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◆第三幕 同窓会◆
合縁奇縁①
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翌日から陸は、毎日劇場に足を運ぶようになっていた。
ただ、足を運ぶと言っても芝居を見る訳ではなく、ソワソワと歩きながら横目で建物を眺めるだけだ。劇場は急な階段を上った二階にあるので、外から見たって中の様子は少しも伺い知ることは出来ない。それでもわざわざ遠回りをしてでも、出勤前と帰宅時に劇場前を通るのが日課となっていた。
「もうすぐ一週間か……」
会社のデスクに置いてある卓上カレンダーを見て、陸はため息を吐く。同窓会があったのは先週の土曜日だ。あれ以来、清虎には一度も会えていない。もう会わないつもりでいるのだから、それは当たり前のことなのだけれど。
「なになに? 一週間がどうしたって」
頬杖をついて背を丸めていた陸の頭上から、快活な男性の声が降って来きた。陸は慌てて体を起こし、声の主を見上げる。
「深澤さん。どうしたんですか」
「うん。この前お願いした、商品提案用の資料出来てるかなと思って。ほら、ファミレス向けの新メニューのやつ」
「ああ、はい。出来てます」
「さっすが佐伯くん! やっぱ仕事早いなぁ」
人懐っこい笑みを浮かべ、深澤は豪快に陸の肩を叩いた。
陽気なオーラを全身から発し、ノリが良く、軽い口調。ややもすると軽薄な印象を与えてしまいそうだが、深澤はスポーツマンらしい爽やかさの方が勝っているので好感が持てた。
三十代半ばだが、見た目はもっと若く見える。短髪が良く似合い、精悍で男らしかった。
営業向きの人だなあと感心しながら、陸はまとめた資料を深澤に手渡す。
「ところで、金曜の午後なんだけどさ、クライアントさんのところへ一緒に行ってもらえないかな。大事な商談だから、営業企画部の人がいてくれると心強いんだよね。俺以外に佐々木も一緒に行く予定なんだけど、どうかな」
お願い、と両手を合わされて、陸は「もちろん」と頷いた。
「企画部も全面的にバックアップしますよ」
「ありがとう、助かるよ。詳しいことは後でメールするから」
手を振りながら、深澤が自分のデスクに戻っていく。
陸が勤めているのは、中小飲料メーカーだった。
飲料メーカーと言っても扱う商品はペットボトルや紙パックではなく、業務用の冷凍したジュースやデザートに使うフルーツソースなどだ。
取引先は主に飲食店やホテルのレストランで、新メニューの企画や提案をすることもある。
どうせ就職するのなら、実家の役に立ちそうなところが良いと考えて決めた会社だった。栄養士の資格が取れる大学を卒業したおかげで、新卒にもかかわらず企画部で採用された。あまり人と関わりたくなかったので営業部でないことに胸を撫で下ろしたのだが、実際は営業と組んで動くことも多い。
最近では本格的に企画に携わるようになり、それなりにやり甲斐も感じるようになっていた。
すぐに深澤から社内メールが届き、仕事が早いのはあなたもでしょう、と思いながらメールを開く。
陸が既に得ている情報以外に、取引相手の嗜好や避けた方が良い話題などまでが親切に書かれていて、「豪快そうに見えて案外きめ細やかなんだよなぁ」と陸は思わずうなる。
翌日、深澤と佐々木とクライアントに赴き、提案した企画で新商品の共同開発が決まった。大手の飲食チェーン店のデザートで、中々の成果だ。
深澤は「佐伯くんがいれば心強い」と言っていたが、陸の出番はそれほど多くはなかった。それでも深澤は、クライアントの本社ビルから外に出ると上機嫌で陸の背中を叩く。
「いやぁ、やっぱ佐伯くんがいてくれると、話がスムーズで助かるよ」
「俺、特に何もしてないですよ」
「そんなことないよ。佐伯くんの話し方とか仕草は品があるから、クライアントさんも佐伯くんの説明は良く聞いてくれるんだよね」
そうだろうかと疑問に思いながら首を傾げる。
深澤が腕時計に視線を落としたので、つられて陸も自分の時計をチラリと見た。もうすぐ十七時になろうとしている。
「さて、今日は直帰の許可を貰って来たんだ。もし二人ともこの後に予定がないなら、ちょっと俺の行きたいところに付き合ってくれない?」
「予定はないのでお供しますよ。どこへ行きますか」
陸が問い返すと、深澤は悪戯っ子のように、ニッと笑った。
「浅草の茶益園」
「えっ」と驚いた陸の隣で、佐々木が「行きたいです!」と勢いよく手を挙げた。
「ちょうど昨日、雑誌の特集で見て、行ってみたいと思ってたんですよね。新作の抹茶パフェ、凄く美味しそうでした」
わくわくしたように声を弾ませる。
佐々木は陸と同期のハツラツとした女性だ。バイタリティーに溢れているので、彼女も営業に向いているなと陸は常々思っていた。
「よし、じゃあ決まりだな。ここから三十分もかからないで着くだろ」
