雲生みモックじいさん

おぷてぃ

文字の大きさ
4 / 13

第4話『はじめての寝坊とはじめての失敗』

しおりを挟む
    そんなある日、モックじいさんははじめて寝坊をしてしまいました。いつも同じ時間に目覚めるはずなのに、その日にかぎって。
    前の日の晩にブドウ酒を飲み過ぎたのでしょうか。それとも、たまにそうするように、雲たちを思って泣き疲れて眠ったのでしょうか。
    あわてて支度をしたモックじいさんは、朝ごはんも食べずに家の外に飛び出しました。そして装置の目盛りの確認やバルブの開け閉めを大いそぎで行って、レバーをガチャンとおろしました。装置がウインウインと音を立てて動き出します。ほっとひと息ついたモックじいさんは、いつものようにポケットからコインを取り出すと、ピンと空中へ弾きました。
    そのとき、装置から空気のもれるような音がしたかと思うと、パイプの継ぎ目からプシュッとひと筋の蒸気が飛び出しました。おどろいたモックじいさんは、しりもちをつきました。

「あいた!」

    しりもちをついたモックじいさんの目の前を、コインがゆっくりと落ちていきます。それをあわててパチンと両手ではさみました。そして弱りはてました。これでは、どちらの手を下にするかで、裏と表が変わってしまいます。モックじいさんはひとまず深呼吸して、装置のようすを横目で確かめました。
    なんだかいつもとようすが違うように思いましたが、ひとまずは大丈夫そうです。そして、目の前で合わせた両手にふたたび目をやりました。

「弱ったな。どちらを下にしたもんか」

    少しのあいだ考えたモックじいさんは、ふと思いつきました。

「いつもと逆の手を上にしてみようか。ずっと裏だったんだから、今日もきっと裏だろう。なら、反対に向ければいいじゃないか」

    そう言って、コインを挟んだ両手を時計の回る向きとは反対にくるっと回しました。

「いや、待てよ。いつも裏だったからと言って、今日も裏とはかぎらんじゃないか。今日こそ表が出ているかもしれない」

    今度はさっきとは反対にくるっと両手を回します。
    しばらくの間、両手をクルクルと回していたモックじいさんでしたが、ようやく意を決したようにぴたりとクルクルをやめました。

「いい加減悩むのはよそう。だめでもともとじゃないか」

    そう言ってモックじいさんはギュッと目をつむって、ゆっくりと合わせた両手を開きました。おそるおそる目を開けたモックじいさんは、思わず息をのみました。

「表だ……表がでとる」

    信じられないとばかりに、開いた口がふさがりません。そんなモックじいさんの横で、装置がガタガタと震えだしました。モックじいさんは立ち上がり、さっきの結果が間違いないかもう一度確認してから、装置に駆け寄りました。

「どうしたんだ。なにがどうなっとる」

    たくさんある目盛りをひとつひとつ確かめると……ありました。
    雲のかたさをあらわす目盛りの針が、『あぶない』と書かれた赤いところまで達していました。

「ああ、こりゃいかん」

    モックじいさんはあわててバルブをあちこち開けたり閉めたりして、針が目盛りのいつもの位置になるように調整しました。装置のガタガタはゆっくり落ち着いて、最後にプスンと雲をひとつ吐き出すと、ようやく静かになりました。

「まったく。こんなことは、はじめてだ。おれが失敗するなんて」

    モックじいさんはあきれたように首を横にふりました。それから、生み出された雲たちのようすを確かめようと顔をあげました。装置から空へとまっすぐに伸びたエントツからは、ぽっ、ぽっと、またいつものように雲たちが生み出されていました。
    ひとまずは安心だ。そう思ったモックじいさんは、あることに気がつきました。ひとつの雲が、煙突のまわりを行ったりきたりしています。それはさっきの《ガタガタ》のあとに吐き出された雲でした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。

桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。 それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。 でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。 そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

青色のマグカップ

紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。 彼はある思い出のマグカップを探していると話すが…… 薄れていく“思い出”という宝物のお話。

紅薔薇と森の待ち人

石河 翠
児童書・童話
くにざかいの深い森で、貧しい若者と美しい少女が出会いました。仲睦まじく暮らす二人でしたが、森の周辺にはいつしか不穏な気配がただよいはじめます。若者と彼が愛する森を守るために、少女が下した決断とは……。 こちらは小説家になろうにも投稿しております。 表紙は、夕立様に描いて頂きました。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

処理中です...