超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第十章 復活祭

第二節 青蓮院純、容赦なし

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「こっちを、見ろッ!」

 蛟が純に飛び掛かる。
 天井に届くくらいの跳躍を見せ付けた蛟は、若者たちを相手にしていた冷静な表情を、復讐に燃える憤怒相に一転させている。

 床に突き刺さるような跳び蹴りを、純が後退して躱す。
 その背後で、若者たちがエレベータに避難しようとしていた。

 着地した蛟は顔を上げると、

「逃げるな、小僧共!」

 烈火の如く叫んで、右手を前に突き出した。
 その爪が、どういった原理であるのか分からないが、いきなりに指先から剥がれ落ちて、そして飛翔した。

 爪は若者たちの内、何人かの後頭部やうなじ、背中に突き刺さり、そうでなかった者も腕や足、顔に傷を付けられてしまう。

「貴様ら、逃げられると思っているのか?」

 蛟が言った。

 純が駆け出す。
 蛟の顔へ向けて、右のパンチを繰り出した。

 蛟はスウェーバックでこれを躱し、重心が下がった所で床を蹴って腰をひねる。
 身体が床と平行に回転し、右の踵が跳ね上がって純の腕を狙った。

 純は咄嗟に拳を引き戻したが、蛟の右足は回避したものの、左脚を腕に絡ませられてしまう。
 純の左腕を左膝の裏に挟んだ蛟は、身体を支える右手で床を叩いて上体を跳ね上げ、右の爪先で純の側頭部を抉ってやろうとした。

 純が右の足刀を、蛟の股間に振り下ろした。

「げおっ」

 蛟の身体が床に落ちる。白いサルエルパンツの中心から、赤い染みがじんわりと広がった。

 純は追撃のストンピングを狙うが、蛟はバック転で立ち上がると、ガラスの壁際まで後退する。

「相変わらず、容赦をしない人だ」

 蛟は、いつかの篠崎治郎のように睾丸を、しかも彼よりも強く破壊されたのに、痛みを顔に出さなかった。寧ろ、それまで怒りで猛っていた表情が、冷静さを取り戻したようだった。

「早く逃げるんだ」

 純は振り向かずに、若者たちに言う。

「爪を喰らった者とは、なるべく、別行動を採るようにした方が良い」
「警告とはお優しい事で。でも残念ですが、彼らは初めからその心算で来たのですよ」

 そうでしょう――と、蛟はエレベータに乗り込んだ、気絶させられた者を含む七人の男女に声を掛けた。

「貴方たちは力を――アヴァタール現象を求めて私の許へやって来た。ならば、今更その力を恐れるのも変でしょう」

 蛟は眼を見開いた。眼球に血が絡み、瞳孔が縦長に収縮する。若者たちはエレベータの中で、蛇に睨まれた蛙となって固まってしまった。

 純が、蛟の視線から、若者たちを守るように立ちはだかる。

「余計な手間を増やして欲しくないものでね」

 純は礼服の裾を指先で摘まみ、ドレス姿の女がお辞儀をする時のように、ゆっくりと捲り上げた。
 ベルトの左右に、ホルスターを一つずつ吊り下げている。

 純は裾から指を離すと同時に、両手でホルスターの上部を叩くようにして、床を向いていた先端を蛟に突き付けた。

 刹那、乾いた音が放たれ、蛟に向けて銃弾が発射される。
 蛟が横に逃げると、弾丸はガラス壁に二つの大きな亀裂を生じさせた。

 エレベータの扉が閉まり、若者たちが地上へ戻されてゆく。

 蛟は舌打ちすると、いつの間にか再生していた右の爪を射出した。
 純はその場でバレリーナのように回転し、爪を回避しざまにホルスターから二丁の拳銃を引き抜いており、蛟の右手と、そして持ち上げられようとしていた左手を撃ち抜いた。

「ふんっ……この程度の傷」
「オーヴァー・ロードには何でもない……だろ。知ってるよ」

 両手から血をこぼしながらも、純に突撃しようとする蛟。

 だが、蛟は自分の負傷に違和感を抱いていた。出血はたちまち止まる筈であるが、そうならない――

「だからそいつは特別製だ」

 純が呟いた瞬間、蛟の両手が爆発した。
 純はその場で膝を抜いて、万歳した両手を袖から抜くと、自分の身体に蛟の血液が飛び散らないように礼服を盾にした。

 蛟の、手首から先がなくなっている。うじゅうじゅと赤っぽい血肉が蠢き、焦げ付いた骨が覗いて、硝煙を立ち上らせていた。

「貴様……」

 蛟が、再び眼球に血管を走らせる。
 その全身を、鉛玉が蜂の巣にした。純は礼服のジャケット越しに発砲し、その全てを蛟の身体に命中させたのである。
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