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第二章 幼少期~領地編
41.お手軽甘味
しおりを挟むレングナー道具店を出た後に、パン屋と雑貨屋をみてから、転移で領主館に帰宅した。
そして、今、夕食前の調理場にいる。
甘いものを作るんだ。
私が転生した世界、リーファソールには甘味が少ない。
砂糖はあるが、生産量が少ないため高価だ。
ハチミツもあるんだが、魔獣の蜂しかいないため養蜂ができない。冒険者の採取頼みのため、こちらも高価なものとなっている。
今回、市場やパン屋や雑貨屋を見て、甘いものがとても少ないことに驚いた。
砂糖やハチミツが高価なため、庶民の普段使いには手が出ない。一般的に流通している甘味は、素材本来の甘味を生かしたものになるらしい。
果物のジュースやせいぜいカットフルーツを使ったガレットくらいだ。
クッキーも少し高いが、王都よりもカネッティ領では庶民の口に入りやすいとのことだ。
カネッティ領は豊かな土地での小麦の生産や酪農によって、小麦粉や乳牛もどきのモーの乳が他領よりも安価で手に入るからだ。それでも、その領都フォルツで甘味が少ないと感じたんだから、他領ではどれほどなのだろうか?
王都の屋敷で、当たり前に毎日のおやつにお菓子を食べていたけれど、自領の特性と高位貴族であることの恩恵を受けての食生活なのだなぁと改めて思う。
不思議だったのは、干した果物を見かけなかったこと。干すことで甘みが凝縮されることが知られていないのだろうか?
屋敷で出るおやつにも、ドライフルーツを使ったものは出たことはないし、お菓子自体の種類が限られているのは感じていた。
毒事件の時のお菓子を覚えているだろうか?
そう。お城で出たマカロン!
マカロンなんだが…、マカの実をオーブンで焼いて、クリュの実のクリームを挟んだだけだ。
マカの実は皮をむいてただ焼くだけ。クリュの実は殻を割って空気に触れると、液体がクリームのようにモッタリするんだ。しかも少し甘い。それを焼いたマカの実に挟むだけだ。
因みにクリュの樹液は苦いらしい。実に甘みがあるから試した人がいたみたい。
様々な事柄から推測するに、非常に残念なことだが、この世界のお菓子はあまり発展していないように思う。
今回、庶民でも手に入る、安価で簡単な甘味を作ろうと思った。
だから、料理長に無理を言って、調理場の一角を貸してもらった。
5歳児が調理場を貸してほしいと言っても断られるよね。初めは断られたんだ。でも、調理場に案内してくれたエルンストさんに助言してもらって、渋々オーケーをもらった。
エリアに用意してもらったエプロンは、猫のアップリケがついている。
助手のレオンも色違いでお揃いだ。
リヒト先生は、端で興味津々の瞳で座って見学するつもりのようだ。
まずは、下ごしらえとして、ドライフルーツを作る。
市場で買ってきた、葡萄に似たレーズ、林檎に似たアップ、苺に似たローベ、すももに似たプルを魔法で乾燥させる。今日は時間短縮で魔法を使うが、普通に天日干しで大丈夫だろう。
今回は、すぐ使うし洋酒に漬けるわけでもないので、甘みが出つつ硬すぎないという、繊細な魔力操作が必要だった。
( よーし、でーきたっ! ちょっと味見! うん!うまいっ!! )
レオンと先生の口にも入れてあげたら、甘くなっているから、二人とも目を丸くしている。
ドライフルーツができたところで、細かく刻んでおく。刻んでから乾燥させてもいいだろう。
今日は、庶民の甘味を作りたいから、クッキー生地とパン生地を、調理場の人にいつも自宅で作っているように用意してもらった。生地も改良の余地がおおいにありそうだが、今回は見送って後日だね。
刻んだドライフルーツを生地に練り込んで、表面に少し飾る。
レオンにやってもらったけど、粉だらけになって頑張ってた。
クッキーとパンそれぞれを、調理場の人にいつも自宅で作るのと同じように焼いてもらう。
その間に、もう一つの素材を無限収納から取り出した。
市場で、野菜の中に芋を見つけた。白い皮の中はピンク色をしている芋はスイポというらしい。鑑定したら、前世のさつま芋に近いことがわかったんだ。
カネッティ領は大陸の南東部にある。植生が近いのであれば、スイポも甘い可能性が高い。
冒険者向けに、干し肉はあるし乾燥野菜もあるが、ドライフルーツや干し芋はないんだよね。
あっても良さそうなのになんでだろう? 不思議だ…。
今度は、スイポをクリュの実と混ぜて焼こうかな?
クリュの実は、中に生クリームのような液体が詰まっていて、なめると少し甘みがある。でも、森の深部でしか採れないから高価なんだよね。
モーの乳だと砂糖を少し使うし、今日はやっぱりクリュの実にしよう。
これから作るのはスイートポテトだ。庶民のお菓子としても良さそうだが、今回はお爺様とお婆様に食べてもらいたいから、クリュの実を使って作ることにする。モーの乳よりちょっとだけ濃厚な味になるはずだ。スイポがお菓子にも使えるって知ってほしいんだ。
スイポの皮をむき、1センチくらいの厚さに切り水にさらす。その後で火にかけ柔らかくなるまで煮る。
取り出してペースト状になるように潰す。
ここで、潰したスイポの半分を、先程取り分けておいたクッキー生地とパン生地に混ぜ込んで焼いてもらう。これも表面にスイポのペーストをのせて…とっ。
それから、潰したスイポに、クリュの実のクリームとバターを加えて成形してオーブンに入れる。綺麗な焼き色がついたら完成だ。
( おーっ! いい匂いだぁ。 孫に作って以来だから、ずいぶん久しぶりなんだけど、うまくできたかな? )
作っている間、ずっと調理場の料理人達の視線を感じていた。
先にできたドライフルーツのクッキーとパン。次に作ったスイポを練り込んだクッキーとパン。それとスイートポテト。クッキーとパンは身近にある食材で作ったし、スイポからお菓子を作るなんて聞いたことがないらしいから、尚更気になるのだろう。
さて、夕食の後にどこで試食会を開こうか?
皆の忌憚のない意見が聞きたいから、お爺様とお婆様も一緒に試食会にできないかな?
エルンストさんに相談したところ、夕ご飯の量を少し減らして、その後にお茶をいただきながら試食することになった。
試食会の話を聞いたらしく、お爺様達もリヒト先生もとても楽しみにしているようだった。
私達の夕ご飯が終わり場所を談話室に移し、使用人達も都合のつく人には集まってもらった。お爺様達はソファーに座って待っている。
そこに先刻作った2種類のクッキーと小さく切ったパン。そしてスイポで作ったスイートポテトを運んでもらう。
お爺様達には、2種類のクッキーとパンとスイートポテトを皿に取分け、使用人の人達にも1種類ずつを食べて感想を聞かせてくれるようにお願いする。
まずは、お爺様がクッキーを一口食べた。
ドライフルーツの甘みに驚いている。
お婆様はスイポのパンを食べて、甘みとホクホク感に顔を綻ばせている。
スイートポテトの甘みと濃厚な味わいにも驚いている。
先生とレオンは無言で黙々と食べているが、キラキラした瞳が美味しいと言っているようだ。
エルンストさんも黙々と食べているが、ウンウンと考えながら感心しながら食べている感じだ。
エリアは、ルカに食べさせながらニコニコして食べている。
これは絶対に王都に帰ってから、『美味しかったですね』とか言われて作ることになりそうだなぁ…。
使用人の人達も、まずは甘みに驚き、ドライフルーツやスイポを混ぜ込んだ食感も高評価で、総じて大変美味しいと好評だった。
料理長がじっくり味わって食べて、考え込んでいた。
作り方は簡単なので、見ていてだいたい分かったと思うが、調理場の皆には一通り説明したんだ。
何か閃いたのだろうか?どんな応用をしてくれるのか楽しみに待っていよう。
お爺様達と相談して、ドライフルーツやスイポのお菓子を領内に広めるとともに、特産品にすることになった。
これで少しはお菓子が発展するかな?
滞在中にまた何かお菓子を作ろうかな?
醤油もどきも手に入ったし、食生活にも少しずつ手を加えていこうと思う。
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