120 / 754
野営というより、キャンプ
しおりを挟む「では、明日の9時に来てください。 ダビの資産整理の手配をしておきます」
笑顔のモレーノ裁判官に見送られて裁判所を後にした。
「ギルドマスターが、明日のお昼以降に家に来て欲しいって言ってたわよ。 今日はもうギルドには戻らないから、何か用があれば家の方に来て欲しいって」
「わかりました。私はこのまま町の外に出ます。表門を出て東に1km程の所で野営をしていますね」
「俺たちは準備ができ次第後を追いかけるから、目印代わりに火を焚いておいてくれ」
「会えなかったらまた明日、ということで」
願望を込めて言ってみたら、笑われた。
「たかが1kmじゃねぇか。 上位ランク冒険者を舐めんなよ?」
という事らしい。 最初に進む角度がずれると、1km先では結構ずれると思うんだけどな~。 仕方がないから大人しく待っていよう。
「こんなものかな」
「お肉が増えたにゃ♪ から揚げいっぱい食べたいにゃ!」
「からあげー♪」
「うん。ハーピーは複製できるから、もう少し増えたらいっぱい作ろうね!」
野営地点で焚き火を焚き、まず手を付けたのは【複製】だ。
複製だけならインベントリ内で出来るけど、効率的な複製をする為には、一度取り出して複製したい物を組み合わせないといけない。 傍から見ると不可解な行動に見えそうなので、みんなが到着するまでに急いですませた。
ダビのスキルとステータスの水晶は複製できなかった。水晶は複製できないのか複製のレベルが足りないのか、検証のために1つ売らずに残しておこうかな。
魔物肉を始めとした食材や薬草は増やす側から減っていくので、近いうちに採取に行った方がいいかもしれない。
「夜もサンドイッチを食べるの?」
「これは、作り置き分です」
「この焼き魚と串焼き肉は?」
「それも作り置き分です」
野営地に1番乗りをしたのは、馬に乗って来たマルタだった。
徒歩でも15分掛からない距離なのにどうして馬に乗ってきたのかと聞くと、馬の首に町から兵を呼ぶ為の手紙を括りつけていて、盗賊が襲ってきたら馬を町まで走らせて応援を呼ぶ段取りになっていると説明してくれた。
大きな馬だったので、小さなハクとライムは大丈夫かと心配したが、ハクは神獣の威厳(?)で馬を従えたらしい。ライムと一緒に背中に乗せてもらってご機嫌だ。
「裁判所で出してくれたお茶も温かかったし、アリスのアイテムボックスはレベルが高いのね! 登録が済んだらすぐに厚待遇で引っ張りだこよ!
良かったらあたしのパーティーに入らない?」
マルタが楽しそうに誘ってくれたが、
「私はソロで活動したいので、お気持ちだけ」
丁重に断った。 パーティーで行動を縛られるのは好ましくない。
「かまどを持ってきたのか? 随分と本格的な野営だな!」
「これはアリスのよ! こんなのをいつも持ち歩けるなんて、羨ましいわよね!」
次に着いたのはアルバロだ。 手には包みを持っている。
「丁度いい。土産だ。飯の時間に温めてくれ」
包みを開けてみるとマッシュポテトのオムレツだった。
「美味しそうですね~♪ ありがとうございます!」
テーブル代わりに出しておいた解体台の上に大事に置いておく。
エミルとイザックは2人一緒に来ているようだ。いつの間にか進化していたマップに、2人の名前が重なって移動しているのが見える。 もうすぐ着くだろう。
半分に割ったパンを軽く焼いてから作ったハンバーガーは、昼に作ったものと同じ材料なのにより美味しそうに感じる。ハクとライムに見つからないうちにインベントリにしまっておいた。
マルタとアルバロは2人で話し込んでいるので、気兼ねなく料理を続ける。
スープがなくなったから大鍋で作っておこう。 卵が手に入ったから、野菜たっぷりの卵スープにしようかな♪
美味しいトマトがあるから、トマトたっぷりのふわふわ卵も焼いておこう!
