未定 ーーたった一度の短き春ーー

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待ち合わせ

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 さわやかな風が吹いている。まるでわたしの背中を押すように、またなにかを誘うようにして強くやさしくわたしの体にまといふんわりとしたやわらかな香りを匂わせながら。新しい春を匂わせながら。


 待ち合わせの路地裏は家から近くであるにも関わらず、そわそわして緊張からなのか、いつもなら気が進まず支度し始めるのにものすごく時間がかかるわたしだがこの日は余裕をもって準備を終え、椅子にすわって足をぶらぶらさせ、携帯の右上のほうををじっと見つめながら時間がくるのを待った。それでもすることがなく携帯を見つめるのにも飽きたわたしは、はやいかなと思いつつも家を飛び出した。今までに味わったことのないきもちで、ふわふわとまるで重力がなくなってしまったみたいだった。想像していた以上に舞い上がってうかれている自分に気づき、ひどく驚いて怖くなり、道中、"落ち着くんだ心配するな、なにも起きないから安心しろ"と自分の心に語りかけながらできるだけゆっくり歩いて向かった。
 だが思った通り、やっぱりはやくついてしまった。約束の時間になったがあの人はまだ来ない。だんだんとうとうあの人と二人で会うのだという現実が頭に押し寄せてきて、いてもたってもいられなくなって行ったり来たりしてみたり待ちくたびれて(といっても8分くらいだが)体育ずわりをして待っていた。携帯で時間を潰そうと一回は開いてみたものの、今あの人がその角を曲がってこの道へはいってくるかもしれないというのに携帯なんてさわっていたらなんて思われるだろう、そう思ったら携帯を閉じていた。
 でもあの人を待っている間の時間はなぜだか不思議とわくわく胸が踊るような思いになったり、心があったかくなったり、いろんな思いが複雑に交ざってとても豊かな気持ちになれた気がした。ひとりたそがれながら目を閉じてやさしい風を体中で感じ、春の空見上げてゆっくりと眺めていた。するとそこに
「遅れてごめん!待った?」
と、馴染みのある声がした。

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