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あの夜、君と3
しおりを挟む自分でも驚くくらい、それは無意識で自然な言葉だった。
『…やっぱ駅まで送ってもらおうかな』
『!!』
スバルの顔から不自然なほどの明るい笑みが消え、みるみるうちに頬が真っ赤に染まっていった。
『お、送る!送るよ!』
『早く靴を履け』
『待って、急ぐから』
『…今日は帰るけど、別に、また来るし』
自分でもなんでそんなことを言ったのかわからない。あの瞬間の思考回路がまったくもって思い出せない。
スバルは動きを止めて、俺の顔を見た。
『でも、猫、いなくなっちゃうよ』
『そうだ。近々返すって言ってたよな』
猫がいないならここに来る意味はない。
もっと言えば、そもそもスバルと仲良くする意味もない。わけがわからない。
『でも、また来るよ』
俺がそう言うと、スバルが今度はふわっと笑った。いつもの人懐こい、安心する笑顔だ。
そして嬉しそうに言った。
『約束だよ。待ってるから。』
◆
思い出すとおぞましくて鳥肌が立ってしまう。なんなんだあの夜のことは。まったくどうかしていた。あいつの家で、酒が少し入っていたのはあるとしても、俺は毒でも盛られたのだろうか?
自分が自分じゃない生き物になってしまったようだ。優しすぎるし、その優しさもなんか気持ち悪すぎる。
しかも相手はスバル。
「……勘弁してくれよ」
ただなんかあの時は、突き放しちゃいけないような気がしたのだった。ここで突き放したら、こいつは傷ついてボロボロになっちゃうんじゃないかって、何故かわからないがそんな予感がした。
こいつ、もしかして本気なんじゃないかな。
一ミリくらいはそんな思いも、あった。
でもまあ哀子に確認を取り、どうやら俺の恥ずかしい勘違いだったということで、事なきを得そうだ。
同性すらも騙せてしまうホストの駆け引き術というのは恐ろしい。どうしてその技を俺に仕掛けてくるのかまったくわからないが、心底学びたい。
…学んで、可愛い彼女でも作りますかね。そろそろ俺も。
家までの夜道を歩きながらまた、スバルの伏し目がちの切なそうな顔を思い出す。
なんであいつは俺に帰らないでほしいなんて言ったんだろう。単に寂しかったのだろうか。だとしたら気持ち悪い。気持ち悪いけど、どういうわけか心配な思いもある。年下だから、弟みたいな感覚になっているのだろうか。なんにしても。
あいつがなるべく寂しい思いをしてなきゃいいな、とか、柄にもないことを考えてしまった。
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閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
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