148 / 754
まさかの値上げ
しおりを挟む「ねえ、アリスぅ。 あたし<ドライアップル>が食べたい!」
「夜まで待ちませんか? 甘いものばかり食べていると太りますよ?」
ミルクを味わいながら飲んでいると、思い出したようにマルタがねだり始めた。
「甘いのですか?」
「干しりんごのことじゃないのか? もっと甘いのか?」
“甘い”に裁判官とイザックが反応すると、従魔たちを抱っこしてほくほくしていたエミルも顔を上げて私をみつめる。
アルバロが戻ってからの方が良いんじゃないか?という思いは、期待に満ちた視線に負けた…。
「美味しい!」
「ハクやライムは幸せだな!」
(そんなことないにゃ。アリスはケチにゃ!)
「甘いな♪」
「これも素晴らしい!! 当然これもレシピ登録したのでしょう? いつから使用できますか?」
ハクの発言は気になるけど、みんな甘党らしく、ドライアップルも気に入ってくれてなによりだ。
レシピ登録はしていないが、アウドムラの牧場への紹介状のお礼にレシピを教えるって言ったら、裁判官は「登録するように!」と力を込めて勧めてくれた。
手が空いたら考えよう。
「アリスは<情報使用料>と<レシピ使用料>だけでも暮らしていけそうだな。 旅がしたいなら護衛に冒険者を雇ってもいいんだぞ? 俺たちなんかどうだ?」
「わたしと婚約すれば、依頼料は飯だけでいいぞ?」
イザックが面白そうに言うと、エミルも悪乗りを始める。
「あたしはパーティーメンバーごと雇ってくれたら、依頼料は割引きするわよ?」
マルタの提案はお得だし、護衛組はみんないい人だから一緒に旅をしたら楽しいだろうけど、
「魅力的なお誘いですが、私は<冒険者>になってレベルを上げて、簡単には死なない程度に強くなりたんです。だから、しばらくはソロで冒険者活動を希望です♪」
まずはお金を貯めてお風呂付きの宿に泊まる。もっとお金が貯まったら冷凍庫を買って、お風呂付きの家を買う。
護衛を雇う余裕なんて、欠片もないな~。 護衛の売り込みは丁重にお断りだ。
「では、もう<冒険者登録>はすませたのですか? 口座を開いたなら教えてもらいたいのですが」
護衛組の「え~、つまらな~い」や「残念だな」と言った笑い声の中で、モレーノ裁判官の真面目な声はよく響いた。
「登録はまだですが、口座が必要ですか?」
「ええ。 昨日、コンラート夫妻から、向こう1年間の慰謝料の支払い手続きを依頼されまして。 まあ、口座は<商業ギルド>のものでも構いませんので、明日には手続きを完了できそうですね」
「お手数をお掛けします」
「これも裁判所の業務の一環ですから。 向こう1年間のコンラート家の収入の7割を、来月末から12回、アリスさんの口座に入金する形になります」
えっ!?
「5割です、裁判官。 向こう1年間、コンラートさんの収入の5割です」
どこで、家の収入の7割なんて間違いが起こったの!? 慌てて訂正したが、
「いいえ。 コンラート家、コンラート夫妻の全収入の7割だと聞いていますよ? 私が担当したので間違いはありません。これが依頼書です。
アリスさん以外は見ないように!」
裁判官がアイテムボックスから取り出した書類には、確かに“コンラート家の全収入の7割”とある。
「え? 私は5割って言いましたよね? ねえ、5割でしたよね?」
律儀に後ろを向いていた護衛組も頷いてるから、間違いない。
「5割です、裁判官!」
「さて、困りましたね。私は7割で依頼されているので、なんともしようがありません」
モレーノ裁判官は「困った」と言いながらも、にこやかに微笑んだまま、
「最初は3割、次に5割で最終が7割ですか? 支払う方が値上げをしていくなんて珍しいケースですねぇ」
……面白がっていた。 ダメだ、このままでは埒が明かない。
「直接、コンラートさんと話をしてきます」
「ギルマスなら<商業ギルド>だぞ」
立ち上がると同時にアルバロの声がした。
「さっき、商業ギルドのギルマスと一緒に商業ギルドに入って行くのを見た。 だから落ち着いて、先にこっちの依頼をすませろ」
アルバロの後ろには20代後半くらいの男性冒険者が立っていた。見覚えが…ある! 商業ギルドの鑑定士を連れて来てくれた冒険者だ!
「その節はお世話になりまして、ありがとうございました!」
慌てて頭を下げると、アルバロの笑い声が聞こえた。
「やっぱり覚えていたか! こいつがギルドの酒場で飯を食ってたから、声を掛けてみた」
「ベニートだ。 アウドムラの牧場なら警備依頼を何度か受けているから、勝手がわかる。 返事が欲しいなら早く出た方がいいぞ」
ベニートさんはそう言うと、片手を顔の斜め前に上げ、手のひらを開いて固定した。 ん?
「アリス、手のひらパッチン!」
んん? …もしかして、ハイタッチ!?
マルタの言うとおりにベニートさんの手のひらに自分の手のひらを打ち合わせると、にっかり笑ったベニートさんはそのまま握手に持ち込み、ブンブンと手を振って言った。
「ダビが捕まったのはあんたのお陰だ。ありがとうな!」
「皆さんのご協力のお陰です。 こちらこそ、ありがとうございました!」
気持ちよくお礼を言い合い手を離すと、モレーノ裁判官が手紙をアルバロに渡し、アルバロが依頼内容の確認を始める。
「返事はどこへ持って行けばいいんだ?」
ベニートさんの質問を受け、アルバロが私を見た。 えっと…、
「私たちは今から<商業ギルド>へ向かいます。 その後は……、首領の家にいます。 首領の家は…」
首領の家はアルバロが説明をしてくれた。 うん、地元の人の説明の方がわかりやすい。
「わかった。 じゃあ、行って来るよ!」
ベニートさんは家の場所を聞くと、片手を上げて颯爽と走り出す。
「頼んだぞ~!」
「お願いしますねーっ」
手を振って見送ったけど、冒険者の行動の早さにはいつも感心させられる。 ドライアップルを勧める暇もなかったなぁ。
……私も見習わないと! まずは<商業ギルド>へ!!
262
あなたにおすすめの小説
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~
結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』
『小さいな』
『…やっと…逢えた』
『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』
『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』
地球とは別の世界、異世界“パレス”。
ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。
しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。
神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。
その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。
しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。
原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。
その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。
生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。
初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。
阿鼻叫喚のパレスの神界。
次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。
これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。
家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待!
*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈
小説家になろう様でも連載中です。
第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます!
よろしくお願い致します( . .)"
*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる