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野宿、2日目の夜
しおりを挟む「おまたせ! さあ、食べよう?」
焼けた魚の串をはずしてから木苺を3つずつ添えて誘うと、
「にゃん♪」
「ぷきゅう♪」
2匹はやっと可愛く鳴いてくれた。 機嫌が治ってよかったよ。
私も食べないと体力が持たないんだけど……。 塩がないと食べるのが辛いなぁ…。
ハクは小さい体で自分よりも大きな魚や木苺をあっと言う間にペロッと平らげる。一体どこに入るのか不思議で仕方がない…。
今日も口の周りを真っ赤に染めていたが、私が何も言わなくても湖に顔を突っ込んで前足で器用に洗っている。
ライムは私の食べられない、魚の頭や骨を消化してくれている。 動物や魔物の全ての部位を栄養にできるライムのお陰で廃棄物が出ないので、とても助かっている。
「私はまだやっておきたいことがあるから、ハクとライムは先に寝てていいよ?」
この後は特に予定もないので、昨夜はほとんど寝ていないだろう従魔に就寝をうながしたけど、2匹は“どうして?”とでも言うように私をじっとみつめる。
「何をするのにゃ?」
「今日の分の複製と、干しているインナーが乾いたら回収して、明日のごはんの下準備」
「じゃあ、警戒をしながらライムと遊んでるにゃ」
「今日は交代で火の番をしようよ。ハクとライムが先に寝て、私が後から寝るのでどうかな?」
「焚き火は僕が一晩中見てるから、アリスはゆっくりと睡眠を取るといいにゃ!」
ハクはさっきまで駄々っ子だったのに、今は頼もしい保護者モードのようだ。 気持ちは嬉しいけど、無理は禁物。
「ハクは昨夜も寝てないでしょ? 明日は移動先にどんな魔物がいるかわからないから、ゆっくりと休みを取れない可能性もあるし、今日は休んだほうがいいと思う」
睡眠を勧めると、ハクは私の膝に飛び乗って、
「僕は小さくても神獣にゃ! 1週間や10日位眠らなくても全然大丈夫だから、アリスは心配せずにゆっくりと休むにゃ!」
と言いながら、私のお腹に頭をこすり付けた。 すりすりする姿は私を懐柔する為だと分かっていても、すごくすごくかわいい♪
ハクは守銭奴っぽくて、食いしん坊で、時に駄々っ子だけど、いつでも私を護ろうとしてくれる。 こんなにちっちゃいのに、嬉しいなぁ…!
「気持ちはとっても嬉しいよ、ありがとうね! でも、ハクだって寝るの好きでしょ? 次にいつ寝れるかわからないんだし、少しでも寝ておいた方がいいんじゃない?」
「……じゃあ、アリスのやることが終わるまで寝ることにするにゃ。アリスはやることを済ませたら、すぐに僕を起こして朝まで眠るにゃ。
それでどうにゃ?」
「うん! それでいい。ハクには負担を掛けるけど、甘えさせてもらうね?」
いくら神獣といっても、こんなにちっちゃなハクをずっと寝かさないのは心が痛む。 少しでも眠ってくれると安心するよ。
それでもやっぱり甘えちゃうんだけどね…。
「任せるにゃ!
ライム、僕は先に寝るけど、アリスの手が空いたら起こしてくれにゃ?」
「ぷっきゅーっ!」
「アリスは起こさないかもしれないから、ライムを頼りにしてるにゃ!」
「ぷっきゅーっっ!!」
「じゃあ、おやすみにゃあ♪」
……従魔間で話が済み、すっきりした顔でハクがライムを枕におやすみモードに入った。
けど、なにか、そこはかとなく仲間はずれ感が…。 どうしてかな…?
……気を取り直して、肉串を作ろう。
昨日、切り取ったボア肉の残りを一口大に切り、串に刺していく。ちょうど20本作れたけど、3人で食べるには半端な数になった。
まあ、インベントリに入れておけば傷まないし問題なし!
薬草がいっぱいあるからポーションとかも作ってみたいけど、器具も何もないから今は無理。スキルで作成するからこまごまとした器具は必要ないけど、フラスコやビーカー的な物は必要みたいだ。
今日の分の複製は、昨日できなかったシャツとスパッツ。
まずはシャツの複製を…。 あれ? できない? 昨日、下着は複製できたのに?
