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第二章 幼少期~領地編
57.土壌改良
しおりを挟む翌日、朝焼けに景色が色づき始める頃、村の広場には、多くの人々が集まっていた。小さな村の住人が全員集まってくれたようだ。赤ちゃんは母親に背負われ、年寄りは杖をつきながら、総出で新しい試みに参加することを楽しみにしている。
村では、ここ数年、農作物の収穫量が落ちており、ほとんど自家消費のために飼っているモーの乳を売り、生まれた馬を売り、なんとか暮らしを成り立たせていた。食うに困るわけではない。それでも、物納すると村の倉はカラになり、商人に農作物を売り必要なものを購入するという余分が出なくなっていたようだ。そこに、農作物の収穫量がアップするという話があれば、総出で作業しようという気持ちになるのも当たり前である。
因みに、カネッティ領では納税は、物納で構わない。収穫量の何割という割合は、その土地土地で異なっており、気候風土、土壌、病気、害虫等様々な要因で、割合も変更されるし、免除もあり得る。これらは、直轄地以外は代官が管理しており、代官から回ってくる書類や、自分達で収集した情報(我が家は主にこちら)で状況を把握し、領主が決めるべきことを決定する。納税に関しては領主がすべて決めている。
だから、食うに困らないが余力が全くない状況というのが、私としては解せないんだ。お爺様がそんな決定をするはずがないと思っているから。
これはいろいろ調べる必要があるかもしれないね…。
この村では、とりあえずは、輪作にして土壌改良もしてみてどうなるかを検証することにしよう。
今回の作業で全部を切り替えるわけではない。現在植わっている作物があるし、全面的に信用されたわけでもないから、それは当然だと思う。
丁度、豆の収穫が終わった畑があるそうなので、そこで試すことになった。
集まってくれた村人に、3つのグループに分かれてもらう。
女性や小さな子供や年寄りは、村の家々から暖炉や竈の灰を持ってきてもらい、畑に運んでもらう。
働き盛りの年代には、2つに分かれてもらう。畑の区画を分けて耕すグループと、森に腐葉土を掘りに行くグループだ。
灰を集めるグループは、集めた大量の灰を畑まで運んでもらうんだが、これがかなり重労働なんだ。灰を入れるものが瓶しかないんだ。陶器の瓶。まず入れ物が重い。そして、灰も締まるとかなり重くなる。これを荷車に積んで、緩やかな上り坂を、畑まで運んでもらうまでが、このグループの分担だ。そこまで説明したところで、各家庭に瓶を持って散っていった。
次に、腐葉土を掘るグループだが、森に行って作業をするので、グループの中でさらに、まわりを警戒する人たちと実際に掘る人たちに分かれてもらう。
武器とスコップを持って、荷車を引いて森に向かって出発していった。どこら辺がいいかは、昨日アタリをつけてあって、クマ村長に説明済みだし、先程リーダーにも場所も量も教えたから、ちゃんと向かうだろう。もちろん、目的地を外れないか<探索>はしておく。<探索>は、危険を察知するためでもあるから、切らずにずっとかけておく。
残るは、畑で作業するグループである。荷車にクワやスコップを載せて、畑に向かう。目的の畑は、比較的森寄りの場所だった。割と広めの場所だから、ちょうどいいかな。
着いてすぐに、<鑑定>で土壌の確認をした。豆をずっと作っていた畑だ。
(やっぱり、PH値低いなぁ…。貝殻もないしなぁ…。草木灰だけだとなぁ…。どうするかなー? とりあえずは、骨を砕いて混ぜてみるかな…。多少いいかな?)
