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第三章 転生編
賑やかな日常
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カチャ……
そぉーっと扉を開け、小さく鳴るベルが音を立てる前に無詠唱でオリジナル魔法【消音】を発動。
ソッと顔を店内へと入れてキョロキョロと周囲を確認。薄暗い店内にホッと息を吐き、スルリと猫のように音もなく侵入した人影は、軋みが少ない板の上を選ぶよう慎重に忍び足で進んで行く。
扉の鍵穴に、スペアキーの複製を差し込み回す。
「ここまでの流れは大丈夫」
彼女はそう呟き、前方に張られた”結界”を無詠唱で消し去った。
身をかがめてようやく目的地に着き、ホッと二度目の息を吐いた。
犯した失敗を繰り返さぬように、冷凍庫の一番下の引き出しをゆっくりと手前に引いて行く。
冷気が辺りに広がり霧散する。
目当ての箱には、三重の”結界”がかけられているが、彼女は一分もかからず全てを消し去り、それを手に取った。
すぐに入手した物を持って逃走する為、引き出しを戻してスッと立ち上がった。
「ワッ!」
突然発せられた声音に彼女は飛び上がり、ゴトッと箱を床に落としてしまう。
ワタワタと落とした箱を抱えて、恐る恐る振り返った。
「漫画の中だけの反応と思ってました……」
「彼女はアクロ・グランツ。王国一の魔法使いだ」
厨房の出入口にいたのは、呆然とこちらを見る少年と、ニヤニヤしながら愉快そうに話すアースの二人だった。
「ビッックリしたーーー……」
「アクロ、スキルに盗人ってあるぞ…尊敬するわ」
「ふふん。いつの間にか身についてたのよ!」
スキル盗人は、主に盗賊や斥候が持つスキルで、解錠・身隠し・忍び足・鑑定・気配遮断の五つに補正がかかる。
彼女はこの全てを駆使して毎週、盗みに来る。成功よりも失敗の方が数は多いが学習を重ねて挑んでくる為、従業員の魔法習熟度は伸びる一方だった。
ガチャ…バタン!ダダダダッと、上階から聞こえて来る。
すでに明かりは着いており、到着した青年は遅れたことに唖然としつつも、気を持ち直す。
「アース様、またアクロ様ですか…」
彼は呆れていた。
そもそも、『食の棚』に入れる者等は限られている為、侵入による驚きよりも呆れが先に来る。
彼、ヴァイス・アブヤドは何故か、踵を返して階段を上って行く。
戻って来たヴァイスの後ろには従業員の一人がいて、彼を連れて来る為に戻ったのだと理解した。
「朝食にしましょう!」
従業員でもないアクロが指示を出し、朝食の準備が進められる。並べられた皿には、色とりどりのサラダやふわふわのパンにスープといった、いつもの食事が人数分置かれる。
カイトも加わり、ワイワイと厨房から賑やかな声が店内へと広がる。
それに呼応するように、店の近隣に明かりが灯っていく。
南東平民区の朝は早い。それは、毎週貴族街から来るアクロのおかげであり、習慣化した結果でもある。
そぉーっと扉を開け、小さく鳴るベルが音を立てる前に無詠唱でオリジナル魔法【消音】を発動。
ソッと顔を店内へと入れてキョロキョロと周囲を確認。薄暗い店内にホッと息を吐き、スルリと猫のように音もなく侵入した人影は、軋みが少ない板の上を選ぶよう慎重に忍び足で進んで行く。
扉の鍵穴に、スペアキーの複製を差し込み回す。
「ここまでの流れは大丈夫」
彼女はそう呟き、前方に張られた”結界”を無詠唱で消し去った。
身をかがめてようやく目的地に着き、ホッと二度目の息を吐いた。
犯した失敗を繰り返さぬように、冷凍庫の一番下の引き出しをゆっくりと手前に引いて行く。
冷気が辺りに広がり霧散する。
目当ての箱には、三重の”結界”がかけられているが、彼女は一分もかからず全てを消し去り、それを手に取った。
すぐに入手した物を持って逃走する為、引き出しを戻してスッと立ち上がった。
「ワッ!」
突然発せられた声音に彼女は飛び上がり、ゴトッと箱を床に落としてしまう。
ワタワタと落とした箱を抱えて、恐る恐る振り返った。
「漫画の中だけの反応と思ってました……」
「彼女はアクロ・グランツ。王国一の魔法使いだ」
厨房の出入口にいたのは、呆然とこちらを見る少年と、ニヤニヤしながら愉快そうに話すアースの二人だった。
「ビッックリしたーーー……」
「アクロ、スキルに盗人ってあるぞ…尊敬するわ」
「ふふん。いつの間にか身についてたのよ!」
スキル盗人は、主に盗賊や斥候が持つスキルで、解錠・身隠し・忍び足・鑑定・気配遮断の五つに補正がかかる。
彼女はこの全てを駆使して毎週、盗みに来る。成功よりも失敗の方が数は多いが学習を重ねて挑んでくる為、従業員の魔法習熟度は伸びる一方だった。
ガチャ…バタン!ダダダダッと、上階から聞こえて来る。
すでに明かりは着いており、到着した青年は遅れたことに唖然としつつも、気を持ち直す。
「アース様、またアクロ様ですか…」
彼は呆れていた。
そもそも、『食の棚』に入れる者等は限られている為、侵入による驚きよりも呆れが先に来る。
彼、ヴァイス・アブヤドは何故か、踵を返して階段を上って行く。
戻って来たヴァイスの後ろには従業員の一人がいて、彼を連れて来る為に戻ったのだと理解した。
「朝食にしましょう!」
従業員でもないアクロが指示を出し、朝食の準備が進められる。並べられた皿には、色とりどりのサラダやふわふわのパンにスープといった、いつもの食事が人数分置かれる。
カイトも加わり、ワイワイと厨房から賑やかな声が店内へと広がる。
それに呼応するように、店の近隣に明かりが灯っていく。
南東平民区の朝は早い。それは、毎週貴族街から来るアクロのおかげであり、習慣化した結果でもある。
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