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初めての夜へ ミラの場合

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 ワールドツアーはいよいよ最終局面を迎えていた。ロンドン公演に続き、パリ公演も大成功が続いていた。結婚式の後、私たちは急いで結界を通じて戻り、コンサートの開幕に間に合った。

 グレースとジョシュアの人気が凄まじい。二人の歌の魅力に世界中が夢中のようだ。

 メロンも結婚式に出てくれていたのだが、私と円深帝が結婚しても金塊の契約が減額されるわけではないと説明されても平然としていた。

「自信があるのですっ!円深帝!我々は必ずや金塊の契約を果たせると思います」

 メロンは地味なスーツ姿に丸メガネをずり上げて、数字を弾いて円深帝に見せていた。

「素晴らしい」

 円深帝はそう満足げに呟くと、舞台袖から客席をのぞいて深いため息をついていた。

「長い旅路でしたね。しかし、私はこんな素敵な妻が自分にできるとは思いもしなかったです」
「グレースのことは諦めがつきましたか?」

 私は思い切って聞いてみた。まだグレースに未練があると分かれば、嫉妬もするし、覚悟はしていても傷ついてしまう。

「いえ、キッパリそれは諦めてあり得ませんから。私にはこんなに魅力的な妻ができたのですから。我々はもう夫婦なのです。私は100%あなたに自分が恋をしていると悟って、式をあげました」

「そうなんですかっ!式の前にお聞きしたかったですけど、今聞けてとても嬉しいです」

 私は胸の奥から温かい幸せが込み上げてくるのを感じた。

「では、メロンに頼んで私の部屋はアップグレードしていただきましたから。スイートルームに円深帝もいらしてください。我々は夫婦なのですから夜は一緒ですよ」

「な…な…な…なぜそんなに急ぎますか」

 円深帝は真っ赤に頬を染め上げてしどろもどろになった。

「式の前に私に恋をしていると悟って、挙式をあげてくださったんですよね?ならば、我々夫婦の間にゆっくり進むという選択肢は不要ですよね?」

 私は畳み掛けるように円深帝につめよった。

「睡眠を取るだけですわ。他に何がございますの?」

 私はとぼけて円深帝に平然と言った。目を激しくしばたかせた円深帝は「は…はい」とうなずいた。

「では、コンサートが終わった後に夕食を食べにいらしてくださいな。披露宴ができませんでしたので、せめてご馳走いたしますわ。メロンに許可はいただきましたのよ」

「なるほど…祝いの席ですね。承知いたしました。良夜も祝いたいとのことなので連れて行っても良いでしょうか?」
「良夜はごめんなさいっ!明日、全員お呼びしますから、今日は遠慮なさってくださるかしら?」

 私は空気を察してくれない円深帝にいらいらとしながら言った。

「わかりました」

 私たちはこうして、スイートルームで二人だけでお酒をいただいてお祝いの食事をして、ふかふかのベッドで二人仲良く就寝した。清く正しい結婚生活がこうして始まったのだ。

 ――これから甘くなれば良いわ……。戴冠式が終わってお姉様が嫁入りに出発した後に甘さを享受できれば良いわ。


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