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先輩冒険者たちと 1  お昼ごはん

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「私はアリスといいます。名乗りが遅れて申し訳ありません。今日1日よろしくお願いします」

 表に回って、銀の髪のおにいさま冒険者に改めて挨拶をした。

「そうか、わたしはエミルだ。 今回の事はわたし達ジャスパーを拠点にしている冒険者全員の問題でもあるから、そんなにかしこまらなくてもいい。
 君の事をアリスと呼んでもいいか? わたしの事はエミルと呼んでくれ」

 おにいさま改めエミルが“自分たちの問題でもある”と言ってくれたことで、少しだけ気が楽になった。
 横で聞いていた3人もそれぞれ呼び捨てでいいと言ってくれたが、冒険者は年の差とかを気にしないのかな?





 裁判の開始予定時刻まではまだ時間があったので、宿に寄ってチェックアウトを済ませる。と言っても荷物は全てインベントリに入れていたので、受付でウサギ耳さんのお母さんらしき人に声を掛けるだけだ。

「いってらっしゃいませ! またのお越しをお待ちしています!」

 気持ちよく送り出されて、次に泊まることがあればまたここにしようと心に書き留めた。







(お腹が空いたにゃ~…)

 襲撃者対策に裏道を通り、裁判所に着いたのは12時の鐘が鳴ってすぐだった。そのまま中に入ろうすると、ハクが悲しげな声で訴えた。

「まだ時間に余裕がありますし、お店に入って食事でもしませんか?」

「今から、か…。裁判所には余裕を持って入っている方がいいだろうし、昼に空いてる店は少ないからむずかしいぞ」

「では、この人数がゆっくりと落ち着ける場所はありますか?」

 私の質問に皆さんはしばらく考え込んでいたが、

「裁判所の裏庭は? 今日は陽射しも強くないから寛げるわよ」

 マルタの提案で、みんなで裏庭に移動した。

 裏庭には小さな可愛い花が咲いていて、所々で思い思いに人が寛いでいる姿が見える。

「この辺りでいいな」

 イザックが中央付近の空いていたスペースに、5人が余裕で座れる程の大きな帆布を敷いてくれた。

「イザック、あんた…」

「ああ、見た目に似合わず…」

 どちらかと言えば豪快でそのまま寝転びそうな見た目に反して、細やかな気遣いの出来るひとのようだ。 ありがたくブーツを脱いで上がりこむ。もちろんクリーンで防臭対策済み! 視線を感じて顔をあげると、物珍しそうに見られていた。

「何か?」

「履物を脱ぐんだな。と…」

「故郷の風習なんです。家の中や敷物の上では履物を脱いで寛ぐのが」

「靴を脱いだら、床が冷たいだろう?」

「家の中は絨毯などの敷物が敷いてありますし、敷いていない場所はスリッパを置いているので大丈夫ですよ?」

「……そうか」

 簡単な説明で納得してくれたみんなは、靴のままで帆布の上に座っている。 でも、羨ましそうな視線が…?

 マルタに耳打ちで聞いてみると、思ったとおりの返事が返ってきた。

「皆さん、一旦、敷物から降りてくださ~い」

「なんだ?」

 訝しそうにしながらも素直に立って帆布の上から降りてくれる。皆さん包容力があるなぁ~♪

 イザックに断り、帆布にクリーンを掛けてから、
 
「クリーンを掛けますね?」

 マルタに近づき、返事を待たずに足元にダブルでクリーンを掛けた。

「ブーツを脱いでみませんか? 大丈夫ですから」

 声を掛けても躊躇いを隠さなかったマルタも、

「気持ちいいですよ?」

 の一言で落ちた。

 座ってブーツを脱ぎ、恐る恐る足に顔を近づけて…、

「……アリス!」

 嬉しそうに、帆布の上を歩いている。

 それを見てそわそわしていた男性陣にもクリーンを掛けると、ガチャガチャと忙しない音を立てながら裸足になり、嬉しそうに芝生の上まで遠征に行ってしまった。

 皆さん、臭い問題に気を配っていたんだなぁ。スメルハラスメントもなさそうで、<冒険者>に対するイメージがアップした。





 戻ってきた男性陣に改めてクリーンを掛けると、帆布の上に座り込み、ボアの敷物の上に用意しておいた水差しと皿に盛った木苺を見て、無邪気に喜んでくれた。

 先に寛いでいたマルタが、カップを掲げて得意げに笑う。

「あんた達も早く飲んでみなよ!」

 一見ただの水だが、マルタの楽しげな様子に釣られた男性陣は素直にアイテムボックスからカップを取り出し、自分で水を注いでいる。

「美味いな!」
「!!」
「ああ、本当に美味い…」

 男性陣が子供みたいに喜んでいる姿を微笑ましく眺めていると、マルタが私の代わりにオーダーを取ってくれた。

「アリスが手持ちの食料を提供してくれるって! パンと米、どっちがいい?」

 私はその間にライムを出して、ハクとひとまとめに膝の上に抱き込んだ。

「スライム……?」

「私の従魔のハクとライム。猫がハクで、スライムがライムです。いつもクリーンで清潔にしているので、一緒に食事をしてもいいですか?」

「ああ、もちろんだ! …俺もライムを撫でてもいいいか?」

 冒険者ならスライムは珍しくもないだろうに、エミルは手をわきわきさせながら聞いた。

「俺はハクを抱っこしたい!」

 アルバロの目はハクに釘付けだ。 2人とも見た目と違っていておもしろい。

「どうする?」

 2匹に聞くと、

「にゃん♪」
「ぷきゅ♪」

 2匹はご指名を受けた相手の膝に飛び込んで行った。 

 本当に愛想のいい仔たちだ♪  

 2匹の様子に感心したのは私だけじゃなかったらしく、マルタとイザックが順番待ちを始めた。

 いい時間稼ぎになったので、今のうちにお昼ごはんを用意する。 みんな好き嫌いはないそうなので、悩むこともない。

 パンを選んだマルタとエミルにハンバーガーでも作ろうかな。

(ハク、ライム。 ハンバーグはチーズ入り? チーズなし?)

(チーズ入りにゃ♪)
(ちーずたべる♪)

(了解!)

 レタスを簡単に洗ってラフトマトを厚めにスライスしたら、マルゴさんのパンを半分に割って、ハンバーグと一緒に挟むだけ♪ 冷めないようにインベントリにしまっておいて、昨日買ったぶどうを房から外してお皿に盛っておく。

 私たちの食器を用意し、ハクが愛想を振りまきながらも防塵結界を張ってくれたのを確認して声を掛けた。

「ごはんができましたよ~。 まずは手を出してくださ~い。クリーンをかけ終わったら、パンやおむすびを置けるお皿とスープを注げる器を出してくださいね~」

 年上の冒険者たちは素直に私の言う事を聞いてくれる。 出された食器はきちんと洗われていたので安心して野菜たっぷりのスープを注ぎ、ホーンラビットのから揚げと照り焼き、おむすびを大皿ごと置いてから、マルタとエミルに聞いた。

「チーズは好き?」

「大好き!」
「普通?」

 ハクとライム、マルタにはチーズ入りのハンバーガーを、エミルと私には普通のハンバーガーを用意する。

「スープが少なくてすみません。 おかずはおかわりがあるので、お腹に余裕があるなら遠慮なく言ってくださいね! おむすびの具は魚とオークです。おまたせしました!」

 さあ、食べてくれ!と両手を広げて微笑むと、従魔と冒険者たちから一斉に歓声があがった。

「手持ちの食料って言うから、ここまでの物がでてくるとは思わなかったぞ!」
(はんばーがー、おいしい♪)
「変わったサンドイッチね? とっても美味しそう!」
「握り飯の中に魚とオークかよ。贅沢だな!」
(アリスの作るものはいつもおいしいにゃ♪)
「このサンドイッチはどこで買ったんだ?」
「私が作りました」

 ライムに構いっきりだったエミルは私が作っていたのを見ていなかったようだ。 目を丸くして私を見ると、

「アリス、君が成人したらわたしと結婚しよう! ライムとハクを2人で愛でて暮らそう!」

 いきなりふざけ出して、マルタに背中を殴られていた。
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