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裁判所 4 裁判終了
しおりを挟む「アリス、前へ」
呼ばれるままに裁判官の前へ出て行くと、ダビの右手に被せていた布袋を渡された。 小さく硬いものが複数入っているようだ。
「ダビのスキルとステータスだったものです。あなたのものになりました」
袋を開けてみると、中には親指の爪ほどの大きさの水晶が入っている。
鑑定してみると【隠蔽】【鑑定】の他に【気配遮断】のスキルがあった。 気配が遮断できたら、魔物狩りで大きなアドバンテージになる。 ラッキー♪
後の水晶は【HP】【MP】【攻撃力】【防御力】のようだ。
(【鑑定】のスキルを吸収したら、私の鑑定のレベルが上がる?)
(上がらないにゃ)
(ダビのステータスを吸収するのはちょっと抵抗が…)
(ダビ程度のステータス、アリスが吸収しても大して変わらないにゃ。気持ち悪いなら売ればいいにゃ。 でもスキルは良いのにゃ?)
(有効なスキルならゴブリンのスキルでも吸収するよ~。もともとスキルは魔物から出ると思ってたからね。でも、ステータスはなんかヤだ!)
(……わからないけど、好きにしたらいいにゃ)
よし、保護者の了承は取れた!
「ありがとうございます。この中から必要のないものは売ってもいいですか?」
「もちろん構いませんよ。参考にどんなスキルを持っていたかを聞かせてくれませんか?」
確認もしないで私に渡してくれたのか。犯罪向きのスキルがあったらどうするんだろう…?
「スキルは鑑定、隠蔽の他に、気配遮断がありましたよ。ダビは隠れて鑑定し放題でしたね。 後はHP、MP、攻撃力、防御力の水晶がありました。……こんな風に簡単にスキルを取り出せるなんて、断罪の水晶を悪用するとスキルを搾取し放題になりますね」
もしも私が何かの罠に嵌まり、スキルとステータスを奪われたら……。 想像もしたくない!
鳥肌が立ってしまった肌をさすりながら言うと、裁判官は穏やかに微笑んだ。
「その為に裁判があるのです。 『審判』や『断罪』の水晶は裁判所にしかなく裁判官にしか扱えません。それに、水晶を悪用すると悪用した人間のスキルやステータスが奪われるばかりか、呪いが掛かる仕様になっているのです」
「呪い、ですか?」
「ええ。 衆目に一目でわかる、恐ろしい呪いです」
この世界には呪いもあるのか……。どんな呪いだろう。 裁判官の顔を見ながら想像していると、裁判官はいたずらに微笑みながら私の耳元に口を寄せて言った。
「全身の体毛が抜け落ちるんです。口にするのも恐ろしいですね」
「そ、それは怖いです。 でも、そんな恐ろしい呪いがあるなら水晶の悪用は難しいですね。 頼もしい呪いです♪」
「頼もしい、ですか」
「ええ、頼もしいです。不当にスキルやステータスを奪われたくはないですから。
それで、ステータスの水晶はどこで売れますか?」
裁判官に聞いたつもりだったのに、ギルドマスターの声が割り込んだ。
「<冒険者ギルド>だ! 他には売るな!」
いきなりの命令にムッとしたのがわかったのか、裁判官が穏やかに聞いた。
「ステータスの水晶は、冒険者なら誰もが欲しがるでしょう。 あなたは要らないのですか?」
「ええ、素がダビだと思うと気持ちが悪くて。 スキルは平気なのにおかしいですよね」
「女性とは得てしてそういったものではないですか? では、冒険者ギルドで売却を?」
「そうですねぇ…。商業ギルドに持って行こうと思います」
「ダメだ! 冒険者ギルドに売れ!」
……うるさい男だな。 スルーしようと思ったけど、出来なかった。
「会話に割り込んでくるな! 無礼な男ね!! 私にはおまえに偉そうに命令される謂れはないわっ!」
気が付いたら、ギルドマスターを怒鳴りつけている自分がいた。 裁判官は驚くかと思ったら、こぶしを口元にあてて笑いを噛み殺している。
モレーノ裁判官の性格に感心していると、ギルドマスターが凄い勢いで近づいてきた。 …裁判はもう終わったってことかな?
「一方的に疑いを掛けたこと、俺の管理下でおまえに危害を与えてしまったことを詫びる! すまなかった!」
ギルドマスターは『男の土下座はこうあるべき!』と紹介したくなるような見事な土下座を見せてくれたが、
「おまえは立場を履き違えていない? 詫びる相手をおまえ呼ばわりなんて、おまえは随分と偉い男なのねぇ?」
許せないことは許せない。
「あ、アリス」
「呼び捨てを許可した覚えはないわ!」
「アリス、さん。 俺の部下が多大な迷惑をかけてしまった上に、あなたを信じずに疑いを掛けてしまったこと、本当に申し訳なかった! 約束どおり、俺の全財産を支払わせてもらう。 すぐに『断罪の水晶』を使う申請を出すから、待っていてくれ!」
「おや?」
うん、おや? だね。
「ちょっと待ちなさい。どうして断罪の水晶を使うの?」
「俺のステータスとスキルをアリスさんに譲るためだが?」
……全財産って、そこまで!? 犯罪を犯したダビと同じ扱いをするつもりはないよっ!
「あなたを鑑定するわよ」
断りだけ入れて、返事の前に鑑定をかけてしまう。
………。うん、大丈夫。ない。
「あなたのスキルから欲しいものなんてないわよ。 断罪の水晶は必要ないわ。
モレーノ裁判官、ギルドマスターの申請は通さないでくださいね?」
「わかりました。でも、いいのですか? スキルやステータスは高額で売却できますよ?」
要らないって言っているのに、裁判官は私を唆すように言ってくるしギルドマスターは横で頷いているし……。
「では、ギルドマスター? 2択よ。あなたが自分で選びなさい。
1、向こう1年間、収入の3割を毎月私に支払う
2、今、スキルとステータスを私に支払う
あなたがどちらを選んでも、預金などの資産は貰い受けるけどね」
ギルドマスターにも考える時間が必要だろうと、少し離れようとした視線の先で、アルバロ達がニヤニヤと笑っているのが見えた。
「ギルマス~! スキルは要らないって言われてますよ~?」
「財産の全てを支払った上にスキルやステータスまで失くしたら、あんたとあんたの家族はどうやって食ってくんだ? 良く考えろ!」
ああ、援護してくれるつもりだったのか。 ニヤニヤ笑いむかつく!とか思って悪かったな。 反省していると、裁判官も口添えしてくれた。
「時間をかけてじっくりと償うのも反省を示す姿勢の1つですね。 相手が何を望んでいるのかを考えるのも大切ですよ?」
アルバロ達からの助言で揺らいでいたギルドマスターは、穏やかな声で諭すように話す裁判官の話を聞いて決意をしたらしい。
「この先1年間の全収入の3割の支払いで償わせてくれ。 どれだけの稼ぎになるかはわからないが、きっちりと働くことだけは約束する! もちろん、今持っている資産は全て支払う!」
頼りなくも、誠実な約束を私にしてくれた。
裁判官も、冒険者たちも安心したような顔になってるから、ギルドマスターはそれなりの人望を集めている男なのだろう。
第一印象が悪すぎたから、そんな風には見えなかったけどね。
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