超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第七章 魔獣、集結

第七節 対  峙

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 おっパブ“ゲリラ”で、雅人と紀田勝義が対峙している。

 ブス――という雅人の発言に、紀田の横にいた女が反応を示した。誰だって、そんな事を言われて良い気分になる人間はいない。

 しかし雅人は、その二人に対してブスと言ったのではない。

「てめぇのような奴は、かわいこちゃんを二人も侍らせる資格なんかねぇんだよ」
「俺の顔が醜いからか?」
「そうだ。俺も決して良い面じゃないし、人間性が優れているという訳でもねぇ。でも、てめぇ程、はらわたまで腐り切ってはいないと断言出来るぜ。この、屑が」

 雅人の歯に衣着せぬ言葉に、顔を蒼褪めさせるコンパニオンたち。紀田のこめかみにアルコールの所為で浮かび上がった血管が、更にぴくぴくと跳ねていた。

「言うじゃねぇか。俺が誰だか分かっているのか」
「分かっているから来たんだ」
「ふ……桃城の奴をやっただけはあるな。ただの自信家ではないらしい……」

 紀田勝義はそう言うと、両脇の女をその場からどかせる所か、逆に胸の前まで抱き寄せた。そうして自分のシャツの胸元を開けさせると、体毛の茂った胸板からこぼれる分厚い脂肪の両端を、女たちに舐めるよう指示を出した。

 脚の間の女は、相変わらず紀田の逸物を口に含んでいる。

「その通りだ。俺は醜い。性格だってよかないさ。だが、金がある。暴力ちからがある。だから女を従える事が出来る。どんなに顔の良い男だって、チンポが小さかったら意味がねぇし、お前がどれだけ強かろうが、金がなくっちゃ不細工は相手にして貰えねぇぜ」

 紀田勝義は雅人に見せ付けるようにして、二人の女の唇を交互に吸った。そして脚の間の三人目に立ち上がるように指示をすると、局部だけを隠していた紐のような衣装を横にずらさせた。

 三人目の女は、雅人に向かって尻の孔を広げながら、ガニ股になって紀田勝義に跨った。

 ――巧いな。

 雅人は、紀田が自分の言葉を理解していると分かった。女をどけるように言ったのは、紀田と戦う為だ。

 しかし紀田は、女を自分の身体の前にやって、肉の盾にしている。雅人が非情なヒットマンではない事を見抜き、自分が金で買った女を人質にしているのだ。

「口数が減ったな。今度は俺から話してやろう。お前、一体何者で、何が目的だ? あの女を匿って何を企んでいる? 何故、俺の事を狙う? 見た所、警察か何かじゃないようだが……」
「あんたを狙う理由は二つある。一人は、あんたが女を殺した映像を奪った女を守り、あんたの悪行を世間に公表し、そしてあんたを警察に突き出してやる為だ」

「俺は殺しちゃいない。あの女は勝手に死んだんだ」
「……その事で言い争いをするのは無駄だろうな。そしてもう一つは……」
「美野秋葉の復讐という所か。それとも、渋江杏子とかに頼まれたか」
「それは一つ目の理由だ。もう一つは俺の個人的な望み……あんたと戦い、倒したいからだ」
「何故だ?」

「あんたが暴力で身を立てた人間だという事は、あんたを知る人間ならば誰だって知っているだろう。あんたがそれだけ強いという事だ。俺は、俺より強いかもしれない人間がいると聞くと、どうにも我慢ならなくてな。どっちが強いのか? 白黒付けたくなる性質なのさ」

「それだけか? 俺の今の地位が欲しいとか、大金が欲しいとか、女が欲しいとか、そんな理由ではないのか?」
「地位も金も女も、俺には無用の長物さ。分かったらさっさと女をどけろ。そして俺と戦え。これ以上てめぇと話していると、こっちの脳みそまで腐りそうだ」

 雅人が吐き捨てるように言うと、紀田勝義は豪放に笑った。

「悪いが坊や、お前の望みは一つも叶わねぇ……」
「ほぅ……」
「先ず一つ、俺はお前なんかにゃ敗けないからだ」
「最初は誰だってそう言うのさ」
「次に、既にあの映像を奪いに俺の用心棒が動いている」
「何だと……」
「早くしないと、お仲間たちが大変な事になるぞ。尤も、橋の下で幾ら死体が転がろうが、警察が動いたりはしないだろうがな」
「……てめぇ!」

 雅人はすぐにでも、紀田の醜い顔面に拳をぶち込んでやりたかった。しかし紀田はコンパニオンの身体を自分に乗せており、下手な攻撃では何の罪もない女に重傷を負わせかねない。

 雅人は舌打ちすると踵を返し、“ゲリラ”の出口へ向かった。

 だがその出入り口の前に、さっきの黒服も含めた三人が立っており、何れも拳銃を構えていた。

 銃口に怯まず接近する雅人に、中央の黒服が発砲した。

 雅人はその瞬間、爪先で銃を持った手を蹴り上げた。発射された銃弾は天井に突き刺さり、淫蕩な光を放っていた照明器具を破壊した。

 雅人と紀田勝義の遣り取りなど知らない他の客やコンパニオンたちが、銃声に混乱する。

「こいつ!」
「死ね!」

 最初の黒服は、雅人の蹴りで手の指を折られていた。残る二人が、左右に展開して挟撃しようとする。

 雅人は先ず、右側に走った男を追うように身体を回転させた。左方から床に飛び込むような斜めの回転を決めると、鉄のような右の踵が男の鼻骨を砕いてめり込んだ。浴びせ蹴りだ。

 腰をひねって、この蹴り足を三人目の黒服の手前に着地させると、床を手で叩いて加速し、下からすり上げるようにして左足が相手の股間に潜り込んだ。

 丸太のような金的蹴りを炸裂させられ、その場にへなへなと倒れ込む黒服。

 雅人はそのままの勢いで立ち上がり、“ゲリラ”から飛び出した。
 その後ろ姿を、紀田勝義がにやにやと見据えていた。
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