ウンウン悩んでも、解決策が閃くわけでもなかったが、昨日のワイルドボアの骨が大量にあったはずなので、それを混ぜ込むことにしてみる。早速、近くにいた若者に、村に取りに行ってもらう。
ウンウン呻りながらも、地中の探査はしており、帯水層があったので後で井戸を掘ることにした。
こちらのグループは、まずは畑に残っていた豆の枝や根を綺麗に集めてもらった。ちょうど灰が届いたので、畑に満遍なく撒いていく。これに思ったより時間がかかった。瓶を腕に抱えて撒くのもうまくいかず、急遽、袋を取りに行って、それに移し替えて撒いていった。
ここで骨が届いたので、『ちょっと作業しますね』って言って、目隠しを兼ねた結界を二重に張り、高温、高圧で処理し、乾燥させて粉砕し骨粉を作った。村人が、『えっ?』って言っている間に終わったので、無問題だ。きっと…。
骨粉作業の後で先生と目が合ったが、目を細めてからニッコリされた。うー…。やだなぁ…。怖いよぉ。ゆっくり目を逸らしちゃったよ。
できた骨粉も手分けして撒いてもらった。
さて、ここから魔法を使う。
もう使ったでしょ? 骨粉作るのに結界張ったでしょ?って指摘しないでぇ…。
灰も骨粉も、種まきのもっと前に混ぜ込んでおかないといけないはずだ。だって、土壌改良だもんね。時間がかかる。だから、クマ村長には、今後自分たちでやるときは、土壌改良は一カ月前くらいにやることを伝えた。今は時間がないので魔法で熟成させる。時間経過を速めるんだ。これが使えるようになって、いろいろ使い道を考えているんだが、食べ物ばっかりなんだ。味噌にチーズにお酒に…。何としても時間を確保して取り組みたいと思っている。
つい願望が入って、話が逸れてしまった。
クマ村長に説明しながら、みんなに畑から出てもらう。
「みなさん、畑に入らないでくださいね。では、やります! <熟成>(小声)」
シュテファン先生によると、時間経過を速める魔法もないんだそうだ。なので、クマ村長には適当に誤魔化して、それらしく説明したんだ。村人への説明は村長に任せよう。
見た目は、魔法の発動前と全く変わりない畑がある。誰も、この区画の畑だけが一ヶ月経った状態になったなんて気付かないだろう。
終わったと言っても、『えっ???』って顔をされているからね。
それから、腐葉土グループだが、これが苦戦しているようだ。
畑グループに加わる前に、腐葉土グループのリーダーと、馬に乗って森に先行した。場所と必要な状態の腐葉土と量を教えてきたんだ。だけど、<探索>では、ちょっと逸れた場所にいるみたいだ。
畑グループに種まきの準備をしてもらっている間に、クマ村長と一緒に馬で森に向かう。
言っておくけど、ここまでの騎馬は全部リヒト先生と一緒だからね?
一人で乗れるけれど、村の馬の数がないし、五歳で単独の騎馬って目立つから、冒険者見習いの間はやらないようにするつもり。
クマ村長やリーダーと二人乗りではないよ? ぜったい…。
腐葉土グループのリーダーは、クマ村長の弟さんだそうで、やっぱりモジャモジャだったんだけど、クマ村長よりおっとりした感じのおじさんだった。
森を騎馬で進むと、気づかないほどの分岐があったようで、そこから目的地を逸れてしまったらしい。
少し開けた、腐葉土たっぷりのフカフカの広場があるはずが、見当たらなくて、不安になり始めていたところに追いついた。追いついた私達に、クマ弟さんはホッとした表情を見せた。
「お疲れ様です。少し手前の分岐のところまで戻りましょう。ここら辺も腐葉土はありますが、掘りにくいようなので」
そう言って、グループを誘導して分岐まで引き返した。
実は、グループが迷い込んだちょっと先に、薬草の群生地を見つけてあるんだが……毒草なんだ。通常の薬草と見分けがつきにくく、ギルドでも採取依頼で注意されるという。しかも割と希少な薬草もどきだ。この毒草は、一般的な薬師によると毒にしかならないと言われる。だが、精製の仕方を変えると意外な効果が出るらしい。帰りに、根こそぎ採取してから、一面を焼き払う予定だった。
分岐のところまで戻り、当初の目的地に着いた。
腐葉土が厚く堆積した場所だ。少し掘って説明をする。
「この土の感じを覚えておいてください。木の葉っぱが長年堆積してできた、養分たっぷりの土です」
「んだ。これが森の土だ!」
クマ村長が言うと、みんなが土をさわりながら、んだんだ言っている。
それを聞いていて、おーっと思いながらも作業を促した。
「それでは、ここら辺の腐葉土をたくさん掘ってください。荷車がいっぱいになったら、畑に運んできてください。まわりを警戒する人は、耳をすませて広場以外の音に気をつけてください。私達は畑に戻りますね」
そう言って、先生とクマ村長と畑に戻った。
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