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◆最終幕 依依恋恋◆
結び直した糸①
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ホテルの最上階にあるバーラウンジは、まだ混雑する時間帯ではないらしく、空席が目立っていた。爽やかな笑顔のウェイターに出迎えられ、カウンターとテーブル席のどちらが良いか尋ねられる。
「後からもう一人来るので、テーブル席をお願いできますか」
陸も穏やかな笑みを返すと、どうぞこちらへとウェイターは恭しく頭を下げた。夜景の見える席に通され、座り心地の良いソファに腰を下ろす。
「オーダーは、お連れ様がお見えになってからにいたしますか」
「いえ、先に。ジントニック……あぁ、やっぱりハウスワインの白をグラスで」
ウェイターがテーブルに置いたメニューを見ずに陸は答える。ここはアルコールの種類がそれほど豊富ではないので、何度か来ているうちに覚えてしまった。
「かしこまりました」
微笑んだウェイターが席から離れると、陸はソファの背もたれに体重を預け、深く息を吐き出した。
清虎と二人きりで会うことに、緊張しているのかもしれない。清虎を目の前にしたら、また思考と行動がちぐはぐになりそうだ。
気を紛らわせるように窓の外に目をやると、ライトアップされた浅草寺が見えた。なかなか幻想的な風景で、少しの間、目を奪われる。普段見慣れた景色も、高い場所から見下ろすと新鮮だ。
運ばれてきた白のグラスワインに手を伸ばし、杯を傾ける。幸い傷に沁みることもなく、ホッとした。
「清虎は深澤さんのこと気になるのかな……」
それはどうして、と尋ねたら、答えてくれるだろうか。そしてそこに、嫉妬のような感情があるのかと期待するのは、やはり自惚れだろうか。
「駄目だ。落ち着こう」
自分が浮かれ過ぎている気がして、ワインをゆっくり口に含む。程よく冷えたワインが喉を通ると、少しだけ気持ちが和らいだ。
再び視線を夜景に戻し、しばらくのんびり外を眺める。窓ガラスにこちらに向かってくる清虎の姿が反射して映り、心臓が大きく高鳴った。
「すまん、遅なった」
「全然平気。もっと時間かかると思ってた」
清虎がふわりと笑う。
久しぶりに見た優しい笑みに、陸の目は釘付けになった。
清虎はウェイターに「ウイスキーのハーフロック」と告げ、陸の向かい側に座った。
「銘柄はいかがいたしましょう」
「マッカランがあればそれで。なければお任せします。陸は? もうグラス空きそうやん。もう一杯くらい飲んだら」
「そうだね。じゃあ、グラスワインの白をお願いします」
オーダーを済ませウェイターが下がると、急に気恥ずかしくなる。手持ち無沙汰を誤魔化すように、陸は意味もなくグラスの中に残るワインをくるくる回した。
「陸はワインが好きなん?」
「本当はジントニック頼もうとしたけど、ライムが傷に沁みそうだからこっちにした。ワインも好きだけどね」
「ふーん」
ソファに深く腰掛ける清虎の視線が、陸の頬に向く。
「それ……痛む?」
「もうそんなに痛くない。ワインも沁みなかったよ」
大丈夫と言うように、残ったワインを飲み干した。ほどなくして、二杯目のワインとウイスキーが運ばれてくる。
グラスは合わせず、軽く杯を持ち上げるだけの乾杯をした。
互いに会話の糸口を探すような、何となく気まずい空気が流れる。
何から話そうか思案していると、沈黙に耐えきれなくなったように首筋をさすりながら、清虎が大きなため息を吐いた。
「俺な、こう見えても大衆演劇の世界じゃ、そこそこ名前知られるようになってきてん。妖艶やとか魔性やとかミステリアスやとか、みんな芝居めっちゃ褒めてくれんねんけど……。なんや、陸見とったら自信なくなってくるわ」
唐突に話し出す清虎に、陸は目をパチパチさせる。
「え、どういうこと。何で俺を見ると自信なくすの」
「だって俺、陸にあないなコトしたやんか。そんでも陸は次に会うた時、少しも表情変えんで、しれっと仲良う手ぇつないで恋人と来よるし。かと思えば、今日は遠藤さんと一緒やろ、訳わからん。挙句の果てには、俺に向かって好きやって言う。ホンマ何なん? どんだけ俺のこと翻弄する気や。俺、悪女の役やることなったら、陸を参考にさせてもらうわ。ホンマの魔性って、陸のことやで」
清虎は、ヤケ酒のようにウイスキーを喉に流し込んだ。陸は首を傾げ、少しムッとした表情を作る。清虎を翻弄したとは心外だ。
