雲生みモックじいさん

おぷてぃ

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第2話『モックじいさんの悩み』

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    モックじいさんはこの仕事が嫌いではありませんでした。
    彼の生んだ雲たちは世界をゆったりただよいながら、雨をふらしたり雪をふらしたり、たまあに雷を落っことしたり。どれもこれも、地上に生きる命にとっては大切なことだとわかっているからです。
    ならどうして、モックじいさんはほかのみんなのように、仕事が楽しくないのでしょう。それにはもちろん、理由がありました。

    家から出てきたモックじいさんがのそのそと向かったのは、庭に置かれた雲を生む装置の前です。ビードロに似た色鮮やかで半透明のその装置は、膨らんだり縮んだりをくり返し、ぽっ、ぽっ、と雲の赤ちゃんを空に浮かべます。
    モックじいさんは、装置の目盛りを確かめて、ノートになにか書き写したり、何十こもあるバルブを開いたり閉じたりしています。

「さあ、行っといで。泣いたり怒ったりのくり返しだろうが、なに……そう悪いもんじゃないだろうよ」

    さっきまでしかめっ面だったモックじいさんも、雲たちを送り出すこのときだけは、ぎこちないものではありましたが、笑顔を見せます。しかしすぐに、その笑顔はまたもとのしかめっ面に戻ってしまいます。なにがそんなに気に食わないのでしょうか。

「ああ、お前たちはそんなに気持ちよさそうにここから旅立つというのに、どうして声をあげて笑ったり喜んだりすることを仕事にさせてもらえんのだろう」

    そうポツリとつぶやいたモックじいさんは、少しのあいだうつむいて、シャツのそでで目元をごしごしとぬぐいました。
    これこそが、モックじいさんの悩みでした。
    彼は自分が生み出す雲たちが、泣いて雨をふらしたり、怒って雷を落っことしたりすることに心を痛めていたのです。いつもしかめっ面なのも、このことばかり考えてしまうからでした。
    モックじいさんは、なにかを思い出したように、ズボンのポケットから一枚のコインを取り出しました。それをぐっと曲げた親指の上に乗せると、勢いよく空中へ弾きました。コインはクルクルと回って、手元へ落ちてきます。それを手の甲にパシンと叩きつけました。

「裏か……うまくいかんもんだ」

    それだけ言って、モックじいさんはまた仕事へ戻りました。コインの裏表にはどんな意味があるのでしょう。
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