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従魔との攻防。 自重は大事!
しおりを挟むマップを確認しながら森の奥に向かい、ワイルドボアと果物を探す。
ビジューがくれた装備が思った以上に高性能なので、レベルアップよりも食料の確保に意識を切り替えたのだ。
奥に向かうにつれ、スライムやバンパイアバットが少なくなり、ワイルドボアやゴブリン、コボルトが増えてきた。どの魔物もあまり強くはないので、この森は弱い魔物の集う森なのかもしれない。
戦闘にも慣れ始め、どう倒せば素材を傷めずに済むか、食料として、どこを狙って倒すのが効率的かを考えられるようになった。
余裕がある時は、一振りで獲物の首を落として倒すと血抜きが楽で素材を傷めない。 肉の血抜きは美味しい肉にするための第一歩だ!
インベントリ内は時間が止まっているとはいえ、解体をする時に血抜きは必要な作業になるし、首を落とすと確実に魔物の息の根が止まるから効率がいい。
返り血を浴びないように、体勢に気をつける余裕もできた。
移動しながら、薬草や果物の採取もできた。
後はマップスキルをレベルアップして、人の生活地域の確認ができるようにするだけ。 そう、思いながらマップを見ていたら……、
できましたーっ!
今まで森の中ばかり見ていたから気がつかなかったけど、意識を森の外に向けてみると、広い範囲の地図に切り替わった。
この森から北西の方角へ30km程行くと小さな村があるようだ。
広い範囲の地図を見ると今いる森の中の赤ポイントが消えるので、マップの範囲の切り替えを意識して使い分けなければいけない。
いつマップの範囲が拡大したのかはわからないけど、水と食料、ビジュー特製の装備と、可愛くも頼もしい従魔たちがいれば、移動に踏み切るのも悪くない。
「ハク、そろそろ湖に戻ろうか」
「そうにゃ~。陽が落ちる前に戻っておいた方が安心にゃ!」
「うん、陽があって水が温かいうちに、ゆっくりと水浴びもしたいしね」
意見が一致したので、最短ルートで湖まで戻る。
最短ルートで移動はしたけど、魔物に遭遇したり、採取できる植物や枯れ枝を見ると放ってはおけず、湖に着いたのは夕方近くになっていた。
「ライム、どうする?」
マップで確認しながらこの辺りの魔物を念入りに狩って従魔部屋を開けてみると、“ピョン!”と元気良く飛び出してきた。どうやら退屈していたらしい。
「私は水浴びするけど、ハクとライムはどうする?」
「僕も水浴びするにゃ~。ついでに魚も獲っておくにゃ?」
気の効くハクの申し出に、遠慮なく甘える。
「うん、明日には森を出ようと思うから、少し多めに獲ってくれる?」
「わかったにゃ! ライム、行くにゃ~♪」
「ぷきゅ~♪」
2匹はすぐさま湖に飛び込んだ。
魚を獲ってくれるなら、ここで待っていて先に収納した方が良いかな?
「ハクーっ! お魚、ここに飛ばせる?」
「わかったにゃ~。 落とすと身が崩れるから、上手にインベントリに入れるにゃ~!」
返事が聞こえると同時に、湖から魚が半円を描く様に飛んできたので、インベントリを開きっぱなしにして飛んでくる魚を必死に収納し続けた。落とすとハクに怒られそうだ。
インベントリには生きている生物は収納できないはずだから、飛んで来ている魚はしっかりと事切れていることになる。
ハクって、何気にすごいよね? 戦闘にほとんど参加してくれないのが残念!
漁に飽きたらしいハクがライムと水遊びを始めたのを機に、私も水浴びをすることにした。
ドレスアーマー…、と呼ぶのはやっぱり違和感がある着物ドレスを簡単に洗い、昨日と同じように木に掛けて、複製していたインナー類も干しておく。
「あ~、お風呂に入りたい…」
冷たい湖の水も気持ちがいいけど、やっぱり温かいお湯で疲れを癒したい。
「稼ぐにゃ!!」
「ん?」
「いっぱい稼いでお風呂のある高級宿に泊まるにゃ! そして、美味しいごはんをいっぱい食べるのにゃーっ♪」
「お風呂は高級な宿にしかないの? 普通に宿とか家にお風呂はないのかな?」
「お風呂は贅沢品にゃ。貴族か豪商の家くらいしかないにゃ。普通の宿には付いてないのにゃ~」
そんな…! お風呂が一般普及してないなんて……。
「公衆浴場は?! お風呂があるなら、公衆浴場もあるでしょ?」
「公衆浴場、従魔は入れないにゃぁ……」
そっか…。 ハク達は水を怖がらないどころか、喜んで水遊びをする仔達なのに、お風呂をお留守番なんてさせられない。
「いっぱい稼ごう! それで、部屋にお風呂がある宿に泊まろう! 皆で一緒にお風呂に入ろうね!」
悲しそうな顔をしている従魔たちに声を掛けると、
「にゃん♪」
「ぷっきゅう♪」
2匹とも喜んでくれた。 うん、あったかいお風呂の為にも頑張って稼ごう!
