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 泉から戻った我々は森の麓に宿を取りました。聖獣を従えたセリーヌ様の姿を見てわっと村の人々が沸き立ちます。セリーヌ様は当然だとでもいうように人々の賛辞を澄ました顔で受けています。

 人垣からおもむろに端の切れたボロを身にまとった子供が押し出されるように出てきました。
 彼女は枯れ木のように細い身体で、眩しそうにユニコーンを見つめています。
 
 そして彼女がおもわず、といった様子で手を伸ばそうとすると、パチンという音が響きます。シワひとつない手袋が、細く小さな傷だらけの手を払い除けたのです。

「あっ……」

 女の子はぽかんとしましたが、すぐに顔を歪めて自ら走り去っていきます。

「待って!!」

 私は思わず駆け出して彼女を追いかけます。

 裏道にある、屋根すらまともにないあばら家、そこで彼女はうずくまって泣いていました。

「あなた…」

 びくりと彼女は大きく体を震わせます。怯えているような瞳は、当然でしょう。彼女にとって私は、人々の希望であるにも関わらず、彼女を否定した勇者と聖女の仲間なのですから。

「あなたは強い子ですね。私があなたの年頃のころは、人前で涙を我慢するなど出来ませんでしたよ」

 そう笑いかけると、彼女は声を上げて泣いてしましました。我慢していたのでしょうか、他に頼る大人がいなかったせいでしょうか。

 恐ろしく軽い体を私に預けて、しばらくすると寝息が聞こえてきます。私は彼女を背負います。彼女を一人にすることなど到底出来はしませんでした。
 
 町の教会へ赴き、彼女を孤児院に入れてはもらえないかと請願します。この時勢では孤児は増える一方です。よってどこも厳しいのですが、それは思いの外あっさりと叶えられました。
 
 なんでもそこの神父が私が世話になった先代の院長との知己だというのです。

「わしも側で見てたが、あんな女が聖女さまおは世も末だな。それにあの勇者ってのも気に入らねえな。見てて止めようともしねえ」

「し、神父様」

「側にいるあんたの方がようくわかっとるんじゃないか?」

 確かにシュン様の瞳には出逢った頃の純粋さはすでになく、驕りと欲にまみれた陰り。そして私はそれにずっと気づかないふりをしていました。

「それでも、あの方はこの世界に必要なお方なのです……」

 
 

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