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2話
しおりを挟む監禁された夜。
一緒にベッドで眠ったが、下着姿の美琴に対し、彼はなにもしてこなかった。夜通しすすり泣いていたので、そんな気が起きなかったのかもしれない。乱暴されるのではと身構えていたので、少しだけ意外だった。
彼は拘束などは本意じゃないようだけれど、仕事に行くときは仕方なくと言った様子で、手ぬぐいを結んで猿轡のようにし、手足の鎖を確かめた。そうしないと美琴が逃げてしまうかもしれないからだ。
「目隠しはしたくないから、これでいいかな。あー、仕事なんか休んでしまいたい。美琴とずっと一緒にいたいよ」
眉根を下げて、寂しそうに、美琴の顔をじっと見つめる。
彼は昨日、カナタと名乗った。27歳。7歳差じゃ、美琴から見たらおじさんだよなぁ、おじさんって気持ち悪いかな、ごめんな、と言って、申し訳なさそうに笑った。問題は全然そこじゃないのに、本気で年の差を気にしているところにまたぞっとする。
「ごめんね。もう泣かないで。俺、美琴のために生きるから。ここにいてくれさえすれば、怖いことも、痛いこともしない。好きなんだ。仕事もすぐに終わらせて、毎日君のところに帰ってくるから……」
その切なそうな顔を見ながら、大学の友達のことを考える。
彼には実家と友達に、昨晩連絡を入れさせられていた。そのせいもあり、しばらくは美琴が監禁されていることに誰も気づいてくれないだろう。
たとえそんな根回しがなかったとしても、美琴は一人暮らしで友達も少なく、バイトも先日辞めたばかりだ。まだ次の職場も見つけていないし、親から連絡があるわけもないので、どっちみちすぐには発覚しない。
涙が頬を伝う。怖かった。自分が大人しくしている限り彼は温厚であり、その点だけは信じてもよさそうだけれど、冷静に考えたら、いい人が拉致監禁などするわけがないのだ。
絶望だ。
◇
「ただいま」
「美琴、好きだよ」
「キスしていい?」
ダメに決まってる。でもそう言ったら、ベッドの下からまたナイフが出てくるかもしれない。心を殺して小さく頷いた。本気だよと言った彼の顔を思い出すと手足が痺れて、恐怖で冷や汗がにじむ。
「かわいい……」
彼がおもむろに眼鏡を外して、テーブルに置いた。美琴の身体をそっと抱きよせ、柔らかい唇が重なる。
頑なに口を開けなかったので、彼はあたたかく濡れた舌で何度も美琴の唇を舐めた。
「俺、人生で今が一番幸せだよ。君がいてくれるから」
どうしてだろう、こんなに、普通の人に見えるのに。事件の犯人なんかは誰もがそういうものなのだろうか。一般の人に紛れたどこにでもいる風貌をして、その一方で、想像もつかないような罪を犯すのだろうか。
あまりにも孤独で、孤独すぎて、どこか甘美にも思えた。
彼が唇をあまりに何度も舐めるので、不本意なのに、身体が反応してきてしまう。甘い痺れに身をよじっていると、気づかれてしまった。
「美琴……感じてるの……?」
「ん、……」
否定したいのに声が出ない。首を振りたいのに、身体が固まって動かない。
「かわいい。こっち見て」
真剣な瞳に絡め取られてしまいそうだ。怖いのに。今すぐ逃げ出したいのに。
「ね、握って」
熱を帯びた言葉とともに、手が、そこに誘導される。気持ち悪い。嫌だ。強制的になぞらされたその大きさと硬さに驚いて、びくっとする。
「……美琴は経験あるの?」
その言葉に、今度こそぶんぶんと大きく首を振った。それがわかれば、助けてくれる気になるかもしれないと思ったからだ。しかし予想は外れ、ますます興奮した彼の声が甘く響く。
「そっか、処女か、嬉しいな。ならなおさら大切にしないとね」
その日、導かれるままに手のひらで擦っていたら、じきに彼は果てた。犯されなかった安堵と、初めて見る男性のものに、怯えてぞくぞくしてしまった。
抱きしめられて眠る時、右目から一筋涙があふれて、頬を伝った。
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