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結婚に向けた段取り ミラの場合
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「隣国でお願いします」
消え入りそうな声で姉のエレノア・フォードオーロラ・ウィンドハットが答えた。
「聞こえないわ。もっとはっきり仰ってくださるかしら?」
私は髪の毛を掴まれて血たらだけにされて崖から谷底に突き落とされたことを忘れてはいない。突き放すように姉のエレノアに言った。あの時の記憶を思い出すと苦々しいことこの上ない。
「隣国でお願いいたします。そ・れ・か・ら・ご・め・ん・な・さ・い!大変申し訳ございませんでしたっ!」
姉はそれからの後を一言ずつ区切るように大声で私に言った。ひれ伏そうとして、私の髪の毛をつかまれているので引っ張られて「うぅっ!」と叫びながら言った。
「そう。わかったわ。二度としないでね」
私はそういうと、姉のエレノアの髪の毛から手を離した。
「お姉様、わたくしミラ・フォードオーロラ・ウィンドハットがこの国の女王となります。お姉様はお隣のクロムウェー国の王妃様として、第一王子と末長くお幸せに暮らしあそばせ。我がグレートバーデー国は第三皇女の私にお任せいただきたいわ。良いですわね?」
私の気持ちは固く決まっていた。
「時々、お姉様にお手紙を書いて差し上げるわ。お姉様からは何もいただきたくありませんけれど。隣国では愚かな振る舞いをなさらない方がよろしくてよ。離縁されてもお姉様の戻る場所はこの国にはありませんから。嚇すようですけど、本当のことですわよ。私結構こう見えて頑固ですの」
姉のエレノアは固く唇を噛み締めていた。けれども、自分が何を妹にしたのかを忘れたわけではあるまい。
「あぁそれから、お姉様。私だけが製薬魔法や回復魔法ができるわけではございませんわ。第八騎士団全員が出来ますのよ。誰でもできることになぜめくじらを立てる必要があったのか、よーく心に聞いてみてくださいな。道中船旅も陸路もありますし、長い旅になりますから時間はたっぷりございますわ」
私がそれだけ言うと、第八騎士団のリズが剣を持って姉のエレノアを立ち上がらせた。
「あなたから、この国のミラに任せるという布告をなさい。良いですわね?」
リズは姉のエレノアの首に剣を差し向けて迫った。
「わかりました。すぐにそうします」
姉のエレノアがそう告げたと同時に、山の麓から従者数人が駆け上がってきた。
「エレノア様っ!大変でございます!隣国の第一王子からの使者で、エレノア様を是非に妻にとのことでございます!」
従者は息せき切って姉のエレノアのところまで駆け寄ると、ひざまずいて告げた。
「まぁ、本当なのね……」
姉のエレノアは満更でもない表情でつぶやいた。クロムウェー国は海に囲まれたそれほど大きな国ではなかったけれども、豊かな国だ。第一王子は第二王子には劣るけれども、大層な凛々しいお方と評判でもあった。
――姉が永久就職して満足するには、勿体無いぐらいに素晴らしい縁談だわっ!もうこれで私に未練はなくなるだろう。この国への執着を捨てれるのではないかしら?
私は円深帝の見事な手腕に感心した。
――姉がしでかしたことは許せないけれど、私が円深帝と末長く幸せに暮らしていくには、姉が隣国で満足に暮らしてくれる方が私たちにとっては良い結果を生むわ……
「わかりました。すぐにお受けするとお返事をするわ。この国は妹である第三皇女ミラに引き渡すことも宣言します」
姉のエレノアの言葉に従者たちは驚愕したような表情を浮かべたが、私がじろっと従者たちを一瞥すると、何も言わずに「ははっ!」と告げてひれ伏した。
「では、お姉様。私は明日の夕刻には城に参りますので、それまでに女王を私が担う件について抜かりないように準備を進めておいてくださいね」
私たちが人の姿でいるのは限界に近づいていた。急いでこの人たちの前から姿を消さなければならない。
「助けに来てくれてありがとうございます、円深帝」
私は隣でニコニコと私の様子を見守ってくれていた円深帝を見つめた。
「いいえ、どういたしまして、私の妻よ」
円深帝がそうささやくと、私は顔から火がでるほど恥ずかしくなって照れてしまった。
「あの守っていただいた第八騎士団の大聖堂で、明日結婚式をあげても良いですか?」
私は円深帝に聞いた。大好きな円深帝と一刻も早く正式な夫婦になりたいのだ。
私の言葉に今度は円深帝が顔を真っ赤に染め上げた。
ジョシュアがそっと円深帝の肩を抱き「おめでとうございます」とささやいて、第八騎士団のメンバーがドッと私と円深帝の周りを取り囲んだ。
グレースは私の耳に小声で「花嫁衣装は大聖堂ので良いのかしら?」と聞いてきて、私は「それでいいの」とうなずいた。
「お姉様、私は夫と結婚式を挙げますので、明日は夕刻より少し遅れて夜間際にいきます」
私は晴れやかな笑顔を浮かべて、姉のエレノアに告げたのであった。エレノアは「もう結婚するの?」と言いたげな表情で私を見つめたが、何も言わなかった。
――いえ、お姉様には何も言わせませんわっ!私は好きな方と一刻も早く一緒になりたいのですからっ!
