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6話
しおりを挟む「カナタ、聞いてほしい」
「どうしたの?」
「私、自分の気持ちがよく分からないの」
「どういうこと」
……嘘は、驚くほどすらすらと口を突いて出た。
「今日、服はいらないから家に帰りたいって言ったのは、早く二人の家に帰ってホッとしたかったからなの」
「美琴……?」
「私、あなたのこと憎んでるし、怖いけど、もしかしたら心のどこかでは、好きになりかけてるのかもしれない」
美琴は腹を括った。この犯罪者に心はもちろん、身体を奪われないためならどんな作り話でもする。
幸い彼が自分を好きだと言っているのは本当らしいので、その気持ちを利用して、どんなことをしてでも生き残ってみせる。そう覚悟を決めた。
「でもまだ、整理できないの。私にとっては出会ったばかりだし、こんな出会い方だし。そういうことするのは、この気持ちがはっきりしてからにしたくて」
不自然なほどペラペラと話してしまったので怪しまれるかどうかは賭けだったが、幸いなことにカナタは信じたらしい。
胸の奥がチクリと痛んだが、犯罪者に罪悪感なんて持つ必要はないと自分に言い聞かせる。
「それは俺のことを、真剣に考えてくれてるってこと?」
「そのつもりだよ。ね、キスして欲しいな……」
「美琴からそんなお願いされる日が来るなんて、夢みたいだ」
カナタの目が細められる。笑ったのではない。その表情は愛しんでいるのか、喜んでいるのか。泣きぼくろのせいで、泣いているみたいにも見える。
……逃げるチャンスが来ないなら、私が誘導するまでだ。信用させて、油断させて、裏切って、逃げる。それが自分の身を守るためだから。
美琴の願いに応えて、カナタの顔が近づいてくる。唇が、優しく重なった。こんなお願いをするのは初めてだからなのはわかっているのに、頰が熱くなってしまって、動揺する。
◇
月曜日だ。カナタの家に連れて来られて明日でもう二週間になる。
今日も猿轡はされなかった。助けてくれる相手を求めて昼間はずっと耳をすませていたが、残念ながら今日も廊下を歩いてくる人の気配はなかった。根気強く待つしかなさそうだ。
覚悟を決めたせいか、昨夜は泣かなかった。監禁されてからというもの、毎晩カナタの腕の中で家族や一人暮らしの家を思ってすすり泣いたが、昨日は涙が出なかった。
その代わり全く眠れなくて、規則正しく寝息を立てるカナタの綺麗な顔を、暗闇でずっと見つめていた。
「ただいま。早く会いたくて、急いで帰ってきたよ」
カナタの帰宅が、足音でわかるようになってきた。誰もいない部屋にひとりぼっちの美琴は、耳を澄ませる以外にやることがないのだ。
「おかえりなさい」
「……なんか、照れるな」
カナタは美琴と気持ちが通じ合いかけていると信じていて、昨日からいつも以上に優しくなった。疑いのない笑顔を向けられると居心地が悪くなるが、堪える。
「今日は食事のあと、一緒にお風呂に入ろうか」
「……え?」
「大丈夫。昨日みたいな自分勝手なことは言わないし、しない。俺はちゃんと待つことにしたから」
「……うん。ありがと」
断ったら不自然だし、せっかくこちらの思い通りになってきている今ここで拒否するのは良くないと思い、仕方なく頷いた。
「美琴、本当に俺のこと、意識するようになってくれたんだね」
「え?」
「顔、すごい真っ赤だよ」
「そ、そんなわけないでしょ!」
否定したら、カナタが唇の端を釣り上げて笑った。
◇
手足の鎖を外され、手を繋いでバスルームに連れて来られた。そして今、後ろから抱きしめられる形で湯船につかっている。
カナタの家は単身用にしては浴槽が広い。二人で入るにはもちろん狭いが、密着すればなんなく入れてしまった。
「……あの」
「んー? あったかいね、美琴」
「あ、あたってるんだけど……」
「はは。だって美琴のお尻が柔らかくて気持ちいいから」
「やだ、もぉ」
身をよじって逃れようとするが狭くてそれもかなわなず、今度は胸を鷲掴みにされてしまう。身体の動きに合わせて水音だけがパチャパチャと響いた。
「ねぇ、揉まないでっ」
「乳首こんなに立たせちゃって」
「やぁ、っ」
「すごい感じてるね……? びくびくして可愛い。じゃあこっちは?」
「ひゃぁぁんっ」
耳を甘噛みされて、嬌声が漏れ出た。腰が自然と動いてしまい、カナタのものに当たる。
「もぉ、やめて、お願いっ」
「あぁ……そんな押し付けちゃって、本当は挿れて欲しいんじゃないの? ここ。」
カナタの指が今度は私のそこに伸びて、なにかを確かめるようにするりと二往復した。湯の中でもはっきり分かってしまう愛液の中で、指先がぷっくりした突起に引っかかりまた甘い声が出た。
「い、いやっ、んん、だめっ」
「冗談だよ。美琴がやめてほしいならもうやめるね」
そう言うとなんの前触れもなく愛撫が止んだ。荒い息のまま振り向こうとすると、一足先にカナタが立ち上がり、浴槽の縁に腰掛ける。そそり立ったものがすぐ目の前に突き出された。
「いつもみたいにして」
呼吸が整わないまま頷いて、ゆっくり口に含んだ。手で根元を抑えて、全部は入りきらないそれを、限界までしゃぶっては、舌を出して先端をゆっくり舐める。
「どんどん上手になってるな、好きだよ……俺、美琴が咥えてくれてるってだけで、もう充分ヤバいけど。あぁ……」
見上げると目が合った。眼鏡を外して、髪が少し濡れた切なそうな顔がとてもいやらしくて、そんな目でじっと見つめられたら変な気持ちになってしまう。
カナタが嫌いだ。
こんな日々早く終わらせたい。
その思いは熱のこもったバスルームの中で、反響する。
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