超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第十章 復活祭

第三節 穿孔炸裂弾

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 自ら、幾つもの孔を作った礼服のジャケットを、純は床に放り投げた。
 薬莢を排出した拳銃をホルスターに戻した純は、黒いワイシャツに蒼いネクタイを身に着けた姿となっている。

「何故、再生しない……!」

 蛟は、自分の両手を見て呟いた。

「特別製だと言っただろう。穿孔炸裂弾は回転しながら対象に潜り込むと、返しのある針を展開して停止し、爆発する。この時に弾頭を構成する特殊合金“般若”が細胞の間に充満し、再生を停止する」
「だから何だッ!」

 蛟はかぱっと口を開くと、舌の上に周辺の水分を凝結させて、弾丸を作った。
 水の弾丸が、純目掛けて発射される。

 純は身を低くして躱し、獣のように床すれすれの体勢で蛟に接近、そのまま両手を前について下半身を浮かせた。

 蛟が両腕を、顔の前で交差する。純の左の踵が、腕をクロスさせた部分を強打し、蛟を後退させた。

 純はそのまま蛟の左後ろに移動すると、床に着いた右膝を起点に回転し、左の肘で蛟の膝裏を打撃した。

 バランスを崩しつつも、左の肘を打ち下ろそうとする蛟だったが、純は片膝の姿勢から側転をして立ち上がり、毒針エルボーを踏み止まった蛟の胴体に左後ろ回し蹴りを炸裂させる。

 壁際に追いやられる蛟の胸元を、右の横蹴りが捉え、その背中を亀裂が生じたガラス壁に押し付けた。

「おのれッ!」
「バン」

 純がウィンクをした途端、蛟が背を押し付けられたガラスの壁が爆発した。先程、蛟が回避した穿孔炸裂弾である。

 破裂した弾頭の欠片と、ガラスの破片が蛟の背面にぐさぐさと突き刺さり、さしもの冷血なる美青年も激痛に悶えた。

 その上、純は弾頭爆発の瞬間に右足に力を込めて蹴り出しており、蛟はガラスの破片と共に建物の外に弾き飛ばされる事になったのである。

 六〇メートルの高空に放り出された蛟は、しかし両足を壁面に着いて落下を遅らせ、その場でブリッジをするようにして、手のない手首を壁面に押し付ける。

 そしてバック転のように両足を空中に跳ねさせ、腰の力で壁面に四つん這いになるように持って来た。

 その肘の辺りから、服を突き破り、肉が盛り上がって、複数の蛇が突き出している。蛇は顎を開いて建物の壁を噛み、そうして落下を防いでいるのだった。

「青蓮院、純……!」

 憎々しげに仇敵の名を呼ぶ蛟の口から、ぼろぼろと歯が抜け落ちる。しかしそれは、憎しみを込めて強く噛み締めた故の現象ではない。抜けた歯の後から、ナイフのように鋭い牙が突き出すのである。

 純が、破壊したガラス壁から顔を出して、蛟を見下ろしている。

 蛟は、抜け落ちた歯を、純を狙って、窄めた唇から吹き矢の要領で発射した。

 純が顔を引っ込める。
 その間に、蛟は肘から生えた蛇を両腕に絡ませ、強く締め上げさせた。傷口から血が搾り出されて、水門マリンタワーの壁面を赤く汚してゆく。

 蛟が壁を蹴って、落下を再開した。今度は、足先に地面を睨ませている。
 地上に戻るまでに、蛟の腕が、見るからに細くなっていた。血を絞ったからだ。

 そして着地すると同時に、蛇が、干からびた二の腕を絞り切り、ねじ切った。
 ミイラになった腕が、マリンタワーの根元の芝生の地面に落ちる。

 すると、傷口が瑞々しく蠢動して、骨と筋肉と血管と皮膚とが、指先を含めて再生されるのだった。

「ち――まだ、背中に破片が残っていやがる」

 蛟は毒づくと、上着を脱いだ。
 そして全身に力を込める。女のように華奢な肉体が、見る見るはち切れてしまいそうなくらい、パンプアップしてゆく。

 顔も、皮膚と筋肉の間に水を注入したように、美貌を崩す頬に膨張した。
 蛟の全身が風船で作った人形みたいに、ぶよぶよになってゆく。

 その身体を、蛟が自ら引き裂くと、大量の血が撒き散らされた。

 血の染み込んだ地面に、破り捨てられた分厚いゴム生地に似たものが、はらりと落ちた。その特に面積が大きな部分には、溶けた鉄やガラスの破片がめり込んでいる。

 それは蛟の皮膚であった。

 そして蛟は、内側から真っ赤に染め抜かれてしまったサルエルパンツから、両脚を抜いた。

 血濡れた蒼白い裸身を、夕焼けに晒す美青年――
 その眼は再生の喜びと、復讐への憎悪にぎらぎらと光っていた。
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