私は心の中で力強くそう思った。
消え入りそうな声で姉のエレノア・フォードオーロラ・ウィンドハットが答えた。
「聞こえないわ。もっとはっきり仰ってくださるかしら?」
私は髪の毛を掴まれて血たらだけにされて崖から谷底に突き落とされたことを忘れてはいない。突き放すように姉のエレノアに言った。あの時の記憶を思い出すと苦々しいことこの上ない。
「隣国でお願いいたします。そ・れ・か・ら・ご・め・ん・な・さ・い!大変申し訳ございませんでしたっ!」
姉はそれからの後を一言ずつ区切るように大声で私に言った。ひれ伏そうとして、私の髪の毛をつかまれているので引っ張られて「うぅっ!」と叫びながら言った。
「そう。わかったわ。二度としないでね」
私はそういうと、姉のエレノアの髪の毛から手を離した。
「お姉様、わたくしミラ・フォードオーロラ・ウィンドハットがこの国の女王となります。お姉様はお隣のクロムウェー国の王妃様として、第一王子と末長くお幸せに暮らしあそばせ。我がグレートバーデー国は第三皇女の私にお任せいただきたいわ。良いですわね?」
私の気持ちは固く決まっていた。
「時々、お姉様にお手紙を書いて差し上げるわ。お姉様からは何もいただきたくありませんけれど。隣国では愚かな振る舞いをなさらない方がよろしくてよ。離縁されてもお姉様の戻る場所はこの国にはありませんから。嚇すようですけど、本当のことですわよ。私結構こう見えて頑固ですの」
姉のエレノアは固く唇を噛み締めていた。けれども、自分が何を妹にしたのかを忘れたわけではあるまい。
「あぁそれから、お姉様。私だけが製薬魔法や回復魔法ができるわけではございませんわ。第八騎士団全員が出来ますのよ。誰でもできることになぜめくじらを立てる必要があったのか、よーく心に聞いてみてくださいな。道中船旅も陸路もありますし、長い旅になりますから時間はたっぷりございますわ」
私がそれだけ言うと、第八騎士団のリズが剣を持って姉のエレノアを立ち上がらせた。
「あなたから、この国のミラに任せるという布告をなさい。良いですわね?」
リズは姉のエレノアの首に剣を差し向けて迫った。
「わかりました。すぐにそうします」
姉のエレノアがそう告げたと同時に、山の麓から従者数人が駆け上がってきた。
「エレノア様っ!大変でございます!隣国の第一王子からの使者で、エレノア様を是非に妻にとのことでございます!」
従者は息せき切って姉のエレノアのところまで駆け寄ると、ひざまずいて告げた。
「まぁ、本当なのね……」
姉のエレノアは満更でもない表情でつぶやいた。クロムウェー国は海に囲まれたそれほど大きな国ではなかったけれども、豊かな国だ。第一王子は第二王子には劣るけれども、大層な凛々しいお方と評判でもあった。
――姉が永久就職して満足するには、勿体無いぐらいに素晴らしい縁談だわっ!もうこれで私に未練はなくなるだろう。この国への執着を捨てれるのではないかしら?
私は円深帝の見事な手腕に感心した。
――姉がしでかしたことは許せないけれど、私が円深帝と末長く幸せに暮らしていくには、姉が隣国で満足に暮らしてくれる方が私たちにとっては良い結果を生むわ……
「わかりました。すぐにお受けするとお返事をするわ。この国は妹である第三皇女ミラに引き渡すことも宣言します」
姉のエレノアの言葉に従者たちは驚愕したような表情を浮かべたが、私がじろっと従者たちを一瞥すると、何も言わずに「ははっ!」と告げてひれ伏した。
「では、お姉様。私は明日の夕刻には城に参りますので、それまでに女王を私が担う件について抜かりないように準備を進めておいてくださいね」
私たちが人の姿でいるのは限界に近づいていた。急いでこの人たちの前から姿を消さなければならない。
「助けに来てくれてありがとうございます、円深帝」
私は隣でニコニコと私の様子を見守ってくれていた円深帝を見つめた。
「いいえ、どういたしまして、私の妻よ」
円深帝がそうささやくと、私は顔から火がでるほど恥ずかしくなって照れてしまった。
「あの守っていただいた第八騎士団の大聖堂で、明日結婚式をあげても良いですか?」
私は円深帝に聞いた。大好きな円深帝と一刻も早く正式な夫婦になりたいのだ。
私の言葉に今度は円深帝が顔を真っ赤に染め上げた。
ジョシュアがそっと円深帝の肩を抱き「おめでとうございます」とささやいて、第八騎士団のメンバーがドッと私と円深帝の周りを取り囲んだ。
グレースは私の耳に小声で「花嫁衣装は大聖堂ので良いのかしら?」と聞いてきて、私は「それでいいの」とうなずいた。
「お姉様、私は夫と結婚式を挙げますので、明日は夕刻より少し遅れて夜間際にいきます」
私は晴れやかな笑顔を浮かべて、姉のエレノアに告げたのであった。エレノアは「もう結婚するの?」と言いたげな表情で私を見つめたが、何も言わなかった。
――いえ、お姉様には何も言わせませんわっ!私は好きな方と一刻も早く一緒になりたいのですからっ!
私は心の中で力強くそう思った。
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