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いわゆる“事後処理”? 1

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「よつざきのけい……?」

 モレーノ裁判官の言葉を呆然と繰り返すことしかできないレイナルドに、

「ええ。 アリス殿の素性を抜きにしても、選りに選って裁判所の敷地内での殺人未遂。しかも兵が集団で反撃すらしない何の罪もない少女を殺そうとしていたのだから、刑としては軽い方でしょう。 
 攻撃対象にはアリス殿の護衛たちに法廷兵もおりましたね。 公開処刑にして1週間ほど首を晒しておきましょうか?」

 モレーノ裁判官は、どこまでも冷徹だった。

「ま、待ってください、モレーノさま! 彼らは少し冷静さを欠いていただけで殺そうなんて意思は」
「なかったとは言わせませんよ? 私たちが到着したあの時、領兵が揃ってアリス殿に集中して攻撃魔法を放っていたのを見ましたからね」

「私はそんな命令を兵に出していません! 彼らがそんな愚か」
「あなたが兵の掌握をできていたら、彼らはそんな愚行を犯さなかったでしょうな!」

 モレーノ裁判官の代わりにベルトランギルドマスターがレイナルドの言葉を遮って言った。 ギルドマスターがレイナルドに話していた“兵を掌握しておくことの重要性”はここにつながるらしい。

「そんな……、私がいる場でそんなことになったら、誰も新しい土地についてこなくなってしまう! 止めてください! モレーノさま! どうか、それだけは……!!」

「罪は償わなくてはなりません。 私は裁判官ですから見逃すことはできませんよ」

 レイナルドが取り乱しモレーノ裁判官の法服の裾にすがりつくが、モレーノ裁判官はただ静かにレイナルドを見つめるだけだ。

 代わりに口を開いたのはベルトランギルドマスターだが、

「ここで彼らを掌握しておかないと、新領地へ向かう旅の前に領地へ戻ることすら難しくなるでしょうな。 この町の冒険者ギルドにはあなたの護衛依頼を受ける上位・中位の冒険者はいないでしょうし」

 と、その発言はレイナルドを庇うものではなかった。

「なぜだ!? 依頼があれば受けるのが冒険者ギルドだろう?」

「冒険者ギルドが依頼を受けてボードに貼り出しても、どの依頼を受注するのかは冒険者個人の判断に委ねられています。 命を懸けるに値する依頼かどうかをシビアに判断できなくては長生きできませんからね」

「依頼料はきちんと出すぞ?」

「よほどの高額依頼でないと見向きもされないでしょうな。 あなた達がアルバロ達の命を脅かしたことはすでに話が回っています」

「!! そんな……」

 まあ、普通に考えて、仲間の命を狙った人たちの依頼なんて受けたくないよね~。 特に今回は理由が理由だし?

 なんて、他人事のように考えていたせいで、いきなりこちらに向かって来たレイナルドへの対応が遅れてしまった。

 ぼうっと突っ立っている私に向かってレイナルドが手を延ばすが、その手は私に届く前にイザックに撥ねつけられる。

「アリスに危害を加えるようなら、遠慮なくあんたを殺すぞ?  俺たちはアリスの護衛だからな。あんたが貴族だろうが今は何の関係もない」

 アルバロの言葉にレイナルドは衝撃を受けたようだ。 今まで<貴族>という立場のおかげで、手荒な扱いを受けたことがなかったらしい。 それでもレイナルドは必死に言葉を搾り出した。

「アリス殿! 彼らを、彼らの命を助けてくれっ!」

「……私には決まった処分を撤回させるだけの権力ちからはないわ」

「被害者からの嘆願なら裁判所も考慮する! 彼らを助けてくれ、…くださいっ!」

 ああ、私たちが被害者で自分たちが加害者だって自覚はあるんだ? その上で私たちに彼らの命乞いをしろと?

 随分と優しい人だと思われているんだな。 でも、そんなに簡単に甘い顔はできないんだよ。

「あなたは自分の命を狙った相手の命乞いをするの?」

「……え?」

「想像してみて? 自分に非がないのに周りの人間を巻き込んで命を狙われた。 どう? 狙ってきた相手の命乞いをする?」

 レイナルドは悔しそうに顔をゆがめていたが、

「身代金を支払う!」

 私の質問には答えずに、兵の命を買うことにしたようだ。

 答えがないのがその答えって言うんだけどね~。 まあ、いいや。

「今の伯爵家にそんな余裕があるの?」 

 今回の賠償金や引越しの準備などで結構なお金が必要になるはずだ。 空手形はお断り!の気持ちを込めて聞いてみると、レイナルドは顔を真っ赤にしながら怒りだした。

「伯爵家を見縊らないでもらいたい! 兵1人につき1千万メレ。 合計5千万メレなら文句はないでしょう!?」

 ……1人1千万メレねぇ? 文句はないだろうって、随分強気だなぁ~。

 どうやら私とレイナルドは相性が悪いらしい。 レイナルドの言動の一つ一つが癇に障る。

の命の代金が1人714万メレ程らしいんだけど、これって相場なの?」

 でも、勝手な判断はできないので護衛組に聞いてみた。

「ん? の命の代金か?
 そうだな……。 アリスはもちろん俺たちもそれなりに名が通っている冒険者だからな~。 安すぎるんじゃないか?」

「あ、やっぱり?」

「ああ。 相場で言うならアリスが数十億、俺たちで億って所だな。 法廷兵の相場はわからん」

「法廷兵の分は結構ですよ。彼らの職務ですから」

「でも、私たちを守る為に一方的な攻撃を……」

 モレーノ裁判官の言葉に反論をしようとしたが、

「彼らの職務です。 彼らは職務上のことに慰謝料を求めるような恥知らずではありません」

 裁判官にきっぱりと言われた上に、傍聴席で力強く頷いている法廷兵さん達を見ては納得するしかなかった。

 法廷兵さんたちの誇りを傷つけるわけにはいかない。

「こちらの法廷兵さんたちは誇り高いのですね。 では、彼らには甘えておくことにします。
 では、1人1億メレとして5人分の5億メレで手を打つ?」

 護衛組に確認をすると4人ともが微妙な顔をした。 少ないのかと思って聞いてみるとそうではないらしい。

「俺たちは4人で1億のつもりだったんだ。 護衛任務中の危険手当を1人1億なんて請求したら、次から護衛の依頼が入らなくなっちまう」

 アルバロが苦笑いしながら教えてくれたけど、それとこれとは話が違うような…?

「私が払うわけじゃないけど?」

「それでも、だ。 冒険者全体の評判に関わる」

「ふぅん?」

 個人的には理解できないけど、“冒険者全体”とまで言われては引き下がるしかない。

「じゃあ、2億で」

 とレイナルドを振り返ると、レイナルドは顔を赤黒く染めてこぶしを握りしめて私を睨んでいた。

 ………ん?
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