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第12話『西の空のさびしんぼう』
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北の空をあとにしたモックじいさんと雲は、最後に西の空へと向かいました。空に沈む太陽を見とどけて、島へ帰ろうということになったのです。
モックじいさんと彼を乗せた雲は、西の空へ向かうあいだ、ひと言も口をききませんでした。ケンカをしたわけではありません。これまで見てきた三つの雲の言うことを、頭の中でくり返し考えていたからです。そして今度も簡単に雲たちを見つけることができました。なぜなら、西の空で赤く燃える太陽が、雲たちを半分、茜色に染めていたからです。影になった部分は、深い海をそのまま切り取ったように、濃い青色で塗りつぶされていました。
モックじいさんは雲たちの中ほどに進み出ました。西の空の雲たちは、ほかのどの空にいた雲たちとも違って、ゆったりぷかぷかと漂っていました。雲たちは沈みゆく太陽をさみしそうに見送っているようです。
モックじいさんは誰にあてるでもなく語りかけました。
「どうして、どうしてなんだ。なぜおまえたちはお互いに笑いあうでもなく、喜びあうでもなく、ただ空から地上のものたちばかり気にかける」
漂う雲がささやくように、モックじいさんの質問に答えました。
「どうしても、そうしなければならないからです。今もわたしたちがこうすることで、地上の人々は去りし今日に手を振って、明日に想いをはせることができるのです」
それを聞いたモックじいさんは、雲たちをとてもほこらしく思いました。
「そうか。おまえたちがそうすることで、地上の人々が日々をけん命に生きようとするんだな」
すると雲は、モックじいさんの肩を優しく抱くように寄りそい、言いました。
「そうです。わたしたちがこうすることで人々は、何げない毎日をありがたいと思うのです」
「しかしどうしておまえたちが、そんなことをせねばならん」
「きっと誰かのためになるからです」
モックじいさんは、やっぱり同じことを聞きました。
「おれはおまえたちの言うことがさっぱりわからん。どうしてそんなことをするんだ」
少しずつ暮れていく空を満足そうに見つめながら、雲は言いました。
「そんなこと、わたしたちにもよくわかりません。でも、とてもとても大切なことだと思うから、なにがあってもここで夕陽を見送るのです」
「なにもおまえたちがやることはないじゃないか。ほどほどにしていればいいじゃないか」
「それは、なにもわたしたちは自分たちをかわいそうに思わないからです。それに、ささいなことで喜びあったり、笑いあうときだって、あるにはありますよ」
「そんなものなのか」
「そういうものなのです」
モックじいさんは、雲の言うことをようやくわかりはじめていましたが、あまり嬉しそうではありませんでした。これまでは、最後にひとつだけ質問をすることにしていましたが、あきらめたようにつぶやきました。
「やはりおまえたちは、満足することなどないんだろうな」
「満足かどうかはわかりませんが、地上の人々が今日一日をふり返ったとき、うつむくことなくわたしたちを見上げていてくれたなら、わたしたちはきっと満足なのだと思います。そしてそれを教えてくれたのは、ほかならないあなたでしょう」
島に帰ったモックじいさんと彼を乗せて空を飛んだ雲は、今日出会った雲たちについて、ひと晩中話をしました。そしてどちらかがどちらかへ「おやすみ。今日はありがとう」というと、もう一方もまた「こちらこそ、今日はありがとう。おやすみなさい」と言いました。
モックじいさんと彼を乗せた雲は、西の空へ向かうあいだ、ひと言も口をききませんでした。ケンカをしたわけではありません。これまで見てきた三つの雲の言うことを、頭の中でくり返し考えていたからです。そして今度も簡単に雲たちを見つけることができました。なぜなら、西の空で赤く燃える太陽が、雲たちを半分、茜色に染めていたからです。影になった部分は、深い海をそのまま切り取ったように、濃い青色で塗りつぶされていました。
モックじいさんは雲たちの中ほどに進み出ました。西の空の雲たちは、ほかのどの空にいた雲たちとも違って、ゆったりぷかぷかと漂っていました。雲たちは沈みゆく太陽をさみしそうに見送っているようです。
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「どうして、どうしてなんだ。なぜおまえたちはお互いに笑いあうでもなく、喜びあうでもなく、ただ空から地上のものたちばかり気にかける」
漂う雲がささやくように、モックじいさんの質問に答えました。
「どうしても、そうしなければならないからです。今もわたしたちがこうすることで、地上の人々は去りし今日に手を振って、明日に想いをはせることができるのです」
それを聞いたモックじいさんは、雲たちをとてもほこらしく思いました。
「そうか。おまえたちがそうすることで、地上の人々が日々をけん命に生きようとするんだな」
すると雲は、モックじいさんの肩を優しく抱くように寄りそい、言いました。
「そうです。わたしたちがこうすることで人々は、何げない毎日をありがたいと思うのです」
「しかしどうしておまえたちが、そんなことをせねばならん」
「きっと誰かのためになるからです」
モックじいさんは、やっぱり同じことを聞きました。
「おれはおまえたちの言うことがさっぱりわからん。どうしてそんなことをするんだ」
少しずつ暮れていく空を満足そうに見つめながら、雲は言いました。
「そんなこと、わたしたちにもよくわかりません。でも、とてもとても大切なことだと思うから、なにがあってもここで夕陽を見送るのです」
「なにもおまえたちがやることはないじゃないか。ほどほどにしていればいいじゃないか」
「それは、なにもわたしたちは自分たちをかわいそうに思わないからです。それに、ささいなことで喜びあったり、笑いあうときだって、あるにはありますよ」
「そんなものなのか」
「そういうものなのです」
モックじいさんは、雲の言うことをようやくわかりはじめていましたが、あまり嬉しそうではありませんでした。これまでは、最後にひとつだけ質問をすることにしていましたが、あきらめたようにつぶやきました。
「やはりおまえたちは、満足することなどないんだろうな」
「満足かどうかはわかりませんが、地上の人々が今日一日をふり返ったとき、うつむくことなくわたしたちを見上げていてくれたなら、わたしたちはきっと満足なのだと思います。そしてそれを教えてくれたのは、ほかならないあなたでしょう」
島に帰ったモックじいさんと彼を乗せて空を飛んだ雲は、今日出会った雲たちについて、ひと晩中話をしました。そしてどちらかがどちらかへ「おやすみ。今日はありがとう」というと、もう一方もまた「こちらこそ、今日はありがとう。おやすみなさい」と言いました。
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