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第一章 神編
高等部 冒険科
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留守番をカイトに任せて僕は、学園へと急いだ。
今日から高等部の冒険科コースで授業が始まる。
二人して朝食が進まなかったけど、初日で遅刻は避けたい。
カイトは留守の間、調理の練習に励むと言っていた。まさか、誠実で優秀な努力家と言われるセルヴォ家出身のカイトが、料理下手とは思っていなかった。
野菜を切る際に、指を丸めることなくむしろ、ピンと伸ばしていたことにビックリした程だ。慌てて止めたが、そういったことから知識がなく、座学から始めたのは当然と言える。
学園内では緊急時以外、走るのは厳禁となっているが、それを知らない新入生は……ほら、注意される。しかも生徒に。教師がいなければ生徒に注意されるので、皆気をつけている。
「アース君、こっち!」
Sクラスに入ってすぐに聞いたことのあるよく通る声がした。
「やぁ、アクロ」
彼女は、アクロ・グランツ。水・土・風の三属性持ちで、水色の髪の貴族令嬢だ。しかも父親が甘いの嫌いな宰相さん。スイーツだけに限らず、仕事にも手抜きがない真面目な人だ。
娘であるアクロも真面目で努力家。だけどスイーツは好きで、特にお気に入りなのがアイスクリーム。進級試験終了後に度々、訪れてはアイスを試食という名の盗み食いをしていた。
そんなアクロの隣に腰掛けると、Sクラス担当の教師がスタスタとやって来た。
「よし、揃ってるな。三年間お前達Sクラスの担当を受け持つ、リーナ・ガルボだ」
教壇で挨拶するのは、元Aランク冒険者で現ギルド職員のリーナさん。中等部二年の時に中級ダンジョンで出会った女性だ。
女性でありながら前衛を務める剣士だ。好戦的な戦闘スタイルで有名な人で、腹部に重症を負っていた為、ポーションを渡した。それが言葉を交わす始まりだった。
「Sクラスといえど、貴族も平民もいる。学園内で立場を利用するのは厳禁だから頭に入れておけ」
口調は変わらずで、淑女とは言えないが不快ではない。
「まず、あたしは元Aランク冒険者で剣士をやってた。けど、魔法は身体強化以外からっきしだ。次に……」
「待ってくれ!」
声を上げたのは、虎の獣人族。
「あー、アストンだったか、何だ?」
「ま、魔法の訓練はしないのか?!」
焦ったようにそう言う。
「さっきも言ったが、あたしは剣士で魔法はアテにしないでくれ。魔法なら、このクラスで一番アースが魔法に優れてる。嫌なら聞く必要はないし、アースも教えなくて良い」
「それにだ、ここは冒険科Sクラスだ。冒険者とギルド職員に必要な技術と知識を教える場であって、仲良しごっこは二の次だ。やるなら、結果を出せ」
リーナさんに睨まれて、ウッと何も言えなくなるアストンという子は、いそいそと着席する。
リーナさんの睨みは慣れてないと怖いんだよね。
「早速だが、自己紹介がてらお前達には模擬戦をしてもらう。武器も魔法もありだが、わかっているだろうが殺人行為は厳禁だぞ。一番訓練場で五分後に開始する」
そう言ってスタスタと歩いていくリーナさん。
ぅん?五分後に開始?一番訓練場??
僕はアクロにのんびりと声をかけた。
「そういえばアクロ……」
彼女はノートに何かを書き込んでいたが、こちらに気づき顔を振り向けて…固まった。
僕は今どんな表情なんだろうか。笑顔のハズなんだけどなぁ。
「僕が隠してた濃茶の葉のアイスが、ケースごとなくなってたんだけど、アクロ…知らない?」
濃茶の葉とは抹茶のことで、この世界で平民が一般的に飲むのは茶の葉(緑茶)しかない。しかしどうしても抹茶が欲しかった僕は、日光を遮った新芽を一ヶ月守った。そうして出来たアイスを何者かに奪われたのだ。
早朝に階下から響いたカイトの奇声で発覚した事件だ。犯人はまだ捕まっていない!
