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あの夜、君と2
しおりを挟む爆笑されて不貞腐れた俺が落ち込んでいるように見えたのだろうか、哀子は慰めるように明るい声を出した。まったく不本意だ。
「優也、変なとこやさしーもんね。超笑っちゃったから説得力ないけど、そういうとこホントいいとこだと思ってるよ。まあ安心して大丈夫、スバルくん、ちゃんと女の子大好きだし。あんたの思ってるとおり、ただの悪ふざけでしょ」
「だよなあ。それを聞いて、安心して今まで通りに冷たく振る舞える」
「でしょー。延長二回もして、あたしがついてよかったねえ」
「そういうことにしといてやろう」
そのあとは、最近新作が出たお互い好きなゲームの話など、くだらない話題で盛り上がった。そして俺は望まぬ延長のために泣く泣く諭吉数人に別れを告げて、キャバクラを出た。
今日は寄り道せず、まっすぐ家に帰ることにする。
◆
タクシーに乗るか迷ったが、さほど酔ってもいないので30分ほどの帰路を歩くことに決めた。夏から秋への変わり目のこの時期は、夜でもそんなに寒くなくて過ごしやすい。
スバルは今頃働いてるだろうな。
そんなどうでもいいことを考えてしまったせいで、嫌でもこの前のことを思い出してしまう。
スバルの家に猫を見に行ったあの日、すっかり長居した夜のこと。
時計を見た俺に気がついて、スバルが声をかけてきた。
『優也くん』
『なんだよ』
『もう帰っちゃう?』
『うーん、そろそろかな。明日からまた一週間始まるし』
『だよね。今日は、遊びに来てくれて本当にありがとう』
『改まるなよ、気持ち悪いな』
俺には猫という目的があったし、何度もお礼を言われるようなことはしていない。飯だって食わせてもらったし。
スバルは気持ち悪いと言われたことを意にも介さず、わずかに肩をすくめ、照れたような表情で申し出た。
『……あのさ、僕』
『ん?』
『もし嫌じゃなかったら、優也って、呼んでもいいかな』
『全然いいけど。何なんだよ急に』
『ありがと。特に深い意味はないよ、この前より仲良くなった気がするし、いいかなって思って』
家にまで遊びに来てしまったので、仲良くなったかはさておき、距離が縮まったことに間違いはない。
『ふうん。まあ俺なんて、会った時から呼び捨てだしな』
『うん。それもなんか嬉しかったんだよね』
呼び捨てにしたいという要望も、スバルが言うように深い意味はない、単なる気まぐれの発言だろうと思ったので特に気にしなかった。
『優也、駅まで送るよ』
『大丈夫だよ。道覚えたし、そんなに遠くないし』
『危ないのに~』
『あほか。男だっつうの』
…それなのに帰り際の玄関で、ふと俺の袖を引いたあいつの顔がなぜか頭から離れない。
『!?なんだよ、離せって』
振り返ると、スバルが神妙な面持ちで、やや上目遣いで俺を見ていた。
『……って』
『へ?』
『なんか、やっぱりまだ帰らないでほしいなって、思って』
『……』
言葉の真意をはかりかねて俺が無言で見つめると、スバルはぱっと手を離した。その顔にいつものいたずらっぽい笑みが広がる。
『ごめん、嘘嘘。冗談っ!』
『……』
『可愛かったろ?ちょっとくらいときめいたりした?』
わざとらしいくらいおどけている。
冗談だと言われているのだから、こっちもいつもの冷たい返しで振り払えば良かったんだが、俺はなぜかそうできずに、奴の顔をじっと見つめてしまった。
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