始めていた。清虎の袴姿を見つけると、他チームの生徒らまでもが黄色い声を上げる。
そんな歓声とは別に、「先輩!」と焦りの混じった声が聞こえてそちらに目をやった。二年生の応援団員が、落ち着かない様子で口を開く。
「青組の奴らが、普通にやったんじゃ清虎先輩に敵わないからって、ギター演奏で対抗するみたいです。アンプ通して大音量で。あいつらズルいですよ!」
切羽詰まった下級生とは対照的に、清虎は口の端を上げてニヤリと笑った。
「ほぉ。おもろいやんけ」
「卑怯な手を使われてるのに、先輩呑気過ぎますよ。あのギター弾いてるの、ジュニアのギターコンテストで優勝したことある奴ですよ」
「へぇ、そら凄いな。けど、卑怯とはちゃうやろ。楽器は別に、禁止されとるワケやないし。なぁ?」
清虎は確認するように陸を見る。陸は忌々しそうに顔をしかめて頷いた。
「楽器は一台まで認められてて、例年どのチームも大太鼓を使うことが多いかな。まぁ、吹奏楽部の部員がトランペットやサックスを吹いた年もあったけど。でもさぁ、部活で使ってる楽器とわざわざ家から持ち込んだ楽器は、ちょっと違う気がするな。抗議してもいいんじゃないの」
至極まっとうなことを言ったつもりだったが、清虎は涼しい顔で首を横に振った。
「なんて抗議するん? 『管楽器ならええけど、エレキギターの音は派手過ぎて勝てそうもないからズルいです』言うん? ええやんか。それくらいのハンデ、くれてやれ。普段、金貰ろて舞台立ってる俺が出るんも大概やろ」
清虎が当然自分の意見に賛同してくれると考えていた陸は、驚きながら反論する。
「そんな、悔しいじゃん。折角今日まで練習してきたのに、邪魔されるみたいで」
「向こうかて今まで真剣に練習して、その上で策を練ってきたんやろ。それが多少強引な手であったとしても。応援団の発表は、赤、青、白の順やんな? メインの演舞は同時にはならんし、邪魔されることもないやろ」
「でも最後には応援合戦を、全チーム一斉にやるだろ。このままじゃ、青組が一番目立っちゃうよ」
「そないなこと、させへんよ」
憤る陸を清虎が静かに見下ろし、低い声で言い切った。その自信に満ちた物言いに、陸も後輩も息を呑む。根拠などあるのか解らないが、それでも清虎の言葉には不思議な安心感と説得力があった。
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