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裁判は終わった後が面倒

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 裁判の終わった後がこんなに面倒だとは思わなかった……。

 ダビの全財産…。 今持っている現金から始まり、ギルドにある預金、ギルド契約の借家においている家具などの売却金に、別名義の隠し預金。別名義で所有している家屋やダビ自身の売却金の受け取り方法の決定、受け取るための手続きなどがいっぱいあったのだ。 

 結論としては、今日中に受け取ることは不可能だという事。

 ダビのスキルとステータスだけ受け取っておいて、後は明日、また裁判所に顔を出すことになった。

 まあ、仕方がないかな。

「アリスさん、護衛の方が第2控え室でお待ちですよ」

 法廷から出ると、事務官らしい女性に声を掛けられた。

 見張り役の4人はいつの間にかいなくなっていたので、先に帰ったのかと思っていたら、私を待ってくれているらしい。

「では私が案内しましょう」

 モレーノ裁判官はこの裁判所の最高責任者らしいのに驕る様子もなく、軽く微笑みながら案内を買って出てくれた。

 控え室に向かいながら裁判官に今夜の宿を聞かれたので、安全な宿に心当たりがないかを相談してみる。

「盗賊団からの襲撃を警戒していますか?」

「ええ。宿に泊まって、迷惑を掛けるわけにもいきませんし。 牢屋に空きがあればお借りしたいんですが…」

 私の話を聞いた裁判官は、ゆったりと微笑んで、

「ギルド併設の宿に泊まってはどうですか? まだ登録前ですが、今回は護衛の冒険者たちが上手く取り計らってくれるでしょう。 
 冒険者ギルドを襲うほど盗賊も愚かではないでしょうし、もしもギルドを襲うようであれば、冒険者たちが大喜びで片付けてくれますよ」