言いながら、深澤がタクシーを止める。乗り込んだ瞬間「道案内は佐伯くんよろしくね」と告げたので、それを聞いた佐々木は首を傾げた。
ただ、足を運ぶと言っても芝居を見る訳ではなく、ソワソワと歩きながら横目で建物を眺めるだけだ。劇場は急な階段を上った二階にあるので、外から見たって中の様子は少しも伺い知ることは出来ない。それでもわざわざ遠回りをしてでも、出勤前と帰宅時に劇場前を通るのが日課となっていた。
「もうすぐ一週間か……」
会社のデスクに置いてある卓上カレンダーを見て、陸はため息を吐く。同窓会があったのは先週の土曜日だ。あれ以来、清虎には一度も会えていない。もう会わないつもりでいるのだから、それは当たり前のことなのだけれど。
「なになに? 一週間がどうしたって」
頬杖をついて背を丸めていた陸の頭上から、快活な男性の声が降って来きた。陸は慌てて体を起こし、声の主を見上げる。
「深澤さん。どうしたんですか」
「うん。この前お願いした、商品提案用の資料出来てるかなと思って。ほら、ファミレス向けの新メニューのやつ」
「ああ、はい。出来てます」
「さっすが佐伯くん! やっぱ仕事早いなぁ」
人懐っこい笑みを浮かべ、深澤は豪快に陸の肩を叩いた。
陽気なオーラを全身から発し、ノリが良く、軽い口調。ややもすると軽薄な印象を与えてしまいそうだが、深澤はスポーツマンらしい爽やかさの方が勝っているので好感が持てた。
三十代半ばだが、見た目はもっと若く見える。短髪が良く似合い、精悍で男らしかった。
営業向きの人だなあと感心しながら、陸はまとめた資料を深澤に手渡す。
「ところで、金曜の午後なんだけどさ、クライアントさんのところへ一緒に行ってもらえないかな。大事な商談だから、営業企画部の人がいてくれると心強いんだよね。俺以外に佐々木も一緒に行く予定なんだけど、どうかな」
お願い、と両手を合わされて、陸は「もちろん」と頷いた。
「企画部も全面的にバックアップしますよ」
「ありがとう、助かるよ。詳しいことは後でメールするから」
手を振りながら、深澤が自分のデスクに戻っていく。
陸が勤めているのは、中小飲料メーカーだった。
飲料メーカーと言っても扱う商品はペットボトルや紙パックではなく、業務用の冷凍したジュースやデザートに使うフルーツソースなどだ。
取引先は主に飲食店やホテルのレストランで、新メニューの企画や提案をすることもある。
どうせ就職するのなら、実家の役に立ちそうなところが良いと考えて決めた会社だった。栄養士の資格が取れる大学を卒業したおかげで、新卒にもかかわらず企画部で採用された。あまり人と関わりたくなかったので営業部でないことに胸を撫で下ろしたのだが、実際は営業と組んで動くことも多い。
最近では本格的に企画に携わるようになり、それなりにやり甲斐も感じるようになっていた。
すぐに深澤から社内メールが届き、仕事が早いのはあなたもでしょう、と思いながらメールを開く。
陸が既に得ている情報以外に、取引相手の嗜好や避けた方が良い話題などまでが親切に書かれていて、「豪快そうに見えて案外きめ細やかなんだよなぁ」と陸は思わずうなる。
翌日、深澤と佐々木とクライアントに赴き、提案した企画で新商品の共同開発が決まった。大手の飲食チェーン店のデザートで、中々の成果だ。
深澤は「佐伯くんがいれば心強い」と言っていたが、陸の出番はそれほど多くはなかった。それでも深澤は、クライアントの本社ビルから外に出ると上機嫌で陸の背中を叩く。
「いやぁ、やっぱ佐伯くんがいてくれると、話がスムーズで助かるよ」
「俺、特に何もしてないですよ」
「そんなことないよ。佐伯くんの話し方とか仕草は品があるから、クライアントさんも佐伯くんの説明は良く聞いてくれるんだよね」
そうだろうかと疑問に思いながら首を傾げる。
深澤が腕時計に視線を落としたので、つられて陸も自分の時計をチラリと見た。もうすぐ十七時になろうとしている。
「さて、今日は直帰の許可を貰って来たんだ。もし二人ともこの後に予定がないなら、ちょっと俺の行きたいところに付き合ってくれない?」
「予定はないのでお供しますよ。どこへ行きますか」
陸が問い返すと、深澤は悪戯っ子のように、ニッと笑った。
「浅草の茶益園」
「えっ」と驚いた陸の隣で、佐々木が「行きたいです!」と勢いよく手を挙げた。
「ちょうど昨日、雑誌の特集で見て、行ってみたいと思ってたんですよね。新作の抹茶パフェ、凄く美味しそうでした」
わくわくしたように声を弾ませる。
佐々木は陸と同期のハツラツとした女性だ。バイタリティーに溢れているので、彼女も営業に向いているなと陸は常々思っていた。
「よし、じゃあ決まりだな。ここから三十分もかからないで着くだろ」
言いながら、深澤がタクシーを止める。乗り込んだ瞬間「道案内は佐伯くんよろしくね」と告げたので、それを聞いた佐々木は首を傾げた。
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