「やっと来たか!」
「遅くなったか?」
エミルとイザックが到着して、一段とにぎやかになった。
エミルがお土産にくれたチュロスをマルタが受け取って、アルバロのオムレツの隣に置いてくれる。
イザックが連れている鳥はマルタの馬同様に、町への連絡用らしい。 ……襲撃の可能性が高いってことかな? 高ランク冒険者たちの気遣い&気配りには頭が下がる。
「皆さん、今夜もお世話になります」
キリのいい所で手を止めて挨拶をすると、みんなも口々に挨拶を返してくれた。
料理を続けていいと言ってくれたので遠慮なくそのまま続けるが、こういった野営は初めてなので段取りがわからない…。
米を洗うのにライムを呼んだらエミルも付いて来たので、聞いてみよう。
「皆さん、晩ごはんはまだですよね? こういう野営では、食事とかどうしてるんですか?」
「今回はそれぞれが用意して来たが、依頼によってまちまちだな。 隊商などの護衛依頼で長距離移動だと飯付きがほとんどだが、近距離なら各自で用意することが多い。 依頼票に何も記載がない場合は、直接依頼主に確認をしてから受注を決めるといい。
……もう、ライムの仕事は終わったか?」
ぷるぷると揺れながら米のとぎ汁を吸収しているライムを撫でたくてうずうずしているようで、
(まだ)
「まだですね」
まだ仕事中だと伝えると、露骨にがっかりしている。 ライムのぷにぷにボディは癒しの塊だから、気持ちはわかるけどね^^
米を水に浸している間に、ハーピーの手羽元(大きい!)に塩・胡椒をすり込んで網焼きする。ハクの強い視線を感じるけど、気が付かないフリ!
50mほど離れたところで穴を掘っているマルタ、アルバロ、イザックに視線を向けると、
「トイレを作っているんだ。 ここは見晴らしがいいからな。 女性は困るだろう? 掘った穴の周りに目隠しの布を張るんだ」
同じ方向を見たエミルが教えてくれた。
トイレ!! うっかりしていたけど、トイレがあるのは嬉しい! お礼におやつを出しちゃおうかな♪
「エミル、これ、おやつ。 3人が戻って来たらみんなで食べてください」
りんご水を注いだ水差しと大皿にオークの干し肉を2掴み分乗せてエミルに渡すと、「わたしの持ってきたチュロスじゃないのか?」と聞かれたので「あれは私も食べたいから食後まで絶対に手出し無用だと」伝えると、笑って了承してくれた。
ご飯を炊きながら、オレンジをスマイルカットして一食分ずつお皿に盛っていると、野太い歓声が沸いた。
干し肉を握り締めているから、どうやら気に入ってくれたようだ。 ハクやライムまで参加している。
…足りるかな?
オレンジの皿に木苺を追加していると、もこもことぷるぷるが目の端に移る。
「つまみ食いは禁止~」
「にゃっ!」
「きゅっ!」
やっぱり足りなかったらしい2匹があたふたしているの見て冒険者組が楽しげに笑っていて、盗賊団を警戒している様にはとても見えない。
まあ、襲ってくるには時間が早すぎるか。 まだ町に向かう人がちらほらいるしね。
「おやつばっかり食べると、ごはんが食べられなくなるよ?」
(ぜんっぜん!足りないにゃ! ごはんは別腹にゃ~)
(おなかすいてるよ?)
ねだる2匹があまりに可愛いので、今日だけ特別にした。 大皿の真ん中にカットしたトマトを載せて周りを生ハムをレタスでくるくる巻いただけのものを可愛く置いて、ライムの頭に乗せる。
「上手に運んでね?」
(うん!)
(やったにゃ♪)
揺らさないようにゆっくりと移動するライムを応援しながらハクがついていく。 いつもと逆でこれも可愛いな^^
炊けたご飯を釜ごとインベントリにしまってから、今日のごはんに悩んでしまった。
(ハーピーとオーク、今日の気分はどっち?)
(両方にゃ♪)
(りょうほう~♪)
しまった! お肉は片方を選べない仔たちだった!
(今夜はお土産にもらったオムレツとチュロスがあるから、どっちか片方だけにしようね? もう片方は明日作ってあげるからね? どっちかな?)
(む~~、オークにゃ)
(はーぴー)
(……ハーピーで良いにゃ! オークは明日にゃ♪)
割れた意見に頭を抱えると、ハクが譲ってくれた。 さすがお兄ちゃん^^
今日は照り焼きハーピーで、明日はオークテキにしよう♪
応援ありがとうございます!
41
お気に入りに追加
7,482
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる