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第五章 覚醒める拳士
第五節 罵 倒 刑
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加瀬と島田は、スナック“わかば”から治郎といずみを連れ出して、ぐるりを高い木々で囲まれた公園にやって来た。
そこで治郎は、彼らが持ち歩いていたSMグッズの手錠を掛けられ、背の高い鉄棒に拘束されていた。両腕を横棒に上から絡ませられて、両手にそれぞれ手錠を付けられ、反対側を鉄棒に引っ掛けられている。
その治郎に、島田が暴行を加えていた。
顔を殴り、腹を蹴り、膝を入れたり、肘を落としたり。
そのたびに鉄棒が激しく振動し、治郎の身体に打撃以上のダメージが蓄積されてゆく。
治郎は島田に噛み付いてゆこうとするのだが、そうすると島田は自分の間合いからも離れて嘲笑を浮かべ、喧嘩仕込みのパンチやキックで治郎をいたぶった。
治郎の顔は昨夜以上に紫色に腫れ上がり、口の端から血をこぼしていた。
だが、どれだけいたぶられようとも、治郎の眼から陰湿な黒い光が消える事はなかった。寧ろ、一発顔を殴られ、腹に爪先をねじ込まれるたび、その瞳は深く沈みながら、鉄鉱石の冴えを見せ付けるようであった。
「生意気な奴だ」
島田は弛んだ頬を震わせて、吐き捨てた。
普通、こんな目に遭わせられた人間は、眼に涙と共に怯えを湛え、全身を使って暴行の停止を懇願し、小便や糞を漏らして懺悔する。例え自分に一切の非がなくとも、それ以上の暴力を回避するべく、ありもしない罪を謝り、生命存続の許可を訴える。
目的が金品などの物質的報酬でなかったり、単に嗜虐心を満足させる為ではなかったりする場合には、これで加害者側が精神的に満悦して留飲を下げ、それ以上の攻撃をやめるのだ。
しかし治郎は、金品を差し出すでもなく、彼我の善悪を考慮せずに黒々と陰湿な眼のまま、絶対的に有利な暴力者を睨み付けているのだ。
対等な戦力の場合は、それで良い。今、治郎と島田は対等ではなく、誰が見ても明らかな力の上下関係が構築されている。そういう時にそういう眼をすればどうなるのか、高校生までなったのならば分かっていて当然だ。
媚びて、おもねり、泣き喚いて、助命を願う。
治郎の頭の中には、そんな言葉も行為も、全く存在していないようであるらしかった。
それが、暴力によって他者を虐げる事を日常として来た島田には、気に入らない。
気に入らないから、余計に力が入ってしまう。
顔を、胸を、肩を、腹を、殴り、蹴り、叩きのめす。
「この、餓鬼が!」
島田は治郎を罵倒した。
「俺たちの事を舐めやがって」
「屑め」
「死ね!」
「口も利けないくせに」
「てめぇは産業廃棄物だ!」
「不細工が」
「お前に生きる価値なんか、ねぇんだ!」
島田は息さえ荒らげて、口汚い言葉を吐き出し、治郎を痛め付ける。
その様子は、加瀬さえ首を傾げるくらいであった。島田は自分などと比べると落ち着いた性質の人間であり、反乱分子であるとは言え学生相手にここまで血の気を多くする事は滅多にない。それがこのようになっているという事は、それだけ治郎に、他者を苛立たせる要素が集中しているという事であろう。
それはそれとして、加瀬は治郎が嬲られるのを見ていて、嫌な気分ではなかった。そしてもう一つ、彼を匿ったいずみが、治郎が暴力を振るわれるたびに自分の事のように悲鳴を上げるのも、見ていて楽しいものであった。
「やめて! 加瀬さん、やめさせて下さい! お願い……お願いだから、もうやめて‼」
