文字の大きさ
大
中
小
61 / 122
第三章 王都誘拐事件編
第53話 骸たち
地下にしては広い大部屋に不穏な気配が漂っている。
俺とマモン教司祭との戦いが今にも始まろうとしている。
「...はっ!」
俺は剣を構えてすぐさま地面を蹴り出して相手の懐へ潜り込む。見たところ、この男は魔法戦闘に特化したタイプのようだから近接戦闘に持ち込んで早期決着を試みることにする。
案の定、俺のスピードに反応できておらず難なく剣の間合いに入ることが出来た。
そしてジェラの胴体を左下から勢いよく切り上げる。
俺の斬撃は躱されることもなく奴の体を斬りつけた。
想定していた以上に呆気ない戦いだった。
いや、何かがおかしい。
俺は謎の違和感に襲われた。
「ふっふっふ、やはり愚かですね」
その次の瞬間、斬られたはずのジェラの体が黒い靄のようなものへと変化して俺を飲み込んだ。そうして一瞬にして俺の視界は真っ暗な闇に包まれた。
「ユウトさん!!!」
心配そうなセレナ様の声がどこからか微かに聞こえてくる。
しかし徐々に俺のあらゆる感覚が失われていく。
そして俺は完全に五感の全てを感じることがなくなった。
...................
............
.....
(ここは、どこだ...)
(俺は、一体...)
何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。
ただただ真っ暗な闇だけがそこにある。
(...何か大切なことを忘れているような)
必至に自分の記憶を遡ってみる。
しかし頭に靄がかかっているかのようで何も思い出せない。
...もう頑張らなくていい。
(いや、俺は何かをしなければならなかったはずだ)
...もう十分だろう。
(そう、なのか)
...ああ、もうゆっくりと休め。
(俺は...休んでもいいのか?)
...もちろんだ、それが君のためだ。
(そうか、分かった)
彼の言う通り、俺はもう十分頑張ったのだろう。
もう休んでもいいよな。
(......)
五感全ての感覚が失われて、唯一残っていた意識さえ徐々に消えつつあった。
これで俺は...
《称号『勇敢なる者』の所有者の意識に許容量を超える負荷を確認。よって称号『勇敢なる者』の効果が発動します》
突然どこからか無機質な声が聞こえてくる。
その声が聞こえてきた直後、闇へと沈みかけていた意識が一気に浮上を始めた。
(...そうだ、思い出した。俺はセレナ様を救出しなければいけないんだ)
(ジェラを斬った時に奴の体が黒い霧に変化して、俺はそれに飲まれたのか)
先ほどまで靄がかかって思い出せなかった記憶が今では鮮明に頭に浮かんでくる。
それに頭がスッキリとして今なら現状の把握も出来る。
(この闇はおそらく奴の魔法...だろうな。加えてさっきまでの俺の状況を考えると、精神攻撃系だな)
精神攻撃系の魔法と言えば闇属性の魔法だ。
それも人ひとりの意識を完全に消せるほどとなればかなり高レベルな魔法だろう。
(さすがに今まで精神を攻撃されたことなかったから対処しきれなかったな。油断は全くしていなかったつもりだったけれど、完全に不覚を取られたものだ)
これは事前にこういうこともあると想定していなかった自分の落ち度だ。
ここは素直に自身の力不足を認めなければな。
それはさておき、今のこの状況をどう打開するかを考えないと。
《熟練度が一定に達しました。スキル『精神攻撃耐性』を獲得しました》
精神攻撃耐性か!これは良いスキルを手に入れた。
これで奴の魔法で惑わされることがなくなった。
スキルを獲得してから俺の感覚は微かに元に戻ろうとしていた。
しかしまだスキルのレベルが足りないのか完全には復活できていない。
《熟練度が一定に達しました。スキル『精神攻撃耐性』がレベルアップしました》
この闇の中にいる間は常に精神攻撃を受けているためスキルの熟練度が次々と上がっているようだ。このままじっとしていてもおそらくはいつか抜け出すことが出来るのだろうが、今は一刻を争う事態だ。外の様子がどうなっているのか分からないからお嬢様の安否も分からない。
俺はすぐにでもこの闇から抜け出すためにすべきことをする。
この闇は俺の精神に直接介入して意思を削ぐのだろう。
ならばより強く自身の意思を保ち抵抗をすれば解除できるのではないかと思う。
確証はないが今は一分一秒でも早くここから脱出しなければならない。
さあ意思を強く持て、俺!彼女を守り抜くために!!
《熟練度が一定に達しました。スキル『精神攻撃耐性』がレベルアップしました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『精神攻撃耐性』が...》
《熟練度が一定に達しました...》
《熟練度が...》
《...
「はぁ!!!!!」
闇が晴れて俺の目に久しぶりにも感じる光が入り込んできた。
俺の意思が魔法に打ち勝った瞬間であった。
石造りの薄暗い大部屋。
目の前には苦虫を嚙み潰したような表情をしているジェラ。
そして後ろにはセラピィの魔法によって守られているセレナ様がいた。
どうやら手遅れではなかったようだ。
俺は安心してほっと胸をなでおろす。
「...まさか私の精神攻撃が破られるとは。完璧に堕ちたと思ったのですがね」
「ああ、あと少しで危うくお前の闇に飲まれるところだったよ。だが相手が悪かったな」
ジェラは深くため息をつくと再び以前の自信に満ち溢れた表情へと戻る。
精神攻撃以外にもおそらくは何かあるのだろう。
「少々驚きましたね。仕方がない、私も本気でお相手するとしましょうか」
やはりまだ何か隠していたようだ。
俺は剣を握り、いつでも何にでも対応できるように準備する。
今度は不用意に突っ込まずに相手の出方を伺う。
「漂いし亡者たちよ、今再び現世にて、その怨恨を纏え。『骸たちの武闘』」
ジェラが魔法の詠唱をし終えると奴の周囲にどこからともなく複数体の骸骨が現れた。その数、探知で数えてみると23体。そのそれぞれが真っ黒の禍々しい雰囲気を漂わせたオーラを身にまとい、そして深紅の武器を身につけていた。
すかさず俺は禍々しい骸骨たちに対して鑑定を行う。
======================
種族:カース・スケルトン Lv.10
状態:従属
HP:100 / 100
MP:0 / 0
攻撃力:50
防御力:1
俊敏性:50
知力:0
運:0
スキル:
======================
呪いのスケルトンか。
しかしステータスやレベル、スキルのどれも全くもって戦力外。
本気を出すと言って召喚したものにしては...何だか不気味だな。
「さあ、我が骸たちよ!目の前の男を駆除したまえ!!」
ジェラの号令と同時にすべての骸骨たちが攻撃を仕掛けてきた。
骨だけの存在にも関わらずかなりの素早さと力強さを兼ね備えているようだ。
「はああぁぁぁぁ!!!」
俺は一番近い骸骨の前へと瞬時に移動し斬撃を繰り出す。やはり俺が見たステータスは正しかったようでカース・スケルトンは一撃で崩れ、体を構成していた骨が辺りに散らばった。
想像以上に呆気なさすぎる。こんなのが数十体ほどいたところで全く意味を成さないのは奴も分かっているだろうに。こんなのが奴の本気とは到底思えない。やはり何か隠しているに違いないな。
「ふっふっふ、この子たちの真髄はここからですよ!」
ジェラはそう告げると先ほど俺が倒したはずの骸骨の残骸が突然動き出し、時間が巻き戻ったかのように元の形に復元されていった。そうしてまたもやその骸骨はこちらへと一目散に向かってくる。
「くっ、そういうことか...!」
「もちろんですとも。私の骸たちはどんなに倒されようが復活して獲物を逃がさないのです。しかもこの子たちは倒されれば倒されるほど相手の攻撃を自身の力としてパワーアップして復活するのですよ!どうですか、もうあなたには勝ち目はないでしょう」
こちらへと迫ってくるカース・スケルトンを今度は攻撃をせずに回避してやり過ごす。闇雲に攻撃して手の追えないところまで強化されてはたまったものじゃない。今の俺のステータスだと一体一体がゴブリン・イクシード並みまで強化されなければ問題ないのだが、果たしてそこまでこいつらは成長するのだろうか。
いや、万が一の状況になればセラピィがセレナ様を守り切れなくなってしまう。
それは避けなければならない。
俺は強化復活したカース・スケルトンに再度鑑定をしてみることにした。
何か突破口となる情報があればとステータスを隅から隅まで観察をする。
======================
種族:カース・スケルトン Lv.15
状態:従属
HP:200 / 200
MP:0 / 0
攻撃力:100
防御力:5
俊敏性:100
知力:0
運:0
スキル:
======================
一度の復活でHPや攻撃力、俊敏性などが倍に。
そして防御力も微かではあるが上昇している。
一度の伸び幅は大したことはないが塵も積もれば何とやらということでやはり無策に攻撃するのは避けた方が良いだろう。
それにこのスケルトンたちがジェラに召喚された魔物であるというのであれば、一つ明確な弱点として術者がキーであるというのは分かっている。しかしそれは奴も理解しているようで他の奴らとは違う一際強いスケルトンが奴の周りを固めているのだ。
何も考えず奴を攻撃するだけなら守りを突破して攻撃をするのは可能だが、そうなるとおそらく奴は後ろのセラピィとセレナ様を狙うだろう。
はぁ、しかし何でこうもこの世界では悪役っぽい方が戦いの中で成長して、俺はその理不尽に何度も耐えなければいけないんだ?俺は心配性の賜物である事前準備のおかげで何とか戦えているが、俺もラノベの主人公みたいに戦いの中で成長して相手を圧倒するっていう展開の方がいいんだけどな..
成長、レベルアップ、魔物、術者...か。
俺はふと思い浮かんだ仮説に対しての確証を得るためにジェラに対して鑑定を行う。
なるほどね、これは予想どおりだった。
さて、ここからは俺がこの物語の主人公になる番だ。
感想 24
あなたにおすすめの小説
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
2026.04.29 内容一部修正(序盤に書いたヒロインの髪色が違うため。)
2026.05.07 思いついてしまったので完了解除
ハッカの子に転生してしまった不遇の子の話
転生幼女のチートな悠々自適生活 伝統魔法を使っていたら賢者になっちゃいました
犬社護この度、書籍化が決定しました!
イラスト担当は、えすけー様です。
5月13日刊行予定です。
あらすじ
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています