13 / 26
あの夜、君と
しおりを挟むスバルの家を訪ねてから二週間。
まったくそんなつもりじゃなかったのに、金曜の夜、俺は哀子の務めるキャバクラに来ていた。
酒は飲むが、もともと女の子のいる店はそんなに好きじゃないし、ホストなんてもってのほかだった。居酒屋で気楽にワイワイやるのが好きで、その日会った他人に気を遣いながら飲むなんて本来まっぴらごめんだったのである。
じゃあなぜいまキャバクラにいるのかといえば、嫌々参加した会社の打ち上げでなぜか流れ着いてしまった、という言葉に尽きる。二軒目を出た頃にはもう職場の女の子たちは帰ってしまい、男だらけになっていた。その中にはもちろん、後輩のさわやかボーイ山口もいる。
俺以外の皆が、どこかいいキャバクラはないのか!?といって女性を求め始めたので、いちばん酔っていなくてまともだった俺が、いい店を探す役割になってしまったのだ。幹事でもないのに、何故。
とはいえ行ったことがない店をあれこれ調べて考えるのはめんどくさいので、速攻で哀子に電話をかける。
「いまから五人くらいで行きたいんだけど忙しい?」
『ぜんぜんいいよ、暇だしむしろ歓迎。でも店ではちゃんと源氏名で呼びなさいよ、愛衣って』
念押しをされ、へいへいと適当に頷き、酔っ払いどもを引き連れてキャバクラに乗り込んだのであった。
◆
「……で、なんで俺はいまひとりなんだと思う?」
おしぼりを折ったり戻したりしながら、俺はじとっとした声音でつぶやいた。目の前には、朝方のホストクラブにいるときとは違って、背筋を綺麗に伸ばした哀子がすまし顔で座っている。
「延長も終わって、皆がじゃあこれでお開き~となったところで、あんただけあたしにさらなる延長を命じられたからじゃない?」
細身のタバコを灰皿に押し付けながら、まったく悪びれずに哀子が言う。
「分かってんならせめて他の可愛い子をつけろ。なんでお前なんだよ。席でタバコ吸ってんじゃねえよ」
「じゅーぶん可愛いっつーの!あ、指名料ももらうからよろしくねん」
出勤しているときの哀子を見たのは初めてではないが、いかにも夜のお姉さんといった雰囲気で、どうにも落ち着かない。いつもより露出が激しいし、メイクは濃いし、髪の毛もアップにしている。白くて細い首もとが美しい。
俺はうなじが好きなので、普段なら男の性として心持っていかれそうになったりもするのだが、これが哀子となると話は別だ。大好きなうなじを見せつけられても真顔で対応できる。俺にとって哀子は、実の母親とか妹とかみたいなもので、意識する方が難しいしたぶん逆もそうだろう。
「そういやさ、哀子に聞きたかったことがあるんだけど」
「ん、なに?」
「……スバルってホストいるだろ」
俺が奴の話を持ち出すことを不自然だと思われたくなくて、なるべくさらりと切り出した。哀子は眉毛をひそめて、それがどーしたという大変分かりやすい表情を作る。
「うん、デビルジャムのスバルくんでしょ? なんか仲良いっぽいよね、最近」
「あいつってさ、その……男が好きな男……だったりすんのかな……?」
一瞬間が空いて、哀子は爆笑した。それはもう涙を流すほどの気持ちいいくらいの爆笑だった。
「あははは、なに、あんたスバルくんのこと狙ってんの?」
「な、なんで俺が狙うんだよ!」
「だって今のは完全に、不意打ちで同性を好きになってしまった男が、ワンチャンあるかないかを探ろうとしているって流れだったじゃん」
肩を震わせてまだ笑う。だんだんイライラしてきた。
「俺じゃなくて、あいつがふざけて好き好き言ってくるんだよ。当然冗談だと思ってあしらってんだけど……最近そういう、同性愛、とかもよくある話っぽいからさ、ガチだったら俺すげえ無神経に傷つけてる酷いやつなんじゃないかと思って、いちおー、聞いてみただけだよ」
言いながら、果てしなく情けない気持ちになってきた。真に受けているわけじゃないのに、真に受けている風になってしまっているのもなんだか悔しい。
それにしても、ただのノリだとするならスバルのあの好き好き攻撃はなんなのだ。タイプだと言ってみたり、俺の反応に過剰に喜んでみたり、意味不明だから本気でやめてほしい。
122
あなたにおすすめの小説
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる