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第4話『はじめての寝坊とはじめての失敗』
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そんなある日、モックじいさんははじめて寝坊をしてしまいました。いつも同じ時間に目覚めるはずなのに、その日にかぎって。
前の日の晩にブドウ酒を飲み過ぎたのでしょうか。それとも、たまにそうするように、雲たちを思って泣き疲れて眠ったのでしょうか。
あわてて支度をしたモックじいさんは、朝ごはんも食べずに家の外に飛び出しました。そして装置の目盛りの確認やバルブの開け閉めを大いそぎで行って、レバーをガチャンとおろしました。装置がウインウインと音を立てて動き出します。ほっとひと息ついたモックじいさんは、いつものようにポケットからコインを取り出すと、ピンと空中へ弾きました。
そのとき、装置から空気のもれるような音がしたかと思うと、パイプの継ぎ目からプシュッとひと筋の蒸気が飛び出しました。おどろいたモックじいさんは、しりもちをつきました。
「あいた!」
しりもちをついたモックじいさんの目の前を、コインがゆっくりと落ちていきます。それをあわててパチンと両手ではさみました。そして弱りはてました。これでは、どちらの手を下にするかで、裏と表が変わってしまいます。モックじいさんはひとまず深呼吸して、装置のようすを横目で確かめました。
なんだかいつもとようすが違うように思いましたが、ひとまずは大丈夫そうです。そして、目の前で合わせた両手にふたたび目をやりました。
「弱ったな。どちらを下にしたもんか」
少しのあいだ考えたモックじいさんは、ふと思いつきました。
「いつもと逆の手を上にしてみようか。ずっと裏だったんだから、今日もきっと裏だろう。なら、反対に向ければいいじゃないか」
そう言って、コインを挟んだ両手を時計の回る向きとは反対にくるっと回しました。
「いや、待てよ。いつも裏だったからと言って、今日も裏とはかぎらんじゃないか。今日こそ表が出ているかもしれない」
今度はさっきとは反対にくるっと両手を回します。
しばらくの間、両手をクルクルと回していたモックじいさんでしたが、ようやく意を決したようにぴたりとクルクルをやめました。
「いい加減悩むのはよそう。だめでもともとじゃないか」
そう言ってモックじいさんはギュッと目をつむって、ゆっくりと合わせた両手を開きました。おそるおそる目を開けたモックじいさんは、思わず息をのみました。
「表だ……表がでとる」
信じられないとばかりに、開いた口がふさがりません。そんなモックじいさんの横で、装置がガタガタと震えだしました。モックじいさんは立ち上がり、さっきの結果が間違いないかもう一度確認してから、装置に駆け寄りました。
「どうしたんだ。なにがどうなっとる」
たくさんある目盛りをひとつひとつ確かめると……ありました。
雲のかたさをあらわす目盛りの針が、『あぶない』と書かれた赤いところまで達していました。
「ああ、こりゃいかん」
モックじいさんはあわててバルブをあちこち開けたり閉めたりして、針が目盛りのいつもの位置になるように調整しました。装置のガタガタはゆっくり落ち着いて、最後にプスンと雲をひとつ吐き出すと、ようやく静かになりました。
「まったく。こんなことは、はじめてだ。おれが失敗するなんて」
モックじいさんはあきれたように首を横にふりました。それから、生み出された雲たちのようすを確かめようと顔をあげました。装置から空へとまっすぐに伸びたエントツからは、ぽっ、ぽっと、またいつものように雲たちが生み出されていました。
ひとまずは安心だ。そう思ったモックじいさんは、あることに気がつきました。ひとつの雲が、煙突のまわりを行ったりきたりしています。それはさっきの《ガタガタ》のあとに吐き出された雲でした。
前の日の晩にブドウ酒を飲み過ぎたのでしょうか。それとも、たまにそうするように、雲たちを思って泣き疲れて眠ったのでしょうか。
あわてて支度をしたモックじいさんは、朝ごはんも食べずに家の外に飛び出しました。そして装置の目盛りの確認やバルブの開け閉めを大いそぎで行って、レバーをガチャンとおろしました。装置がウインウインと音を立てて動き出します。ほっとひと息ついたモックじいさんは、いつものようにポケットからコインを取り出すと、ピンと空中へ弾きました。
そのとき、装置から空気のもれるような音がしたかと思うと、パイプの継ぎ目からプシュッとひと筋の蒸気が飛び出しました。おどろいたモックじいさんは、しりもちをつきました。
「あいた!」
しりもちをついたモックじいさんの目の前を、コインがゆっくりと落ちていきます。それをあわててパチンと両手ではさみました。そして弱りはてました。これでは、どちらの手を下にするかで、裏と表が変わってしまいます。モックじいさんはひとまず深呼吸して、装置のようすを横目で確かめました。
なんだかいつもとようすが違うように思いましたが、ひとまずは大丈夫そうです。そして、目の前で合わせた両手にふたたび目をやりました。
「弱ったな。どちらを下にしたもんか」
少しのあいだ考えたモックじいさんは、ふと思いつきました。
「いつもと逆の手を上にしてみようか。ずっと裏だったんだから、今日もきっと裏だろう。なら、反対に向ければいいじゃないか」
そう言って、コインを挟んだ両手を時計の回る向きとは反対にくるっと回しました。
「いや、待てよ。いつも裏だったからと言って、今日も裏とはかぎらんじゃないか。今日こそ表が出ているかもしれない」
今度はさっきとは反対にくるっと両手を回します。
しばらくの間、両手をクルクルと回していたモックじいさんでしたが、ようやく意を決したようにぴたりとクルクルをやめました。
「いい加減悩むのはよそう。だめでもともとじゃないか」
そう言ってモックじいさんはギュッと目をつむって、ゆっくりと合わせた両手を開きました。おそるおそる目を開けたモックじいさんは、思わず息をのみました。
「表だ……表がでとる」
信じられないとばかりに、開いた口がふさがりません。そんなモックじいさんの横で、装置がガタガタと震えだしました。モックじいさんは立ち上がり、さっきの結果が間違いないかもう一度確認してから、装置に駆け寄りました。
「どうしたんだ。なにがどうなっとる」
たくさんある目盛りをひとつひとつ確かめると……ありました。
雲のかたさをあらわす目盛りの針が、『あぶない』と書かれた赤いところまで達していました。
「ああ、こりゃいかん」
モックじいさんはあわててバルブをあちこち開けたり閉めたりして、針が目盛りのいつもの位置になるように調整しました。装置のガタガタはゆっくり落ち着いて、最後にプスンと雲をひとつ吐き出すと、ようやく静かになりました。
「まったく。こんなことは、はじめてだ。おれが失敗するなんて」
モックじいさんはあきれたように首を横にふりました。それから、生み出された雲たちのようすを確かめようと顔をあげました。装置から空へとまっすぐに伸びたエントツからは、ぽっ、ぽっと、またいつものように雲たちが生み出されていました。
ひとまずは安心だ。そう思ったモックじいさんは、あることに気がつきました。ひとつの雲が、煙突のまわりを行ったりきたりしています。それはさっきの《ガタガタ》のあとに吐き出された雲でした。
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