「清虎が何言ってんのかわかんない。俺、次に会った時、凄く動揺してたよ。それから、何度も言うけど深澤さんは恋人じゃない。じゃあ逆に聞くけど、何で同窓会の時、零の姿で会いに来たんだよ」
「後からもう一人来るので、テーブル席をお願いできますか」
陸も穏やかな笑みを返すと、どうぞこちらへとウェイターは恭しく頭を下げた。夜景の見える席に通され、座り心地の良いソファに腰を下ろす。
「オーダーは、お連れ様がお見えになってからにいたしますか」
「いえ、先に。ジントニック……あぁ、やっぱりハウスワインの白をグラスで」
ウェイターがテーブルに置いたメニューを見ずに陸は答える。ここはアルコールの種類がそれほど豊富ではないので、何度か来ているうちに覚えてしまった。
「かしこまりました」
微笑んだウェイターが席から離れると、陸はソファの背もたれに体重を預け、深く息を吐き出した。
清虎と二人きりで会うことに、緊張しているのかもしれない。清虎を目の前にしたら、また思考と行動がちぐはぐになりそうだ。
気を紛らわせるように窓の外に目をやると、ライトアップされた浅草寺が見えた。なかなか幻想的な風景で、少しの間、目を奪われる。普段見慣れた景色も、高い場所から見下ろすと新鮮だ。
運ばれてきた白のグラスワインに手を伸ばし、杯を傾ける。幸い傷に沁みることもなく、ホッとした。
「清虎は深澤さんのこと気になるのかな……」
それはどうして、と尋ねたら、答えてくれるだろうか。そしてそこに、嫉妬のような感情があるのかと期待するのは、やはり自惚れだろうか。
「駄目だ。落ち着こう」
自分が浮かれ過ぎている気がして、ワインをゆっくり口に含む。程よく冷えたワインが喉を通ると、少しだけ気持ちが和らいだ。
再び視線を夜景に戻し、しばらくのんびり外を眺める。窓ガラスにこちらに向かってくる清虎の姿が反射して映り、心臓が大きく高鳴った。
「すまん、遅なった」
「全然平気。もっと時間かかると思ってた」
清虎がふわりと笑う。
久しぶりに見た優しい笑みに、陸の目は釘付けになった。
清虎はウェイターに「ウイスキーのハーフロック」と告げ、陸の向かい側に座った。
「銘柄はいかがいたしましょう」
「マッカランがあればそれで。なければお任せします。陸は? もうグラス空きそうやん。もう一杯くらい飲んだら」
「そうだね。じゃあ、グラスワインの白をお願いします」
オーダーを済ませウェイターが下がると、急に気恥ずかしくなる。手持ち無沙汰を誤魔化すように、陸は意味もなくグラスの中に残るワインをくるくる回した。
「陸はワインが好きなん?」
「本当はジントニック頼もうとしたけど、ライムが傷に沁みそうだからこっちにした。ワインも好きだけどね」
「ふーん」
ソファに深く腰掛ける清虎の視線が、陸の頬に向く。
「それ……痛む?」
「もうそんなに痛くない。ワインも沁みなかったよ」
大丈夫と言うように、残ったワインを飲み干した。ほどなくして、二杯目のワインとウイスキーが運ばれてくる。
グラスは合わせず、軽く杯を持ち上げるだけの乾杯をした。
互いに会話の糸口を探すような、何となく気まずい空気が流れる。
何から話そうか思案していると、沈黙に耐えきれなくなったように首筋をさすりながら、清虎が大きなため息を吐いた。
「俺な、こう見えても大衆演劇の世界じゃ、そこそこ名前知られるようになってきてん。妖艶やとか魔性やとかミステリアスやとか、みんな芝居めっちゃ褒めてくれんねんけど……。なんや、陸見とったら自信なくなってくるわ」
唐突に話し出す清虎に、陸は目をパチパチさせる。
「え、どういうこと。何で俺を見ると自信なくすの」
「だって俺、陸にあないなコトしたやんか。そんでも陸は次に会うた時、少しも表情変えんで、しれっと仲良う手ぇつないで恋人と来よるし。かと思えば、今日は遠藤さんと一緒やろ、訳わからん。挙句の果てには、俺に向かって好きやって言う。ホンマ何なん? どんだけ俺のこと翻弄する気や。俺、悪女の役やることなったら、陸を参考にさせてもらうわ。ホンマの魔性って、陸のことやで」
清虎は、ヤケ酒のようにウイスキーを喉に流し込んだ。陸は首を傾げ、少しムッとした表情を作る。清虎を翻弄したとは心外だ。
「清虎が何言ってんのかわかんない。俺、次に会った時、凄く動揺してたよ。それから、何度も言うけど深澤さんは恋人じゃない。じゃあ逆に聞くけど、何で同窓会の時、零の姿で会いに来たんだよ」
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