223 / 754
いわゆる“事後処理”? 1
しおりを挟む「よつざきのけい……?」
モレーノ裁判官の言葉を呆然と繰り返すことしかできないレイナルドに、
「ええ。 アリス殿の素性を抜きにしても、選りに選って裁判所の敷地内での殺人未遂。しかも兵が集団で反撃すらしない何の罪もない少女を殺そうとしていたのだから、刑としては軽い方でしょう。
攻撃対象にはアリス殿の護衛たちに法廷兵もおりましたね。 公開処刑にして1週間ほど首を晒しておきましょうか?」
モレーノ裁判官は、どこまでも冷徹だった。
「ま、待ってください、モレーノさま! 彼らは少し冷静さを欠いていただけで殺そうなんて意思は」
「なかったとは言わせませんよ? 私たちが到着したあの時、領兵が揃ってアリス殿に集中して攻撃魔法を放っていたのを見ましたからね」
「私はそんな命令を兵に出していません! 彼らがそんな愚か」
「あなたが兵の掌握をできていたら、彼らはそんな愚行を犯さなかったでしょうな!」
モレーノ裁判官の代わりにベルトランギルドマスターがレイナルドの言葉を遮って言った。 ギルドマスターがレイナルドに話していた“兵を掌握しておくことの重要性”はここにつながるらしい。
「そんな……、私がいる場でそんなことになったら、誰も新しい土地についてこなくなってしまう! 止めてください! モレーノさま! どうか、それだけは……!!」
「罪は償わなくてはなりません。 私は裁判官ですから見逃すことはできませんよ」
レイナルドが取り乱しモレーノ裁判官の法服の裾にすがりつくが、モレーノ裁判官はただ静かにレイナルドを見つめるだけだ。
代わりに口を開いたのはベルトランギルドマスターだが、
「ここで彼らを掌握しておかないと、新領地へ向かう旅の前に領地へ戻ることすら難しくなるでしょうな。 この町の冒険者ギルドにはあなたの護衛依頼を受ける上位・中位の冒険者はいないでしょうし」
と、その発言はレイナルドを庇うものではなかった。
「なぜだ!? 依頼があれば受けるのが冒険者ギルドだろう?」
「冒険者ギルドが依頼を受けてボードに貼り出しても、どの依頼を受注するのかは冒険者個人の判断に委ねられています。 命を懸けるに値する依頼かどうかをシビアに判断できなくては長生きできませんからね」
「依頼料はきちんと出すぞ?」
「よほどの高額依頼でないと見向きもされないでしょうな。 あなた達がアルバロ達の命を脅かしたことはすでに話が回っています」
「!! そんな……」
まあ、普通に考えて、仲間の命を狙った人たちの依頼なんて受けたくないよね~。 特に今回は理由が理由だし?
なんて、他人事のように考えていたせいで、いきなりこちらに向かって来たレイナルドへの対応が遅れてしまった。
ぼうっと突っ立っている私に向かってレイナルドが手を延ばすが、その手は私に届く前にイザックに撥ねつけられる。
「アリスに危害を加えるようなら、遠慮なくあんたを殺すぞ? 俺たちはアリスの護衛だからな。あんたが貴族だろうが今は何の関係もない」
アルバロの言葉にレイナルドは衝撃を受けたようだ。 今まで<貴族>という立場のおかげで、手荒な扱いを受けたことがなかったらしい。 それでもレイナルドは必死に言葉を搾り出した。
「アリス殿! 彼らを、彼らの命を助けてくれっ!」
「……私には決まった処分を撤回させるだけの権力はないわ」
「被害者からの嘆願なら裁判所も考慮する! 彼らを助けてくれ、…くださいっ!」
ああ、私たちが被害者で自分たちが加害者だって自覚はあるんだ? その上で私たちに彼らの命乞いをしろと?
随分と優しい人だと思われているんだな。 でも、そんなに簡単に甘い顔はできないんだよ。
「あなたは自分の命を狙った相手の命乞いをするの?」
「……え?」
「想像してみて? 自分に非がないのに周りの人間を巻き込んで命を狙われた。 どう? 狙ってきた相手の命乞いをする?」
レイナルドは悔しそうに顔をゆがめていたが、
「身代金を支払う!」
私の質問には答えずに、兵の命を買うことにしたようだ。
答えがないのがその答えって言うんだけどね~。 まあ、いいや。
「今の伯爵家にそんな余裕があるの?」
今回の賠償金や引越しの準備などで結構なお金が必要になるはずだ。 空手形はお断り!の気持ちを込めて聞いてみると、レイナルドは顔を真っ赤にしながら怒りだした。
「伯爵家を見縊らないでもらいたい! 兵1人につき1千万メレ。 合計5千万メレなら文句はないでしょう!?」
……1人1千万メレねぇ? 文句はないだろうって、随分強気だなぁ~。
どうやら私とレイナルドは相性が悪いらしい。 レイナルドの言動の一つ一つが癇に障る。
「私たちの命の代金が1人714万メレ程らしいんだけど、これって相場なの?」
でも、勝手な判断はできないので護衛組に聞いてみた。
「ん? 俺たちの命の代金か?
そうだな……。 アリスはもちろん俺たちもそれなりに名が通っている冒険者だからな~。 安すぎるんじゃないか?」
「あ、やっぱり?」
「ああ。 相場で言うならアリスが数十億、俺たちで億って所だな。 法廷兵の相場はわからん」
「法廷兵の分は結構ですよ。彼らの職務ですから」
「でも、私たちを守る為に一方的な攻撃を……」
モレーノ裁判官の言葉に反論をしようとしたが、
「彼らの職務です。 彼らは職務上のことに慰謝料を求めるような恥知らずではありません」
裁判官にきっぱりと言われた上に、傍聴席で力強く頷いている法廷兵さん達を見ては納得するしかなかった。
法廷兵さんたちの誇りを傷つけるわけにはいかない。
「こちらの法廷兵さんたちは誇り高いのですね。 では、彼らには甘えておくことにします。
では、1人1億メレとして5人分の5億メレで手を打つ?」
護衛組に確認をすると4人ともが微妙な顔をした。 少ないのかと思って聞いてみるとそうではないらしい。
「俺たちは4人で1億のつもりだったんだ。 護衛任務中の危険手当を1人1億なんて請求したら、次から護衛の依頼が入らなくなっちまう」
アルバロが苦笑いしながら教えてくれたけど、それとこれとは話が違うような…?
「私が払うわけじゃないけど?」
「それでも、だ。 冒険者全体の評判に関わる」
「ふぅん?」
個人的には理解できないけど、“冒険者全体”とまで言われては引き下がるしかない。
「じゃあ、2億で」
とレイナルドを振り返ると、レイナルドは顔を赤黒く染めてこぶしを握りしめて私を睨んでいた。
………ん?
253
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】
本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。
Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited.
© 魯恒凛 / RoKourin
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~
Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。
うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。
でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。
上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。
——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる