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第三章 王都誘拐事件編
第53話 骸たち
地下にしては広い大部屋に不穏な気配が漂っている。
俺とマモン教司祭との戦いが今にも始まろうとしている。
「...はっ!」
俺は剣を構えてすぐさま地面を蹴り出して相手の懐へ潜り込む。見たところ、この男は魔法戦闘に特化したタイプのようだから近接戦闘に持ち込んで早期決着を試みることにする。
案の定、俺のスピードに反応できておらず難なく剣の間合いに入ることが出来た。
そしてジェラの胴体を左下から勢いよく切り上げる。
俺の斬撃は躱されることもなく奴の体を斬りつけた。
想定していた以上に呆気ない戦いだった。
いや、何かがおかしい。
俺は謎の違和感に襲われた。
「ふっふっふ、やはり愚かですね」
その次の瞬間、斬られたはずのジェラの体が黒い靄のようなものへと変化して俺を飲み込んだ。そうして一瞬にして俺の視界は真っ暗な闇に包まれた。
「ユウトさん!!!」
心配そうなセレナ様の声がどこからか微かに聞こえてくる。
しかし徐々に俺のあらゆる感覚が失われていく。
そして俺は完全に五感の全てを感じることがなくなった。
...................
............
.....
(ここは、どこだ...)
(俺は、一体...)
何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。
ただただ真っ暗な闇だけがそこにある。
(...何か大切なことを忘れているような)
必至に自分の記憶を遡ってみる。
しかし頭に靄がかかっているかのようで何も思い出せない。
...もう頑張らなくていい。
(いや、俺は何かをしなければならなかったはずだ)
...もう十分だろう。
(そう、なのか)
...ああ、もうゆっくりと休め。
(俺は...休んでもいいのか?)
...もちろんだ、それが君のためだ。
(そうか、分かった)
彼の言う通り、俺はもう十分頑張ったのだろう。
もう休んでもいいよな。
(......)
五感全ての感覚が失われて、唯一残っていた意識さえ徐々に消えつつあった。
これで俺は...
《称号『勇敢なる者』の所有者の意識に許容量を超える負荷を確認。よって称号『勇敢なる者』の効果が発動します》
突然どこからか無機質な声が聞こえてくる。
その声が聞こえてきた直後、闇へと沈みかけていた意識が一気に浮上を始めた。
(...そうだ、思い出した。俺はセレナ様を救出しなければいけないんだ)
(ジェラを斬った時に奴の体が黒い霧に変化して、俺はそれに飲まれたのか)
先ほどまで靄がかかって思い出せなかった記憶が今では鮮明に頭に浮かんでくる。
それに頭がスッキリとして今なら現状の把握も出来る。
(この闇はおそらく奴の魔法...だろうな。加えてさっきまでの俺の状況を考えると、精神攻撃系だな)
精神攻撃系の魔法と言えば闇属性の魔法だ。
それも人ひとりの意識を完全に消せるほどとなればかなり高レベルな魔法だろう。
(さすがに今まで精神を攻撃されたことなかったから対処しきれなかったな。油断は全くしていなかったつもりだったけれど、完全に不覚を取られたものだ)
これは事前にこういうこともあると想定していなかった自分の落ち度だ。
ここは素直に自身の力不足を認めなければな。
それはさておき、今のこの状況をどう打開するかを考えないと。
《熟練度が一定に達しました。スキル『精神攻撃耐性』を獲得しました》
精神攻撃耐性か!これは良いスキルを手に入れた。
これで奴の魔法で惑わされることがなくなった。
スキルを獲得してから俺の感覚は微かに元に戻ろうとしていた。
しかしまだスキルのレベルが足りないのか完全には復活できていない。
《熟練度が一定に達しました。スキル『精神攻撃耐性』がレベルアップしました》
この闇の中にいる間は常に精神攻撃を受けているためスキルの熟練度が次々と上がっているようだ。このままじっとしていてもおそらくはいつか抜け出すことが出来るのだろうが、今は一刻を争う事態だ。外の様子がどうなっているのか分からないからお嬢様の安否も分からない。
俺はすぐにでもこの闇から抜け出すためにすべきことをする。
この闇は俺の精神に直接介入して意思を削ぐのだろう。
ならばより強く自身の意思を保ち抵抗をすれば解除できるのではないかと思う。
確証はないが今は一分一秒でも早くここから脱出しなければならない。
さあ意思を強く持て、俺!彼女を守り抜くために!!
《熟練度が一定に達しました。スキル『精神攻撃耐性』がレベルアップしました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『精神攻撃耐性』が...》
《熟練度が一定に達しました...》
《熟練度が...》
《...
「はぁ!!!!!」
闇が晴れて俺の目に久しぶりにも感じる光が入り込んできた。
俺の意思が魔法に打ち勝った瞬間であった。
石造りの薄暗い大部屋。
目の前には苦虫を嚙み潰したような表情をしているジェラ。
そして後ろにはセラピィの魔法によって守られているセレナ様がいた。
どうやら手遅れではなかったようだ。
俺は安心してほっと胸をなでおろす。
「...まさか私の精神攻撃が破られるとは。完璧に堕ちたと思ったのですがね」
「ああ、あと少しで危うくお前の闇に飲まれるところだったよ。だが相手が悪かったな」
ジェラは深くため息をつくと再び以前の自信に満ち溢れた表情へと戻る。
精神攻撃以外にもおそらくは何かあるのだろう。
「少々驚きましたね。仕方がない、私も本気でお相手するとしましょうか」
やはりまだ何か隠していたようだ。
俺は剣を握り、いつでも何にでも対応できるように準備する。
今度は不用意に突っ込まずに相手の出方を伺う。
「漂いし亡者たちよ、今再び現世にて、その怨恨を纏え。『骸たちの武闘』」
ジェラが魔法の詠唱をし終えると奴の周囲にどこからともなく複数体の骸骨が現れた。その数、探知で数えてみると23体。そのそれぞれが真っ黒の禍々しい雰囲気を漂わせたオーラを身にまとい、そして深紅の武器を身につけていた。
すかさず俺は禍々しい骸骨たちに対して鑑定を行う。
======================
種族:カース・スケルトン Lv.10
状態:従属
HP:100 / 100
MP:0 / 0
攻撃力:50
防御力:1
俊敏性:50
知力:0
運:0
スキル:
======================
呪いのスケルトンか。
しかしステータスやレベル、スキルのどれも全くもって戦力外。
本気を出すと言って召喚したものにしては...何だか不気味だな。
「さあ、我が骸たちよ!目の前の男を駆除したまえ!!」
ジェラの号令と同時にすべての骸骨たちが攻撃を仕掛けてきた。
骨だけの存在にも関わらずかなりの素早さと力強さを兼ね備えているようだ。
「はああぁぁぁぁ!!!」
俺は一番近い骸骨の前へと瞬時に移動し斬撃を繰り出す。やはり俺が見たステータスは正しかったようでカース・スケルトンは一撃で崩れ、体を構成していた骨が辺りに散らばった。
想像以上に呆気なさすぎる。こんなのが数十体ほどいたところで全く意味を成さないのは奴も分かっているだろうに。こんなのが奴の本気とは到底思えない。やはり何か隠しているに違いないな。
「ふっふっふ、この子たちの真髄はここからですよ!」
ジェラはそう告げると先ほど俺が倒したはずの骸骨の残骸が突然動き出し、時間が巻き戻ったかのように元の形に復元されていった。そうしてまたもやその骸骨はこちらへと一目散に向かってくる。
「くっ、そういうことか...!」
「もちろんですとも。私の骸たちはどんなに倒されようが復活して獲物を逃がさないのです。しかもこの子たちは倒されれば倒されるほど相手の攻撃を自身の力としてパワーアップして復活するのですよ!どうですか、もうあなたには勝ち目はないでしょう」
こちらへと迫ってくるカース・スケルトンを今度は攻撃をせずに回避してやり過ごす。闇雲に攻撃して手の追えないところまで強化されてはたまったものじゃない。今の俺のステータスだと一体一体がゴブリン・イクシード並みまで強化されなければ問題ないのだが、果たしてそこまでこいつらは成長するのだろうか。
いや、万が一の状況になればセラピィがセレナ様を守り切れなくなってしまう。
それは避けなければならない。
俺は強化復活したカース・スケルトンに再度鑑定をしてみることにした。
何か突破口となる情報があればとステータスを隅から隅まで観察をする。
======================
種族:カース・スケルトン Lv.15
状態:従属
HP:200 / 200
MP:0 / 0
攻撃力:100
防御力:5
俊敏性:100
知力:0
運:0
スキル:
======================
一度の復活でHPや攻撃力、俊敏性などが倍に。
そして防御力も微かではあるが上昇している。
一度の伸び幅は大したことはないが塵も積もれば何とやらということでやはり無策に攻撃するのは避けた方が良いだろう。
それにこのスケルトンたちがジェラに召喚された魔物であるというのであれば、一つ明確な弱点として術者がキーであるというのは分かっている。しかしそれは奴も理解しているようで他の奴らとは違う一際強いスケルトンが奴の周りを固めているのだ。
何も考えず奴を攻撃するだけなら守りを突破して攻撃をするのは可能だが、そうなるとおそらく奴は後ろのセラピィとセレナ様を狙うだろう。
はぁ、しかし何でこうもこの世界では悪役っぽい方が戦いの中で成長して、俺はその理不尽に何度も耐えなければいけないんだ?俺は心配性の賜物である事前準備のおかげで何とか戦えているが、俺もラノベの主人公みたいに戦いの中で成長して相手を圧倒するっていう展開の方がいいんだけどな..
成長、レベルアップ、魔物、術者...か。
俺はふと思い浮かんだ仮説に対しての確証を得るためにジェラに対して鑑定を行う。
なるほどね、これは予想どおりだった。
さて、ここからは俺がこの物語の主人公になる番だ。
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