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先輩冒険者たちと 2 おしゃべりタイム
しおりを挟む「なあ、アリス。じいさんの店であったことをこいつらに話しても良いか?」
精力的に食事をしていたアルバロが、思い出したように聞いた。
「……?」
「スキルのこととか…」
「ああ。人前で使っているスキルは隠すつもりがないので大丈夫です。おかずのおかわりいります?」
「欲しい! あと、その変わったサンドイッチが食べてみたいんだが…」
返事をくれたのはイザックだった。いいよ~の気持ちを視線に込めて頷くと、嬉しそうに笑って、
「何があったんだ?」
アルバロに先を促した。
マルタの視線がおむすびに釘付けだったので、取りやすいように皿を寄せてあげると、嬉しそうにアルバロの肩を叩く。
…自分は食べるから、話は任せた!って感じ?
「店の中では4人の人間がアリスを待っていた。 店主夫妻と知り合いの男女が1人ずつの4人だ。
店主の妻以外が順番に自分が用意した物の説明を始め、アリスが商品に納得して受け取ると、店主がアリスに金を渡した」
アルバロが話を始めたけど、イザックだけじゃなく、アルバロにも出した方がいいよね? ハンバーガー。
「アリスが店主に、じゃないのか?」
「店主がアリスに、だ。 アリスは商品と金を受け取ると店主の妻に回復魔法の【リカバー】をかけて、さっさと店を出て行こうとした」
「アリスはリカバーが使えるのか!? そうか、裏口にあった野菜の箱は、その商品の一部だったのか」
イザックが納得していると、アルバロがあっさりと否定した。
「いや、それは一緒に店を出た女性からアリスへの礼の品だ。 アリスは格安で治療をしたらしい。俺の計算だと800万メレは値引きしている。 アリスはその場で値引きを伝えていたのに、その女性はそうなる結果が見えていたようなことを言っていた。
アリス、店主の治療もしたな? いくらで治してやったんだ?」
アルバロは自信ありげに聞いた。 確かに間違ってはいないけど。
別に答えることでもないか、とスルーしようとしたら、4人の目がそれを許さなかった。 聞きたい理由があるらしい。
「99万メレ分の商品」
正直に答えると、アルバロは驚きの声を上げた。
「じいさんの病はかなり進行していて、治癒士も匙を投げたって聞いたぞ!? それをたったの99万メレか!? ……金の持ち合わせがなかったのか?」
「それくらいのお金は持ってるけど…。 お金を払うのと治療とどっちがいいかを聞いたら、おじいさんが治療を選んだから」
「そんな破格で治療が受けられるなら、誰だって治療を選ぶな」
エミルが溜息混じりに言うと、みんなが頷いた。 ハクやライムまで!
「あの女性はそれを知っていたんだな。 あまりにも安すぎる上に、アリスが治療の金をまけるだろうと予想して礼を用意していたらしい。 その上アリスは金を返していたな? どうしてそんな事をしたんだ? 治療がうまく行かなかったのか?」
4人の視線が突き刺さる。 冒険者としていけない行動だったのかな?
肉じゃがをよそっている間もみんなの視線は私から離れなかった。 口と手は動いてごはんを食べ続けているのに!
「治療は成功しましたよ。 …あのおじいさんは善人、正直者だと思ったんです」
仕方がないから説明を始めると、おじいさんを知っていたらしいアルバロ、マルタ、エミルが頷いた。
私の見る目は間違っていない♪
「おじいさんが私に治療を依頼する時に、『仕入れの金を入れても、これが出せる限界だ』って言ったんですよ。
一緒にいた八百屋さんと職人さんに借金をして用意したのが、私の受け取った商品です。
せっかく治した2人が店を潰して餓死なんてしたら嫌ですからね。仕入れのお金を返してあげただけですよ。従魔たちも賛成してくれましたし!」
ハクとライムにも責任を分担してもらおう! 可愛い2匹には、何も言えまい!
「そうか。ハクは優しいな!」
「ライムも偉いぞ!」
思ったとおり、4人は2匹に優しい視線を向けて撫で撫でし始めた。 私にはもっと鋭い視線だったのになぁ…。
視線を下げると、出した食事は木苺、ぶどうの一粒まできっちりとなくなっていた。 “ごちそうさま”を呟き、後片付けをする。 4人の食器も全て綺麗にし終わった所で、
「そういえば、アリスは受け取ったお金を確認もせずにアイテムボックスに放り込んでいたね~。どうして?」
マルタが思い出したように言った。せっかく和んでいたのに! 4人の視線がまた私に突き刺さった…。
食後のお茶を出そうとしたら、マルタとイザックが紅茶の葉とコーヒーを提供してくれた。 私はありがたく紅茶を入れ、従魔たちは果物を食べたがったので昨日買ったオレンジを出してあげる。
オレンジの皮を剥きながら、どう言えば叱られずにすむかを考えたが思いつかなかった…。 仕方がないのでそのままを告げる。
「私がお店にいる間に襲撃されたら、お店が大変なことになると思って。 さっさと出て行きたかったから、お金が足りなくても別に構わないと思ったんです」
「袋の口を開きもしなかっただろう? 金の代わりに石でも入っていたらどうするんだ?」
…良く見ているな。 護衛依頼を受ける時は、対象から目を離してはいけないってことだね。覚えておこう。
「あのおじいさんはそんなことをしなさそうだと思ったし、石だったとしても問題ないですよ。 商品はきちんとしたものばかりでしたから」
答えた次の瞬間、マルタに頬を摘まれた。
「いひゃい、いひゃい! はなひて~!!」
「<冒険者>がそんな態度だと、舐められちまうんだよ! お前だけじゃなくて、他の冒険者の迷惑だ!」
アルバロが私の脳天をこぶしでぐりぐりしながら言った。
「ま、まだ冒険者じゃないからいいかなって…」
アルバロの攻撃で手を離してくれていたマルタが、こんどは頬を抓った!
「~~~っ!」
装備のない所への攻撃はやめて欲しい! 本当に痛いんだって!
痛がりながらも無抵抗な私に何を思ったのか、攻撃をやめて冒険者組で目を見交わしている。
手が空いたので、ハクとライムにオレンジの白い筋をきれいに取ってあげると、薄皮も剥いて欲しいとお願いされた。ライムも薄皮を剥いて欲しがるのに、皮や薄皮は別に食べているのが面白い。 実と皮は、ライムの中で別々の栄養になるのかな?
「アリス」
従魔を見て和んでいる間に、どうやら話(?)がまとまったらしい。
「お前のしたことは、<冒険者>としては褒められないことだ。そんなことをしていたら依頼主に舐められちまうからな。他の冒険者が迷惑をする。 ……だが、個人としては、好ましく思う。 <治癒士>にはならないのか?」
「<治癒士ギルド>が面倒な所みたいなので<治癒士>にはなりません。 <冒険者>でも治療は出来るし、のびのびと楽しめそうでしょ?」
説明をすると、アルバロが“仕方がないヤツだ”と言いたげな視線を向けてくる。 口元は笑ってるから、呆れてはいないみたいかな?
「アリスが金に困ることはないだろうな! そうか、楽しみたいから冒険者になるのか!」
何が気に入ったのか、エミルが嬉しげに笑う。
「どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」
「嬉しいに決まってるわ! これからの裁判で、もしもアリスが追い込まれるような状況になったとしても、あたし達はアリスのことを疑わずにすむんだから!」
「ああ、アリスが金目的でギルドやダビに絡む理由がないって確信できるのは、大人しく傍聴するしかない俺たちには嬉しいことだぞ。
裁判で何が起こっても、俺たちはアリスを信じていられる」
「………何か、起こりそうですか?」
何かが起こることを前提で言われている気がする。
「ダビがどこまでを抱き込んで悪事を働いていたかがわからんからな。 盗賊とつるんでいるだけの小悪党ならいいが…。 アリスは【隠蔽】は持っているのか?」
「持ってません。 欲しいんですけどね~。 どこかで売ってないかな?」
「【隠蔽】の魔石は、表にはほとんど出てこないぞ。 裏で高値で取引されるからな。 だが、ダビが持っているなら、今回の裁判で手に入るんじゃないか?」
「そうだな。ダビの全財産がアリスのものになるからな。 アリス、頑張れよ! 嵌められるんじゃないぞ!」
裁判が終わればダビは犯罪者になり、ダビの全財産は私のものになるらしい。
逆の立場で考えると、とんでもない話だ。 自分の全財産を奪われないために、最大限の抵抗をするだろう。
……あまり暢気に構えていられないかもしれない。少し気を引き締めよう。
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