水から上がってキモノ…。 うん、これはキモノだ! キモノを身に付ける。 まだ乾いてはいないけど、動いている内に乾くだろう。 インナー類はもう少し乾かしておこう。
「晩ごはんは魚とお肉、どっちがいい?」
手持ちの食材は昨日と同じ種類しかないけど、贅沢は言えない。 今は食べられるだけで、幸せなのです!
「両方食べるにゃ~♪」
「ぷっきゅきゅ♪」
「果物は、りんごと木苺どっちにする?」
「両方食べるにゃ~!」
「ぷっきゅきゅ~!」
……この2匹は、自重というものを知らないのかもしれない。
「明日はここから30km程離れた村に移動するから、食料は大切にした方がよくない?」
「30kmなら、ゆっくりと歩いても1日で着くにゃ。 食料は十分にあるはずにゃ!」
「うん、3人分、十分以上にあるよ。でも、その先に何があるかわからないし」
「村に着いたら、食料を買えばいいにゃ♪」
「買うにはお金が必要だよ?」
「美味しくない肉とかを売ればいいにゃ! 採取したものも売ればいいにゃ!」
「買ってくれたらいいけどね」
「物々交換でもいいにゃ!」
しっぽを狸みたいにポンポンにして力説していて可愛いが、負けるな、私…!
「食料を手に入れるのに、食料を売ったり交換に差し出すのはおかしくない?」
「村には美味しい食べ物があるかもしれないにゃ!」
「素材と調理した食べ物では、調理している物の方が高いのが世の常でしょ? 必然的に、私たちの手持ちの食料がグッと減ることになるよ?」
「あんまり食べない猪とか、美味しくなくなったホーンラビットとかなら売ってもいいにゃ!」
あ、猪は食べる気がないんだ? 大きい肉が取れそうなのに。
「村が裕福だったら食料を売ってくれるだろうけど、あまり豊かじゃなかったら? よそ者に食料を売ってくれるかな?」
「………。」
もう一息!
「それに、村に着いたら解体用のナイフとか、調味料に、タオルとかの雑貨類も買わないといけないし、お金を1円も持っていない今、…通貨は円? 節約は大事だよ?」
「通貨の単位は“メレ”にゃ。 節約は確かに大切にゃ。お金は大事にゃ! でも、でも…、両方いっぱい食べたいのにゃーっ!!」
あ~、子猫(虎)の泣き顔可愛い^^ だけど、この先の目処が立たないうちは…、
「今夜は魚か肉のどっちかにして、明日の朝にもう片方を食べよう? 今はちょっとだけ我慢して、頑張っていっぱいお金を稼いでから贅沢しよう、ね?」
私の説得を聞いて、ハクもライムもしばらくは固まったかのように動かなかったが、
「…わかったにゃ。 今夜も魚で、肉は明日食べるのにゃ」
「ぷきゅ~…」
2匹とも諦めてくれたらしい。 ちょっとかわいそうだけど、先のことを考えるとまだまだ安心はできないし…。
「今日はお魚を2匹と木苺を少しずつで我慢しようね? 早く、お腹いっぱいに美味しいものを食べられるように、頑張ろう!ね?」
「わかったにゃ。 もう、ごはんにするのかにゃ?」
「うん、そろそろごはんの支度をしようか。 ハク、火をお願いね?」
ちょっとかわいそうだけど、ライムも黙ってプルプルしてるので、これでいいんだろう。
枯れ枝を出してハクに火をつけてもらい、昨日多めに作っておいた串に内臓を抜いた魚を刺して、焚き火の周りに挿していく。
「2本ずつって言ってたにゃ? なんでいっぱいあるにゃ?」
6本で良いところを、12本も焼いていたらやっぱり気になるよね。食いしん坊だしね。 期待させてごめんね?
「移動中のごはん用に、多めに焼いておこうと思って」
「…そっか(アリスのけち)」
“にゃん”を忘れてるし、目で文句を言ってる気がするけど…、気にしないでおこう。
「ハク、ライム。 火の番をお願いね?」
「…わかったにゃ」
愛想はないけど、食いしん坊が魚を焦がすとは思えないので、任せても大丈夫だろう。
焼けるまでの間に水をストックしておく。水袋に水を汲んではインベントリへ注ぐことをちまちまと繰り返し、水浴びも余裕でできるほどの量が確保できた。
木の串のストック分を削っていると魚の焼ける香りがしてきたので、焼けた順に6匹をインベントリに収納しておく。ハクの視線が痛いけど、気がつかないフリ……。
保護者のメッキが剥がれてるけど、良いのかな~?
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