【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足

文字の大きさ
28 / 60

27話

しおりを挟む


夢を見ている。


もう少しで覚醒しそうでまだ空想の中をたゆたっている、夢と現実の境目にいるふわふわとしたとき、美琴は鎮座する巨大なりんごの姿をしていた。


赤くつややかな皮の中には甘い実がみずみずしく詰まっている。すべての人を唸らせることのできるとてもおいしい特別なりんご。


やがてそこへナイフを掴んだ青白い手が現れ、勢いにまかせて果実に刃を突き立てる。食べる目的ではなく、芯にたどりつくためだけにただその実を削いでいく。やめて。りんごなのに意思があるらしい美琴は、はっきりとそう思う。しかし手は削るのをやめない。りんごには目がないので涙は流れないけれど、心は悲痛に叫んでいる。やめて。だれかたすけて。


その残酷な手の持ち主はずっと、カナタや、外界のすべてが形を成したものだと思っていた。しかしどうやら違ったらしい。


大きなりんごは自分の心。それはずっとわかっていた。そしていま新しくわかったこと。


削り取る白い手は、自分自身のものだ。
美琴は自分で自分の心を今日も傷つける。











『△△銀行に立てこもった犯人は、本日朝6時、突入した警官によって取り押さえられました』


ぼーっとテレビの画面を見つめる。ふたつ隣の県で、人質をとった立てこもり事件が起きていたらしい。


近頃のカナタは昼間美琴が退屈しないよう、テレビを見る許しを出してくれていた。でももとから習慣がなかったので、ほとんど見ることなく今日になった。


虫の知らせというものは、もしかしたら本当にあるのかもしれない。
その日美琴は、なんとなくテレビをつけてなんとなくチャンネルをまわし、なんとなくそのニュースを見た。見てしまった。


事件の概要が流れたあと、コメンテーターのメガネをかけた七三分けの男が、真面目な顔をしてアナウンサーの女性と対話している。
同じメガネでもカナタのとはだいぶデザインが違っているなあ、などと、呑気なことを考えた。


『今回の事件では、人質として監禁されていた被害者の方が、犯人の犯行の手助けをしたこと、犯人を減刑にしてくれと訴えていることが話題になっていますが、どのようにお考えですか?』


化粧の薄いはっきりとした顔立ちのアナウンサーが、メガネの男に尋ねる。


『これは心理的な問題ですね。ストックホルム症候群と呼ばれています』
『そのストックホルム症候群とは一体なんでしょう』
『極度の緊張と異常な環境の中で、人質が犯人との間に精神的なつながりを見出すことを指します。これは一種の信頼関係であり、時に愛情にまで変わることがある』


その言葉を聞いた途端、美琴は動揺した。テレビの向こうから、まるで自分に向けてその言葉を投げかけられているように感じた。


極度の緊張と異常な環境。
精神的なつながり。
信頼関係が、愛情に変わる。


それ以上なにも聞きたくなくて、とっさにテレビの電源を落としていた。心臓がばくばくする。
私は普通にカナタに恋をしただけだ。そうわかっているのに後ろめたさが残る。
自分以外にも同じような人がいると知ってしまったから?
どうしてこんなに動揺しているのだろう。


「……そういう人も、いるんだ」


口に出して言ってみた。弱々しい声が出た。


「そういう人もいるんだなぁ」


あくまで他人事だと言い聞かせるように、もう一度繰り返す。今度はお腹に力を入れて、いつものようにしっかりと発声することができた。


コメンテーターの言う精神的なつながりというのは、つまるところ、偽物なのだろうか。
異質な時間の中で生まれた、偽物の感情なのだろうか?


信じて来たものを否定された気持ちになって泣きたくなる。
きっかけなんてなんだっていい、そこに芽生えた気持ちは本物だと、だれかに立証して欲しかった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。 そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!? 貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...