女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

文字の大きさ
192 / 754

元・冒険者は侮れない

しおりを挟む



 商業ギルドの幹部3人が従魔たちに朝ごはんの約束をして帰ったのは、22時を過ぎていた。

「サンダリオさんが昨日言ってた、一目惚れをした娘さんとはどうなったの?」

「今はわたしの妻だよ。 わたしの代わりに商会を治めてくれている」

「へぇ、随分と優秀なのね! でも、サンダリオさんの商会はこの町にはなかったわよね? 別居?」

「わたしの見る目に間違いはなかったことを証明してくれる、とても素晴らしい妻だよ!
 実は今、この町に遊びに来ていてな……」

 帰り際にマルタに聞かれたサンダリオギルマスは嬉しそうに答えていたが、

「今夜はまっすぐに家に帰るのか?」

「今夜はギルドに泊まるんだ…。 家族に嫌われたくはないからな……」

 エミルに聞かれて、がっくりと肩を落とした。

 にんにく臭で家族に嫌われるのを避ける為に、幹部たちは全員ギルドに泊まることにしたらしい。

「にんにく臭って言うより、自分だけ美味いものをたらふく食ったことがバレる方が怖いんじゃないか?」

 とはイザックの冗談だけど、ハクがその通り!と言いたげに頷いているのが嬉しい。

 明日も頑張って、美味しいものを作るからね!

「明日も早いから、早く寝よう」

 商業ギルドの3人を玄関まで見送って戻ってきたエミルの言葉にみんなが頷く。 

 今日は少し疲れているから早く寝ないと……。 明日の朝、寝坊をすると大変だ。 









 表門を出て南に1kmほど歩くと少し大きな岩がある。 その付近が今朝の待ち合わせ場所だ。

 待ち合わせの相手は、氷魔法が使える元・冒険者たち。

 昨日、ギルドのオークションに参加するアルバロ達に、氷魔法が使える人たちを集めてもらえるようにお願いをしていたのだ。

「アリスの希望通り、引退した冒険者に声を掛けるように言っておいたが、ランクの低い冒険者が小遣い稼ぎに混ざっているかもしれん」

「別にいいけど……。 普通に魔物を狩った方が余程いい稼ぎになると思うよ?」

「氷1kgに対して3千メレなら十分だ。怪我の心配のない小遣い稼ぎになるからな」

 氷が多く買える分にはなんの文句もない。  インベントリからエミルに作ってもらった天秤を取り出しているとアルバロを呼ぶ声がした。片足が義足の男性だ。

「おお、やっぱり来たか!」

「ああ、飯代を稼がせてもらおうと思ってな。 氷魔法を見せるだけで1発3千メレなんて、随分と物好きがいるもんだ」

 ……少し話が違っているな。 参加者が集まったらちゃんと説明をしよう。

「氷魔法が1発3千メレじゃなくて、氷が1kgにつき3千メレだ。 おまえの腕が落ちてなかったらちょっとした稼ぎになるんじゃないか?」

 義足の男性はなかなか強い氷魔法を使えるようで、アルバロの説明を聞いて嬉しそうに笑っている。 

 大量の氷が手に入りそうで、私も嬉しい!









「-------------大きい方のビンの中身が1kg、小さい方のビンの中身が500gだ。これを目安に秤にかける。 頑張ってくれ!」

「おい! 俺は攻撃魔法を1発見せれば3千メレだと聞いていたぞ!」
「俺もだ!」

「どこかで話が変わっちまったんだな。今日は氷の買い付けだ。 おまえ達の属性は?」

「火」
「風だ」

「そうか、残念だったな」

「それだけかよ! 無駄足を踏ませたんだから、いくらかよこせよ!」

「ギルドの掲示板や職員にはきちんと伝えてある。 確認をしたか?  誰かから聞いてきたなら、文句はそいつに言え」

 話がきちんと伝わっていなかったらしく、間違って来た人が怒っているが、アルバロは意に介した様子もなく淡々と話を進める。

 アルバロが全体のまとめ、イザックが参加者の整理、エミルが氷の量を量り、マルタが支払いを担当してくれる。

「攻撃しなくても氷を出せるヤツは前に出てくれ!」

 イザックの言葉に、アルバロと話していた義足の男性が出てきた。

「この鍋の中に入れられるか? 出せるだけ出してくれ」

「鍋を壊さないようにだな?  【アイスボール】」

 義足の男性は上を向けた手のひらの10cmほど上に氷を出現させて、手を伸ばしながら寸胴鍋の中に氷をコロンと転がした。

 思わず拍手をするとこちらを向いてニヤリと笑い、どんどん鍋を氷で埋めてくれる。 途中で鍋を交換して、合計で30㎏を超える氷を出してくれた。

「9万メレと…、500メレと美味しいクッキーのどっちがいい? あたしのお勧めはクッキー」

「本当に9万メレもくれるのか…。 クッキーをもらおう。息子が喜ぶ」

 義足の男性は嬉しそうにお金とクッキーを受け取って、アルバロと何かを話した後に帰っていった。

「次はわしじゃ」

 次に出てきたのは矍鑠かくしゃくとしたおばあさんだ。 おばあさんはアイスウォールが得意らしく、鍋には入らないので、帆布の上に出してもらう。

「【アイスウォール】!」

「【ウインドカッター・トリプル】!
 あ…、もう1回【トリプル】!」

 おばあさんの作り出した氷の壁は思ったよりも硬くて、1度では切り離せなかったので魔力を強く込めて改めて【ウインドカッター】を撃ちだした。

「ちょっと、お嬢ちゃん……」

「せっかく大きく出してくれた氷を切り離した分は、少し多めに計るから安心していいぞ」

 エミルに声を掛けられておばあさんは頷いたけど、すぐに私を振り返る。

「こんな可愛らしいお嬢ちゃんに簡単に壊されるとは、わしも年を取ったな…」

 がっくりと肩を落としたおばあさんに、アルバロとイザックが声を掛ける。

「あんたの壁は分厚くていい壁だぞ。 アリスがおかしいだけだから気にするな」
「ばあさんの【アイスウォール】なら、今でも十分に戦力になるぞ?」

「ふん! お嬢ちゃん! もう1発行くぞ!」

 2人のおかげで気を取り直してくれたおばさんは、さっきより一回り小さい壁を2回出してくれて、合計で25㎏になった。

「75,000メレか。 孫に何か買ってやろうかね」

 ほくほく顔で帰るおばあさんを見送りながら、この調子だと、今日の目標の300㎏はあっと言う間に集まりそうだと、私もほくほく顔で残っている人たちを見る。  

 あれ? ……残っている人たちが微妙な顔をしている?

「どうかしたの?」

「私は攻撃しかできないんだけど…」
「俺もだ。 何かに向かって投げないと……」

 ああ、フェルナン君の所にいた冒険者と同じタイプか。

「大丈夫! じゃあ、私のお腹を目がけて攻撃して」

 帆布の上に立って攻撃を促すと、「自分をバカにしているのか!?」といった声が聞こえたが、護衛組が上手に説明をしてくれて、なんとか機嫌を治して氷魔法を使ってくれた。

 最初の2人を基準に考えてわくわくしていたが、2人がずば抜けていただけで、他の人は1人2~3kg、多くても10㎏ほどの氷しか出なかった。

 合計で75㎏にしかならなくてがっかりしていると、突然背後で魔力が膨れるのを感じた。

「【ファイヤーアロー】!!」

 はっ!?  なんで!?
しおりを挟む
感想 1,118

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...