女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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モレーノ邸 5

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「このお肉もおいしい! 何の肉ですか?」

「バイコーンでございます。お嬢さま」

<バイコーン>というのは2本の角をもつ馬型の魔物でこの辺りには生息していないのだが、旅の冒険者が町に持ち込んだらしい。 

<バイコーン>覚えた! 見つけたら全力で狩る!! 

「モレーノ裁判官のお家の料理人は腕がいいのですね! お肉がおいしいのはもちろん、味付けの加減や焼き具合が最高です♪」

「アリスさんにそう言ってもらえると、料理長が喜びますよ」

 おいしいお肉を堪能しながらモレーノ裁判官と微笑み合っていると、執事さんがほんの少しだけ目を伏せた気がした。 ……どうしたのかな?

「アリスさんはネフ村とはどういった関わりがあるのですか? カモミールティーの事を村に伝えたのもアリスさんですね?」

 執事さんの態度も気になったけど、モレーノ裁判官に質問をされたので答えないといけない。 執事さんの様子は後回しにしよう。

「この町に来る前に寄った村なんですけどね、とても素敵な人たちにお世話になっていたんです」

 私はネフ村で起こったことを裁判官に包み隠さず話した。

 村長に村民の治療を無理強いされて家に閉じ込められそうになったことや、その際に腹立たしさに負けて村長を脅しつけてしまったこと。

 村長の代わりに誠心誠意謝ってくれた村長の姉のマルゴさんと、顔役のルベンさんのこと。

 お家に泊めてもらった際に好き勝手にさせてくれていたマルゴさんの度量の広さに、ルベンさんの面倒見の良さ。

 マルゴさんのお家でルベンさん親子と一緒に食べた食事の賑やかさ。

 村長の取り巻きの顔役のくだらない見栄や偉そうだった孫娘のことまで、聞かれるままに素直に話した。

 でも、最後まで楽しそうに聞いてくれたモレーノ裁判官が、

「おや、ではその孫娘は、アリスさんを追い出してこの町に寄越してくれた立役者ですね。 感謝しなくてはなりません」

 と半分本気の表情かおで言うので、眉間にしわが寄ってしまう。

「え~、その後の移動中にマルゴさんの旦那さまのオスカーさんに出会ったから、隣の村に行くのを止めてこの町に来たんですよ? もしも感謝することがあるのなら、是非オスカーさんに!」

「なるほど。 では、姉夫妻が村長交代を申し出て来たなら、すぐさま交代を認めて祝いを贈ることにしましょう」

 裁判官が改めて村長交代を認めてくれる約束をしてくれたので、マルゴさんがその気になった時には安心だ。

「それでマルゴ夫妻とルベン親子が中心となってカモミールティーの栽培とお茶の生産をするんですね? 話を聞く限り、現村長と取り巻きの顔役はあまり性質たちがよろしくないらしい……。 明日にでもサンダリオに相談してみましょう」

 何を相談するのかわからなかったけど、モレーノ裁判官の笑顔を見る限り悪いことにはならないだろう。 明日になればわかることだし、今はずっと言いそびれていたお礼を言いたい。

「モレーノ裁判官、久しぶりのお風呂はとっても気持ちが良かったです! ありがとうございました!!」

「喜んでもらえて嬉しいですよ。 私もアリスさんやマルタの着飾った姿が見られて得をしました」

 やっとお礼が言えてホッとしていると、アルバロがちょっと意地悪な笑みを浮かべる。

「モレーノさま、そんな風に甘やかさんでください。 女2人の風呂の長さに、俺たちは待ちぼうけを食らっていたんですから」

「そうですよ。俺たちの3倍は長く入っていたんじゃないですかね? 待つ身は辛いです」

「はははっ! 女性の仕度と買い物が長いのはもう諦めるしかないな。 それを待つのも男の甲斐性というものだ」

 文句を言うアルバロ達を笑っていなすモレーノ裁判官は紳士だ。  でも、私たちにも言い分はある。

「アタシ達はお風呂に入る前にきちんと水分を取って、(アリスは)丁寧にかけ湯をしてから湯船に入ったのよ! ゆっくりとお湯を楽しんだ後はもちろん冷た~いミルクできちんと水分補給をしたわ。 
 アンタ達は、ちゃんと水分補給とかけ湯をしたの?」

 「私たちはメイドさんに頼らずに、自分たちの事は自分たちでやったから時間がかかったんだ」って言おうとした私より一足早く、マルタが当然のことのように言った。 私をチラッと見てウインクを寄越したので“マルタはかけ湯をしなかった”ことは黙っていてあげよう。

「俺は風呂の後にメイドが持ってきてくれた水を飲んだが、おまえ達は風呂に入る前にも何かを飲んでいたのか?」
「かけ湯なら俺もしたぞ。 湯を汚したくなかったからな」
「風呂上りに冷たいミルクか…。 今度やってみよう」

「アンタ達とは行動の意味合いが違うのよ。 きちんとした理由があってのことなんだから!」

 3人がそれなりにかけ湯と水分補給をしていると聞いても、マルタは余裕の顔を崩さない。

「水分補給もかけ湯も、突然死を防ぐためにも大事なことなんだから。 <冒険者>なら常識よね~?  ……詳しい話はアリスから!」

 マルタは楽しそうに話していたが、興味を持ったモレーノ裁判官がおもしろそうにマルタを見ていることに気付くと、すぐさま私に話を投げた。

「……マルタもアリスから聞いたばかりなんだろう?」

「当然よ~! アタシがそんなこと知っていたわけないじゃない?」

 エミルに当てられてもマルタは動じない。 「知ったかぶりするの楽しかったわ!」と笑いながら、私に話の続きを促した。

 お風呂でメイドさんと約束をした事を話すのに、良い機会を作ってくれたってことかな。

 私はモレーノ裁判官にヒートショックの恐ろしさを詳しく説明し、“心筋梗塞”や“脳卒中”が通じなかったので、私にわかる範囲で詳しく症状を説明し、それを予防するためには、入浴前後の水分補給と丁寧なかけ湯が有効であることを話した。

 モレーノ裁判官はいくつかの質問をしながらも最後まで話を聞いてくれて、今は何かを考え込んでいる。

「それで、裁判官にお願いがあるんです」

 さて、メイドさんとの約束を果たす為にはここからが本番だぞ!  頑張ってお願いしないと!
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