公園には、中央に大きな桜の樹があり、円周にはベンチが適当な感覚で並べられている。そして入り口から見て、桜の樹から向こうに遊具が集中しており、手前にジャングルジムと滑り台が向かい合い、雲梯、登り棒、鉄棒、これらの最奥にブランコがあり、周辺にスプリング遊具が点在する。
加瀬はいずみに対しても、同じように手錠を一つずつ掛けた。そして反対側を雲梯の、地面と平行になった梯子部分に、間隔を広げて引っ掛けている。
いずみは、両腕を斜め上に引っ張り上げられ、足の爪先が地面と着かず離れずの高さになるように拘束されていた。
腕に血が昇らず、力も入らない筈だ。肩が外れてしまいそうな痛みを覚えている。しかもいずみの体重を支えているのは手錠だけであり、これが手首に喰い込んで血流を圧迫していた。
「お願いします、もうやめて……それ以上やったら、治郎くん……死んじゃう……お願いします、お願い、もうやめて、もう許して……」
いずみはハスキーボイスを、更に掠れさせた。アイラインが溶けて、黒い涙をこぼしている。元から良く笑う女で、その笑顔には加瀬も童心に返る思いであった。
だが、暴力に身を置き、穢れた大人へと成長した加瀬は、例えるなら学生時代、隣の席で朗らかに笑う元気なクラスメイトの、その明るさが酷烈な虐待によって掻き消されて現れる歪んだ表情を見て、股間を膨らませていた。
「随分と入れ込んでいるじゃねぇか。お前が年下趣味だとは知らなかったぜ」
加瀬はいずみに歩み寄ると、髪の毛を掴んで顔を引っ張った。頭皮を毟られるような痛みに顔を顰めながら、鼻先が触れ合う距離まで近付いて来る加瀬に、いずみは眉を八の字にした。
「お願いします、加瀬さん……治郎くんは、もう許してあげて……私には、何をしても良いから、お願い、あの子は許して下さい……」
「何をしても? 面白い事を言うんだな」
加瀬はふんと鼻を鳴らし、いずみのボディコンの胸元に手を突っ込むと、ブラジャーごと引き摺り下ろした。加齢と、風俗時代の酷使のお陰で少しばかり垂れがちながらも、天性の大きさと柔らかさの乳房の片方が剥き出しにされた。
そこで治郎は、彼らが持ち歩いていたSMグッズの手錠を掛けられ、背の高い鉄棒に拘束されていた。両腕を横棒に上から絡ませられて、両手にそれぞれ手錠を付けられ、反対側を鉄棒に引っ掛けられている。
その治郎に、島田が暴行を加えていた。
顔を殴り、腹を蹴り、膝を入れたり、肘を落としたり。
そのたびに鉄棒が激しく振動し、治郎の身体に打撃以上のダメージが蓄積されてゆく。
治郎は島田に噛み付いてゆこうとするのだが、そうすると島田は自分の間合いからも離れて嘲笑を浮かべ、喧嘩仕込みのパンチやキックで治郎をいたぶった。
治郎の顔は昨夜以上に紫色に腫れ上がり、口の端から血をこぼしていた。
だが、どれだけいたぶられようとも、治郎の眼から陰湿な黒い光が消える事はなかった。寧ろ、一発顔を殴られ、腹に爪先をねじ込まれるたび、その瞳は深く沈みながら、鉄鉱石の冴えを見せ付けるようであった。
「生意気な奴だ」
島田は弛んだ頬を震わせて、吐き捨てた。
普通、こんな目に遭わせられた人間は、眼に涙と共に怯えを湛え、全身を使って暴行の停止を懇願し、小便や糞を漏らして懺悔する。例え自分に一切の非がなくとも、それ以上の暴力を回避するべく、ありもしない罪を謝り、生命存続の許可を訴える。
目的が金品などの物質的報酬でなかったり、単に嗜虐心を満足させる為ではなかったりする場合には、これで加害者側が精神的に満悦して留飲を下げ、それ以上の攻撃をやめるのだ。
しかし治郎は、金品を差し出すでもなく、彼我の善悪を考慮せずに黒々と陰湿な眼のまま、絶対的に有利な暴力者を睨み付けているのだ。