不思議に思って鑑定してみて、謎は解けた。
シャツはドレスアーマーの付属品らしい。帯と一緒。
“破壊不可”になっているから傷む心配はないようだけど、洗い換えにもう1枚くらい欲しかったな。
ドキドキしながらスパッツを鑑定してみると、これも付属品だった。
いくら傷まなくても、着た切りはちょっと嫌だなぁ…。 お金が貯まったら、お風呂の前に着替えを優先して買わないとな。
ワイルドボアの複製は失敗したけど、猪はまだ試していない。 今日も一頭確保したから、合計2頭。
ハクは食べないらしいけど、大きい肉だしいっぱいあると心強いから複製を試してみる。
……成功した! 見た目も大きさも一緒で鑑定結果も一緒だから、肉質もきっと大丈夫!
試しにワイルドボアも複製してみたけど失敗した。 猪は複製できて、見た目の似ているワイルドボアは複製できない。この違いはなんだろう?
動物は良くて魔物はダメなのか? 今後の検証課題だ。
残りはあと2つ。
肉はもう十分だし、薬草はポーションにしてから複製した方がいいだろう。 水袋はとりあえずは1つで賄えているから、干しているインナーが乾いたらもう1枚ずつ複製しておこうかな。
インナーが乾くまでの暇つぶしに、串を量産することにする。使い捨て(食べ終わった串は焚き木にくべている)だから、いくつあっても邪魔にはならない。
ふと視線を感じて顔を上げると、ライムがじっと私を見ていて「まだ寝ないのか?」と言っている気がした。
「まだ終わってないよ~。もう少し時間がかかるからね~?」
ハクに私の見張りを任されているらしいので、時間がかかるアピールをしておく。
魚の内臓処理もしておきたいけど、ライムはハクのクッションになってるから今はやめておこう。 内臓の臭いで魔物を呼ぶのは遠慮したい。
魔力感知に何かが引っかかったのでマップを確認すると、ホーンラビットが3匹こちらに近づいて来ていた。水を飲みに来るのかな?
一応、魔物だし、毛がふわふわしてるから売れそうな気がする。 退治しようと立ち上がると、
「獲物にゃ♪」
ハクの嬉しそうな声が聞こえた。
「寝てなかったの?」
「寝てたにゃ。魔物の気配で目が覚めたのにゃ♪」
……ハクの危機管理能力はかなり優秀のようだ。嬉しそうなのは “獲物”だからだよね?
ホーンラビーットは私たちに気がつくと、走ってきた勢いのまま襲い掛かって来た。
普通のうさぎなら逃げるか遠く離れた所で水を飲むだろうから、やっぱり魔物は好戦的なんだと納得する。 これで躊躇なく退治できる。
角と毛皮は売れそうだから傷をつけないように、首を落とすか心臓を貫くか、どちらが良いだろうと考えていると、
「アリス、首を串刺しで倒すにゃ! 小さいから頑張って狙うのにゃ!!」
ハクから注文が届いた。
“なるべく高く売るために、獲物に傷を残すな”ってことだな。
お風呂の為にも、頑張るよ!
ホーンラビットはうさぎのイメージ通りに敏捷で、ハクの注文通りに首を狙えたのは1匹だけだった。
1匹は頭部を貫いたが、1匹は胴を貫いてしまい、
「頭部は角に傷がなければ問題ないにゃ。 でも、胴体の毛皮に傷をつけたら、値下がりするにゃ!」
守銭奴からお説教を受ける羽目になった。
ハク先生。私、戦闘初心者なんですが…? もう少し、長い目で見て欲しいです。
斬らずに退治できたので、返り血を浴びずにすんでほっとした。 キモノを洗い直して冷たい状態で寝るのはいただけない。
「服はもう乾いているにゃ。 片付けて、早く寝るにゃ!」
どうやら干していたものが乾いたらしいが、戦闘後いきなり寝ろっていわれても……。
すぐには眠れないよ、って言おうとしたけど、
「眠れるときに寝ておかないと、明日の移動が辛くなるにゃ。とっと寝るにゃ!」
と言われると、大人しく寝るしかなくなる…。
「うん、わかった。もうちょっと待ってね」
乾いたインナーを回収して複製し、着替えてまた湖で洗い終わるとやることがなくなった。
「まだかにゃ?」
「ぷきゅ~?」
見計らったように2匹からの催促はあるし、マップを確認しても魔物は近くにはいないから、おとなしく寝ようかな。
「うん、もう寝るよ。 ハクとライムに後をお願いするね? でも、ライムはちゃんと寝るんだよ?」
言いながら大きな木の側に歩いていく。
「おやすみ、アリス。 いい夢を見るにゃ♪」
「ぷきゃっ♪」
「うん、おやすみ~」
従魔たちとおやすみの挨拶を交わせることを嬉しいと感じながら、ゆっくりと目を閉じた。
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