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デビルジャムで君と2
しおりを挟む「哀子ちゃんの友達なんですか?」
碧スバルは笑顔でそう言って俺の隣に腰を下ろし、飲み物を持ってきたスタッフにお礼を言って受け取った。
顔を見たらすぐにわかった。この男は、入り口にパネルが飾ってあった、この店のNo. 1ホストだ。
「…そう。優也って言います」
「優也くん。デビルジャムに来てくれてありがとうございます」
「あ、たぶん俺の方が年上だけど、敬語じゃなくていいから」
別に仲良くしようと思ったわけではない。もともと気を遣うのが得意な方ではなく、酔っ払ってくるとなおさら、自分が敬語を使うのが面倒だという理由だった。
かと言って自分がタメ口で相手だけ敬語、というのもあまり好きではないので、仕事以外では一応この声がけをするようにしている。
夕陽くんは、ありがたいけど敬語がくせなのだと言って辞退したが、碧スバルはすぐに乗ってきた。
「いいねそれ。そういうの好きだな。優也くんは何歳なの?」
「25歳。そっちは?」
「21歳」
「4つも離れてるのか…」
「大丈夫!僕は年上好きだから」
そう言ってケラケラと笑っているが、冗談が意味不明だ。俺は反応に困って曖昧な笑みを浮かべた。そのとき、酔って頬を赤くした哀子が突然声を上げた。
「優也!もうだめ、限界、帰る!」
目が座っている。さすがにもう帰るとしよう。
「わかったよ。烏龍茶飲んだのか?」
俺が聞き、哀子の代わりに夕陽くんが答えた。
「一応全部飲みました。いま、お会計頼みますね」
「夕陽くん、君はなんてできるやつなんだ…ありがとう」
こんなに好青年な夕陽くんにいつも泥酔して迷惑をかけ、世話させているのかと思うと、哀子が女じゃなければ引っ叩いて目を覚ませと叱りつけたい気持ちになる。
ため息をついたら、隣にいたスバルが顔を寄せてきた。
「ねぇねぇ優也くん、帰る前に僕と連絡先交換しよ」
「は、なんで?」
素っ頓狂な声が出た。いかにも少女漫画から出てきましたというような美形の青年は、にこにこしながらこっちを見ている。その尋常じゃない美しさが、今はかえって不気味だ。
悪気はない。悪気はないが、男に営業かけるわけでもなし、俺とのつながりを持つことに一体なんの意味があるのか。
「俺、哀子と一緒の時くらいしか来ないし、むしろもう二度と来ないかもしれないし、男だし…必要ないだろ?」
「そう言わないでよ。これもなにかの縁じゃない」
「縁っつったって……」
そう呟き、スバルが手渡してきた名刺を何気なくひっくり返すと、IDと思わしき英数字の羅列と、連絡してね!の一言があった。
皆に渡しているのだろう。それにしても、意外にも達筆なことに驚いた。失礼か。
「名刺の裏にID書いてあるじゃん。いいよ、これ貰っていくから」
「あとから名刺見て連絡なんか絶対してくれないだろー。いまじゃないとだめ!ほら!ね!」
「なんでそんなグイグイ来るんだよ……」
スバルの謎の強引さで、普段なら絶対拒否を貫くところなのに、ついつい交換してしまった。
不必要だと思ったから渋っただけで、特に嫌な理由があるわけではなかったから、別にいいといえばいいのだが。
「ありがとう」
日常ではちょっと見られないくらいの美青年が満足げに笑っているから、まあよしとするか。
「あ。優也くん、苗字、相川って言うんだね」
「ああ、そうだけど」
にっこり笑い、碧スバルは俺の眼前に自分のスマートフォンを突き出してくる。見れば、アプリのおともだち一覧の画面のようだ。
「みてみて。僕の友だち、一番上が優也くんになったよ」
見ればその通り、ずらっと並んだ名前のてっぺんに俺の名前があった。すぐ下がアカネ、明菜と続く。友だちの人数が958人となっていて驚いた。
「958人って。お客さん、随分たくさんいるんだな」
「まあでも、この全員といまでも親しいわけじゃないから」
アプリの友達数が多いと言うだけで、ひとつ年下のスバルが、人間として、男として、ひとまわりもふたまわりも大きく感じてしまう。スバルは俺のようなしがないサラリーマンとはまったく違う、価値がある男なのだ。その微笑みに、言葉に、存在そのものに。
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