対等な戦力の場合は、それで良い。今、治郎と島田は対等ではなく、誰が見ても明らかな力の上下関係が構築されている。そういう時にそういう眼をすればどうなるのか、高校生までなったのならば分かっていて当然だ。
媚びて、おもねり、泣き喚いて、助命を願う。
治郎の頭の中には、そんな言葉も行為も、全く存在していないようであるらしかった。
それが、暴力によって他者を虐げる事を日常として来た島田には、気に入らない。
気に入らないから、余計に力が入ってしまう。
顔を、胸を、肩を、腹を、殴り、蹴り、叩きのめす。
「この、餓鬼が!」
島田は治郎を罵倒した。
「俺たちの事を舐めやがって」
「屑め」
「死ね!」
「口も利けないくせに」
「てめぇは産業廃棄物だ!」
「不細工が」
「お前に生きる価値なんか、ねぇんだ!」
島田は息さえ荒らげて、口汚い言葉を吐き出し、治郎を痛め付ける。
その様子は、加瀬さえ首を傾げるくらいであった。島田は自分などと比べると落ち着いた性質の人間であり、反乱分子であるとは言え学生相手にここまで血の気を多くする事は滅多にない。それがこのようになっているという事は、それだけ治郎に、他者を苛立たせる要素が集中しているという事であろう。
それはそれとして、加瀬は治郎が嬲られるのを見ていて、嫌な気分ではなかった。そしてもう一つ、彼を匿ったいずみが、治郎が暴力を振るわれるたびに自分の事のように悲鳴を上げるのも、見ていて楽しいものであった。
「やめて! 加瀬さん、やめさせて下さい! お願い……お願いだから、もうやめて‼」
公園には、中央に大きな桜の樹があり、円周にはベンチが適当な感覚で並べられている。そして入り口から見て、桜の樹から向こうに遊具が集中しており、手前にジャングルジムと滑り台が向かい合い、雲梯、登り棒、鉄棒、これらの最奥にブランコがあり、周辺にスプリング遊具が点在する。
加瀬はいずみに対しても、同じように手錠を一つずつ掛けた。そして反対側を雲梯の、地面と平行になった梯子部分に、間隔を広げて引っ掛けている。
いずみは、両腕を斜め上に引っ張り上げられ、足の爪先が地面と着かず離れずの高さになるように拘束されていた。
腕に血が昇らず、力も入らない筈だ。肩が外れてしまいそうな痛みを覚えている。しかもいずみの体重を支えているのは手錠だけであり、これが手首に喰い込んで血流を圧迫していた。
「お願いします、もうやめて……それ以上やったら、治郎くん……死んじゃう……お願いします、お願い、もうやめて、もう許して……」
いずみはハスキーボイスを、更に掠れさせた。アイラインが溶けて、黒い涙をこぼしている。元から良く笑う女で、その笑顔には加瀬も童心に返る思いであった。
だが、暴力に身を置き、穢れた大人へと成長した加瀬は、例えるなら学生時代、隣の席で朗らかに笑う元気なクラスメイトの、その明るさが酷烈な虐待によって掻き消されて現れる歪んだ表情を見て、股間を膨らませていた。
「随分と入れ込んでいるじゃねぇか。お前が年下趣味だとは知らなかったぜ」
加瀬はいずみに歩み寄ると、髪の毛を掴んで顔を引っ張った。頭皮を毟られるような痛みに顔を顰めながら、鼻先が触れ合う距離まで近付いて来る加瀬に、いずみは眉を八の字にした。
「お願いします、加瀬さん……治郎くんは、もう許してあげて……私には、何をしても良いから、お願い、あの子は許して下さい……」
「何をしても? 面白い事を言うんだな」
加瀬はふんと鼻を鳴らし、いずみのボディコンの胸元に手を突っ込むと、ブラジャーごと引き摺り下ろした。加齢と、風俗時代の酷使のお陰で少しばかり垂れがちながらも、天性の大きさと柔らかさの乳房の片方が剥き出しにされた。
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