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第31話 山まで薬草採取に行こう

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 山はそれ程高くは無いが木々が生い茂っている。人があまり踏み入らないようだ。

 遭難……する事はスキルのおかげでないけれど、慎重に進もう。

 何かを示すマークを避けようと迂回する。

 ……避けてるはずなのに近付いてくる!

 まだ戦闘経験は無いから恐怖を感じる。

 隠れていても僕の位置を読んでくる相手なので、不意打ちされるのも怖いので少し開けた場所で片手剣を構える。森だと長さが邪魔になると思って選んだけれど大丈夫かな……盾くらい持ってくればよかった。

 左の方でザザッと木々が切り裂かれる音がした。

 ……来る!!

『ニコ! どれだけ我を待たせるのだ!!』

 ん? 狼!? しかも喋っている!?

 目の前に現れた狼? は僕の知っている動物園の狼の四倍以上の大きさで毛並みは真っ白だった。

 これは……『鑑定』!

〉フェンリル:この国の厄災の一つ。愛称「ヴィト」。寂しがり屋。

 ん? フェンリル! 神話に出てくるモンスター!?

 ゲームだと後半に出てくるボスクラスだよ!

 やばい……え? 愛称「ヴィト」?寂しがり屋?

 もしかすると……。

「ヴィト! ごめんね! なかなかこれなくて!」
「ニコ! 悪いと思うなら勝負だ!!」

 やはり「ニコ」の知り合いだ。

 でも、「勝負」って? もしかして戦うの!?

 狼なのにニヤリと笑ったような顔をして目にも止まらない速度で突撃してくる!!

 スキル『思考加速』、『心眼』そして『並列思考』!

 フェンリルが目の前で爪を振り上げる。でも、スキルのおかげで止まるわけでは無いけれどゆっくりとした動作に見える。でも、僕ではどう剣で捌けばよいか、分からない。

『呑気な僕、僕に任せろ』
「クールな僕、やる気だね!」
『たまにはちゃんと役に立ってあげないとね』

 ガンッ!!

 ヴィトが振り下ろした爪を剣で受け止める。

 僕自身はただ見ているだけの感覚で身体が勝手に動いてる感じだ。

 その後は噛みついてきたり、炎を吐いたりしてきたが、それらは全てかわす事が出来た。凄い、並列思考の自分。
 
 でも……、

「僕、剣の使い方なんて知らないのだけど?」
『今までの知識を総動員すればいいんだよ』
「そうか、前世の知識が役に立っているのかな?……本体の僕自身が役立ててないのに……」
『だから呑気なんだと言っているんだけど?』
「……そうだね。でも、今はよろしくね!」

『任された』

 剣を繰り出す。かわされても魔法を繰り出す。僕の魔法、結構な威力あるんだね。

 炎は水魔法でかき消し、爪は土魔法で瞬時に壁を作り守る。その壁の後ろから風魔法の刃を飛ばす。

 ヴィトも俊足で攻撃をかわしながら爪と牙、フェイントで尻尾で攻撃をしてくる。炎も威力が強く脅威だ……でも、このままでは火事になるからね!

 そんな応酬が数十分続き、剣や魔法ではなく、飛び蹴りで決着が着いた。
 切りつけないのは優しさだね、さすがクールな僕。

『傍観者の僕、どうだった?』
「すごかった! でも今の僕では無理だよ」
『身体は動くんだからそのうち出来るようになるさ。じゃあ後はよろしく』

 「ありがとう」という前に「もう一人いる」感覚が消えた。
 出来るようになるって……頑張らないといけないね。


 そして地面に横倒れているヴィトは息も絶え絶えだ。

『相変わらず強いな……ニコ……負けたが……嬉しいぞ』

 負けて嬉しいのか、嬉しいついでに『回復』をかけてあげよう。

『……前は魔法を使わなかったのは余裕のなせる技か』

 前のニコが魔法を使えなかっただけなんだけどね。

「ヴィトは強いね」

 回復終わり。

『それはそうだ。なんと言ってもこの国の厄災と呼ばれているんだからな』

「そうだね。本気出されたら勝てないよ」

 遊びのはず。厄災なんて災害級相手に勝てるわけがない。

『……人間の好きな謙遜ってやつだな』

「謙遜なんてしていないよ。でも、僕も会えて嬉しいかったよ!」

 最初に出会えた魔獣が伝説級モンスターだからね!

『そうか。それなら良かった……我だけかと思ったぞ。それで、今日はまた薬草か?』

 話が早い!

「うん。『狼仙葉ろうせんよう』を少しだけ欲しいのだけれど」

『うむ。では背に乗れ。連れて行ってやる』

 狼の背、狼じゃないけど憧れのシチュエーション!

「ありがとう。ヴィト!」

 文字通り「飛ぶ勢い」だった。


 山の頂上近くの洞穴がヴィトの棲み家で、その周囲に薬草が生えていた。念の為『鑑定』!

〉狼仙葉:気付け薬としては最上級。臭いが強いので注意!

 狼の住処に生息しているから「狼」って文字が付いているんだろうね。実際はフェンリルだけど。

 そして確かに臭いがきつい! 植物なのに獣臭がする! ヴィトには悪いけど長くは居られない!! ……でも友達だから頑張る!

「ヴィト……ありがど……?」

 長くは話せない!

『うむ。前も採取する時はそんな話し方していたが人間の流儀か何かなのか?』

「ぢがう……よ゛」

 うん、違うよ。ヴィト。でも、限界!

 そして麓までヴィトに乗せてもらった。
 別れ際に「また直ぐに来るのだぞ!」と釘を刺された。住処以外でまた会おうね。

 ヴィトと別れた後、リュックの中に小さいけれどかなり丈夫そうな箱があったのを思い出した。
 箱の内に少しだけ狼仙葉の臭いが残っている。専用の収納ケースだったみたい。
 それにしても、ケースの中に魔鉱石が埋め込まれているからおそらく臭い消しの機能があるのだと思うけれど、消しきれていないって……すごいね。

 ……そういえばヴィトの背に乗った時に臭わなかったのはすごく謎だ。今度会った時に聞いてみよう。


 森を駆け抜けて街に戻ってきた。

 もう夕方だ。早く納品に向かおう!


 ……白いもふもふ……また会いたいな。
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