「それじゃ、訓練場で模擬戦しようか」
ポンとアクロの左肩に手を置き、一番訓練場に【転移】。
「よぉーし、アースとアクロが一番乗りだな。では模擬戦はじめー」
僕は、リーナさんの緩い合図と同時に、模擬剣で切りかかった。
今日から高等部の冒険科コースで授業が始まる。
二人して朝食が進まなかったけど、初日で遅刻は避けたい。
カイトは留守の間、調理の練習に励むと言っていた。まさか、誠実で優秀な努力家と言われるセルヴォ家出身のカイトが、料理下手とは思っていなかった。
野菜を切る際に、指を丸めることなくむしろ、ピンと伸ばしていたことにビックリした程だ。慌てて止めたが、そういったことから知識がなく、座学から始めたのは当然と言える。
学園内では緊急時以外、走るのは厳禁となっているが、それを知らない新入生は……ほら、注意される。しかも生徒に。教師がいなければ生徒に注意されるので、皆気をつけている。
「アース君、こっち!」
Sクラスに入ってすぐに聞いたことのあるよく通る声がした。
「やぁ、アクロ」
彼女は、アクロ・グランツ。水・土・風の三属性持ちで、水色の髪の貴族令嬢だ。しかも父親が甘いの嫌いな宰相さん。スイーツだけに限らず、仕事にも手抜きがない真面目な人だ。
娘であるアクロも真面目で努力家。だけどスイーツは好きで、特にお気に入りなのがアイスクリーム。進級試験終了後に度々、訪れてはアイスを試食という名の盗み食いをしていた。
そんなアクロの隣に腰掛けると、Sクラス担当の教師がスタスタとやって来た。
「よし、揃ってるな。三年間お前達Sクラスの担当を受け持つ、リーナ・ガルボだ」
教壇で挨拶するのは、元Aランク冒険者で現ギルド職員のリーナさん。中等部二年の時に中級ダンジョンで出会った女性だ。
女性でありながら前衛を務める剣士だ。好戦的な戦闘スタイルで有名な人で、腹部に重症を負っていた為、ポーションを渡した。それが言葉を交わす始まりだった。
「Sクラスといえど、貴族も平民もいる。学園内で立場を利用するのは厳禁だから頭に入れておけ」
口調は変わらずで、淑女とは言えないが不快ではない。
「まず、あたしは元Aランク冒険者で剣士をやってた。けど、魔法は身体強化以外からっきしだ。次に……」
「待ってくれ!」
声を上げたのは、虎の獣人族。
「あー、アストンだったか、何だ?」
「ま、魔法の訓練はしないのか?!」
焦ったようにそう言う。
「さっきも言ったが、あたしは剣士で魔法はアテにしないでくれ。魔法なら、このクラスで一番アースが魔法に優れてる。嫌なら聞く必要はないし、アースも教えなくて良い」
「それにだ、ここは冒険科Sクラスだ。冒険者とギルド職員に必要な技術と知識を教える場であって、仲良しごっこは二の次だ。やるなら、結果を出せ」
リーナさんに睨まれて、ウッと何も言えなくなるアストンという子は、いそいそと着席する。
リーナさんの睨みは慣れてないと怖いんだよね。
「早速だが、自己紹介がてらお前達には模擬戦をしてもらう。武器も魔法もありだが、わかっているだろうが殺人行為は厳禁だぞ。一番訓練場で五分後に開始する」
そう言ってスタスタと歩いていくリーナさん。
ぅん?五分後に開始?一番訓練場??
僕はアクロにのんびりと声をかけた。
「そういえばアクロ……」
彼女はノートに何かを書き込んでいたが、こちらに気づき顔を振り向けて…固まった。
僕は今どんな表情なんだろうか。笑顔のハズなんだけどなぁ。
「僕が隠してた濃茶の葉のアイスが、ケースごとなくなってたんだけど、アクロ…知らない?」
濃茶の葉とは抹茶のことで、この世界で平民が一般的に飲むのは茶の葉(緑茶)しかない。しかしどうしても抹茶が欲しかった僕は、日光を遮った新芽を一ヶ月守った。そうして出来たアイスを何者かに奪われたのだ。
早朝に階下から響いたカイトの奇声で発覚した事件だ。犯人はまだ捕まっていない!
「それじゃ、訓練場で模擬戦しようか」
ポンとアクロの左肩に手を置き、一番訓練場に【転移】。
「よぉーし、アースとアクロが一番乗りだな。では模擬戦はじめー」
僕は、リーナさんの緩い合図と同時に、模擬剣で切りかかった。
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