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デビルジャムで君と3
しおりを挟むあろうことか、会計を済ませた後に哀子が酔い潰れてしまった。どうしても起きなくて、最終的にはお店に任せることになった。非常に心苦しかったが夕陽くん曰くよくあることらしい。
というわけで、帰りはひとりになってしまった俺のことを、スバルがエレベーターで一階まで送ってくれることになった。デビルジャムは雑居ビルの最上階にあるのだ。そんなことしなくていいと言ったのに、「いいからいいから」というキラキラスマイルを振り切れなくて、またも流されてしまう。
ちなみにお客が女の子であれば、送ってもらう時、目当てのホストを指名できるらしい。男なせいか俺には指名権がなかった。ほしくもないのでいいのだが。
「デビルジャムは、女の子と一緒なら男性も入れるからさ。気が向いたらまた来てね、僕の一番の男!」
歩きながらスバルがそんなことを言うので、ここは乗っておこうと思って心にもないことを言う。
「なんか、アカネさんに悪いな、俺みたいなのが一番を譲ってもらっちゃって」
「いいんだよ、アカネは実のねーちゃんだから」
今度は興味なさそうに返された。
「あ、そうなの」
狭いエレベーターに乗り込み、壁にもたれながら、階数の表示が6F、5F、と下がっていくのをただ見つめる。酔っているし朝方だしで、頭の中がぼんやりしていた。
「僕、優也くんとはこれからもっと仲良くなれる気がする」
突然そんなことを言われたので、驚いて隣に立つスバルの方を見た。
「なんだよそれ?」
「自分でもよくわかんない。勘かな。」
No. 1ホストはへらりと笑った。つくづく綺麗な顔をした男だ。俺の知っている男性とはまったく違う、もちろん女性とも違う、神々しい新しい生き物のよう。そう見えるのは、頭がぼんやりしているせいもあるかもしれないが。
エレベーターが一階についた。降りようとした俺の前に、スバルがにこやかに立ちふさがった。軽いノリでおどけてみせているらしい。
「ねえねえ、しとく?えれちゅー。」
「えれちゅーって何?」
「知らないの?お見送りの時にエレベーターの中でちゅーを」
「するわけねーだろ」
馬鹿馬鹿しい。最後まで聞かずにスバルを押しのけ、勢いに任せてエレベーターを降りた。「またねー!連絡するねー!」という明るい声が背後から聞こえる。俺の暴言にめげた様子はない。
なんなんだよ、えれちゅーって。
◆
酔った身体を引きずって家に帰り、最後の力を振り絞ってシャワーを浴び、泥のように寝て起きてから、しみじみと思った。
碧スバル。なんて不思議なやつなんだ。
連絡することは絶対ないが、ついアプリを開いてしまう。
すごく綺麗な男。
デビルジャムのNo. 1ホスト。
「……あ。」
俺のアプリも、その名前が一番上に来ていた。
そのすぐ下に、青野哀子の文字が並ぶ。
『僕、相川くんとはこれからもっと仲良くなれる気がする』
スバルの言葉を、脳内で無意識に反芻していた。
あいつの勘は当たるのだろうか?
ちなみに俺は今のところ、そんな予感はまったくしていない。
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