【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足

文字の大きさ
1 / 26

デビルジャムで君と

しおりを挟む


おそらくそれが、アイデンティティの喪失というやつだった。


俺は暗い店内で、同じ男と思えないほど輝いているホストたちを見つめ、その神々しさに目をちかちかさせている。


まさか、25歳にして初めてホストクラブに来ることになろうとは。隣では友人である哀子が、氷が溶けてうすくなっていそうな酒をあおっている。俺は不思議な気分の高揚と共に、自分の中で積み上げてきたなにかが壊れていくのを感じていた。


「だいたいさぁ、水商売の女イコール底辺、みたいな考え方がそもそもクソなんらよねぇ。優也もそう思うれしょ!」
「わかったわかった。哀子、お前、酒はもういいから水を飲めよ」
「うるはい!」
「いや、呂律まわってないから……」


俺たちのやりとりを見ていた夕陽と名乗ったホストが、気を利かせて烏龍茶を持ってきてくれた。彼は哀子ご指名の若いイケメンだ。彼のせっかくの厚意にろくろく感謝もせず、哀子は烏龍茶のグラスを奪い取るようにして一口飲むと、そのまま卓に突っ伏してしまった。


「今夜の愛衣さんはいちだんと荒れてますねぇ。優也さんも大変ですよね」


夕陽くんが憐れみを込めた目で俺のことを見るので、なるべくやわらかい声音で優しく反論してみた。


「まぁ。でも、どうやらその原因、君にもあるらしいけどね」
「え?僕ですか?」


自分が原因と言われて、夕陽くんは驚いた顔をした。俺は神妙な面持ちで頷いた。








『飲み行きたいから付き合ってよ』



金曜日の夜、仕事が終わってスマホを確認すると、幼馴染の哀子から連絡が来ていた。
愛衣という源氏名でキャバクラに勤める彼女は女のくせにかなりの酒豪で、朝まで付き合える相手は同業の子を除けば俺くらいしかいない。よって、こうしてたまに連絡がくる。


『いいよ』と返すと、時間と待ち合わせ場所を記しただけの簡単な返事がきた。こういうさっぱりとしたやつだからこそ、性別の垣根を越えて仲良くできるのだ。


飲み出したら楽しくて、いつものごとくそのままずるずると飲み続けてしまい、朝方とうとうこのホストクラブ【デビルジャム】にたどり着いたというわけだ。







泥酔した哀子から聞き出したところによると、「そういうんじゃない」のに、ホストに入り浸っていることが彼氏にばれて破局に至ったらしい。ちなみに彼氏も現役のホストである。恋人がいるのに遊び歩いている哀子には当然非があるとして、彼氏も彼氏ではないだろうか。夜の世界のことは俺にはよくわからないし、もはやどこから突っ込めばいいのかすら謎だ。


「ホストにろくなやついねーってよ、お前もホストだろーがよ!ばぁか!おい、夕陽、あたしと付き合えよ!」
「愛衣さん、まず烏龍茶をもっと飲んで落ち着いて……」


酔った哀子が隣でぎゃあぎゃあ叫んでいるが、俺には何が何だかわからないので申し訳ないがすべて夕陽くんに任せることにする。ため息をついて自分の酒をちびちび飲んでいると、俺と哀子の卓にもうひとりホストが現れた。


「はじめまして、碧スバル(あおい すばる)です」


顔を上げたら目が合った。目が合ってしまった。


「あ、どうも…」


きらきらした瞳に吸い込まれそうになる。実際には数秒だっただろうが、まるで時間が止まったように感じた。眉目秀麗とはこういう男のことを言うんだろうな、としみじみしてしまった。


彼の背景には薔薇が見える。そのシルエットからは輝く光の粒子が飛んでいる。もちろんどちらも幻覚に違いないが、そう思わせるほどに美しい男だった。


その瞬間こそが、俺とスバルとの出会いだ。




しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

ある日、人気俳優の弟になりました。2

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

処理中です...