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“賠償”以外の話し合い 3
しおりを挟む「レイナルド殿が譲歩とは、随分と思い上がったものだ。これが嫡子でこの領は大丈夫なのか不安になるな……。
“アリス殿とは今後一切関わらない”と誓約したにも拘らず、アリス殿の心情を無視して自分たちに有利になるようにねだり続けていたことのどこが“譲歩”なのか。
アリス殿の方が“譲歩”して、話をしてやっていたのがわからないのか……」
モレーノ裁判官が言っていることを客観的に聞いていると、私はもっと怒るべきだったような気がしてくる。
「レイナルド様の感覚は我らとは違いすぎるようですね。
アリスさんのレシピを手に入れて領を発展させたいという気持ちはわかりますが、アリスさんへはレシピの売り上げ分の税の還元だけで済ませて、自分たちはレシピの使用で発生する莫大な利益を受け取ろうとは、随分とアリスさんをバカにした話ですが」
「先ほどサンダリオ殿がアリスさんに資料を渡さなかったことをレイナルド様は誤解されたのでは? アリスさんが見てもわからないだろうから渡さなかったのではなく、アリスさんはあんなものを見なくても内容を理解しているからこそ、何の資料も渡さなかったというのに」
あ~、私に資料をくれなかったのはそこにつながるんだ? いや、ぜんっぜん!理解していないけどね~?
でも、私が言いたかったことは3人が全部言ってくれたから気分的にはすっきりできた。 ムカついていたんだよね、「小金をくれてやるから大金をよこせ」的な発言には。
3人の発言を聞いたレイナルドは驚愕をあらわに私を見る…。 え、まさか、本当に私を計算のできないおバカさんだと思っていたの!? それはそれでムカつくんだけど……!
目を据わらせる私を見て、モレーノ裁判官はこっそりと口の端を吊り上げている。 ……私が怒るとどうなるのかな?
「アリス殿はレイナルド殿の考えていることを理解した上でガバン伯爵家との付き合いを拒否していることに気付かずに、レイナルド殿が陛下のご威光を笠に着るような発言をしたことで見切りをつけたんですよ。
ガバン伯爵家との関わりを一切持たない為にはこの国を出て二度と近づかないことが1番だとね。
………いくらアリス殿が“自分は平民だ”と仰っていても、超えてはならない一線が確かにあるのだ。 レイナルド殿は自分の発言が王家の威光に傷をつけ、外交に皹を入れたのだと理解されるがよろしい」
……私が怒っても、外交には関係ないよ~。 どこの国とも関わっていないからね~。
まさかこんな風につながるとは思っていなくて内心では冷や汗ものだけど、なんとか表情には出さずにすんだ。
3人の話を聞いていたレイナルドは、途中で顔を真っ赤にして怒りを押し殺したり、失態を認めて今度は土気色に変化させたりと忙しく顔色を変えながらも黙っていたが、“王家の威光に傷をつけた”と断定されて泡を食って言い訳を始めた。
「陛下! わたくしは決してそのようなつもりではなかったのです! わたくしが若輩ゆえに配慮が足りず、アリス殿を怒らせてしまったことはいかようにもお詫びいたしますが、どのようにすれば良かったのか……。
決して悪意などはなかったのです!」
私を怒らせたことを、王様に謝ってどうするんだろうね~?
疲れたから早く帰りたいな~と思っていると、ハクとライムが私の膝から飛び降りて裁判官席の水晶に向かって鳴き声(うなり声?)を上げ始めた。
「ウゥゥゥゥゥ~、シャーッ! ニャニャーっ!?」
「プゥゥゥゥゥ、キュゥゥゥゥゥ……、プッ!!」
「なんと!? どうしたと言うのだ?」
突然うなり声を聞かされた王様は困惑しているようだが、従魔たちのうなりは止まらない。
(どうしたの?)
(ここは舐められたらいけない場面にゃ!)
(ありすにあやまらないやつはとかしてもいいって、はくがいった! こいつがおやだま!)
2匹がうなり続けることに興味を持ったモレーノ裁判官が近づいて来て事情を聞くので、他の人に聞こえないように耳を貸してもらって通訳すると、
「ふっ! ふふっ! あはははははは! 君たちは本当におりこうですねぇ!」
モレーノ裁判官は楽しそうに笑って2匹を褒めた。 王様に対する不敬罪とかは大丈夫なのかな…?
「陛下。この2匹はアリス殿の従魔なのですが、自分たちの事をアリス殿の保護者だと自負しているのです。 従魔と言うより守護獣ですね。
アリス殿の身体だけでなく、心や権利までも守ろうとするけなげな2匹ですので、今回の事は腹に据えかねたようです」
モレーノ裁判官が自分たちの思いを代弁してくれたばかりか、頭をなでなでして褒めてくれるので、2匹も少しだけ落ち着いたらしい。
「んにゃ~?」
「ぷきゅ~!」
「ええ、あとは私たちにまかせておきなさい。 君たちはアリス殿の側でアリス殿を守らなくてはね?」
なぜか意思の疎通ができているらしいモレーノ裁判官に諭されて2匹は私の膝に戻ってきたが、今度はレイナルドの方に向かってハクは毛を逆立て、ライムは伸び縮みをしながら威嚇している。
仕方がないので生キャラメルを取り出して口に入れてあげると、やっと大人しくなってくれた。
嬉しそうに頬張っている姿はいつみても可愛いくて、護衛組も鼻の下を伸ばして2匹を見つめている。
サンダリオギルマスも従魔たちを見ながら微笑んで、ゆっくりと口を開いた。
「では、けなげで頼りになる守護獣たちに代わって、わたくしがアリスさんの権利を主張しましょうか」
「其の方は<商業ギルド>の者であったな? 其の方はアリス殿の権利をどのようなものが妥当だったと考える? 直答を許すぞ。 申してみよ」
「ありがたき幸せでございます、国王陛下。 わたくしは商業ギルド・ジャスパー支部マスターのサンダリオと申します。
ギルドマスターとしての立場から、今回のアリスさんの商品登録における経済効果を鑑みまして、ガバン伯爵家は税収の18%を今後15年の間アリス殿に支払うのが妥当だったと考えます」
「…ほう?」
「はっ!? なっ……!」
おもしろそうな声をあげた王様と驚愕で声も出ないレイナルド。
うん、レイナルドの気持ちはよくわかる。 私もびっくりしすぎて声にならないもん。
なに、そのとんでもない数字!?
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