 賞金首であれば奪い合いになりますねぇ。と、のほほんと笑って続ける。 紳士的な見かけによらず、豪胆な人だなぁ。

「こちらです」

 裁判官が立ち止まりドアをノックすると、すぐに中からドアが開かれた。

「アリス! あのりんごはどこで買ったの!? 」

 マルタに抱きつかれ、

「頑張ったなぁ!」
「よくやった!」
「ありがとうな! ダビに罰を与えてくれて!」

 男性陣には手放しで褒められた。 頭を撫でられ、肩を叩かれ、手を握り締められ、もみくちゃだ。

「おやおや、アリスさんが潰されそうですねぇ」

 裁判官の一言で解放してもらえたが、嬉しくもすでにぐったりだ。

「すまん。 とりあえず座れ」

 アルバロの誘導で椅子に座ると、テーブルの上には手付かずのコーヒーとお菓子が置かれている。 その横にはそれぞれの水筒や干しりんごが入っていたビン。

「おや……?」

 裁判官がとても小さな声で呟いたのが聞こえたので、反射的に鑑定を掛けた。

「皆さん、出された物は口にしてませんね?」

「ああ! 干したりんごも水も、最高に美味かった!」

 エミルが嬉しそうに言うと、みんなが頷いて同意している。

「お口に合ってよかったです♪ 皆さんを鑑定します」

 同意を得る前に、さっさと【診断】を掛けてしまう。  複雑そうな顔をして私を見ている裁判官は、事情を察しているようだ。 

「コーヒーには下剤、お菓子には睡眠薬が入っています。揮発では効力を発揮しないタイプのようで、皆さんに被害はありません」

 裁判官に報告すると、裁判官は眉間にしわを寄せて目を閉じた。

「「ええっ!」」

 警戒をしていた冒険者組も、実際に薬物が混入されていたとわかり、驚いていたり溜息を吐いていたり様々だ。

 被害がなくて、本当に良かった…。





「ここにまで入り込んでいたとは……。私の監督不行届です。申し訳ありません」

 モレーノ裁判官がみんなに頭を下げたが、みんなは被害がなかったからと寛容に許して、温かいカモミールティーを嬉しそうに飲んでいる。

 あの後、裁判官はお茶を出した職員の人相風体を聞き出してすぐに手配を掛けたが、見つからなかった。お茶を出してすぐに逃げ出したようだ。 当然だね。

「即効性の毒ではなく、下剤や睡眠薬か。 狙いはアリス1人って事だな」

「冒険者の中にも敵はいるだろう。油断できないぞ」

 冒険者ギルドの宿も100%安全なわけではないようだ。

「今夜は町の外で野営かぁ…。 ま、いっか!」

「「どうしてそうなるっ!?」」
「アタシのパーティーのホームに泊まればいい」
「俺の所でもいいぞ?」

 冒険者組は私が野営をすることに反対らしいが、裁判官は乗り気だった。

「町の外で法廷兵と領兵に周りを囲ませましょう。私もアリスさんの隣にテントを張らせて貰います」

「裁判官まで危ない目にあってどうするんですか!? そんな大事にしなくても大丈夫なので、明日の朝の通行税だけ免除してもらえませんか?」

「通行税はもちろん免除します。 兵が信用できないなら、彼らを護衛に雇いましょう」

「護衛もいりません。 野営で魔物に襲われるのも、盗賊に襲われるのも一緒でしょう?」

「「「「「一緒じゃない!!」」」」」

 皆さんはどうにも心配性というかお人好しというか……。 今日会ったばかりなのに、ありがたいなぁ。 でも、

「私はまだ、人を殺したり傷つけたりしたことがないので丁度いいんですよ。 最初から悪人、敵だと分かりきっている相手なんて、ありがたい話じゃないですか」

「………」
「町の外で襲ってくるなら、全勢力で来る可能性が高い。 1人での対処は無理だ。俺が護衛する」

「1人じゃないです。 とても頼りになる従魔たちがいます」

 冒険者たちもこれで納得してくれるかと思ったら、

「ダメだ! ライムを危険な目に遭わせるわけにはいかない! わたしが護衛する!」

「ハクだって、こんなに可愛いんだ! 2匹に怪我をさせるわけにはいかない! 俺も護衛するぞ!」

 逆に抵抗が強くなってしまった……。 2匹の魅力は計算外だったな。

(一緒はダメにゃ?)

(複製したいしね。ごはんのストックも作っておきたいから、一人の方が作業がはかどる)

(だったら、盗賊の持ち物の所有権を聞くにゃ! あと、盗賊の財産の所有権も聞くにゃ!)

 あ、なるほど。 さすが守銭奴しっかりもの

「襲ってきた盗賊の持ち物やアジトにある財産は誰の物ですか?」

 裁判官に聞いてみると、基本は倒した人の物。つまり私が倒せば私の物になるらしい。 ただ、元の持ち主や遺族が返還を求めたら、有償で応じて欲しいとのことだった。

「大変な時間が掛かりそうですね」

「冒険者ギルドの方に被害届が出ていて、返して欲しい物品の詳細がわかっている場合のみなので、そこまでの時間はかかりませんよ。嫌なら断ることもできます」

「断れるんですか?」

「もちろん。 時間がない、金額が折り合わない、遺族の性格が悪すぎる。理由は様々ですが、断る冒険者も少なくないですよ」

 条件的には悪くない。私は冒険者組に向かって言い放った。

「だったら、これから襲ってくる盗賊は私の獲物です。邪魔はしないで欲しいですね~」

 これで冒険者組は納得してくれたのに、裁判官が納得しなかった。

「では、裁判所がアリスさんの護衛に4人を雇いましょう。 指名依頼なので、割高の依頼料を支払う代わりに、倒した敵の所有権は全てアリスさんに帰属します。これで問題はないですね」

 にっこりと笑いながら告げる裁判官にこれ以上反論する材料は何もなく、私は4人の護衛を受け入れることになった…。 

 盗賊の所有権を倒した人の物にすることと、裁判官の野営参加を拒めたことだけが、私の勝ち星だ。
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