女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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試食会 はすみましたよ~?

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「干し肉の味見をしてくれない?」

 他のテーブルで調理を手伝ってくれている護衛組に声を掛けると、が一斉に近寄ってきた。 

 試食会が終わった後、そのままキッチンを使って良いと言うギルマスの言葉に甘えて調理をしているんだけど……。

 モレーノお父さまがいるのはわかる。できたばかりの娘との時間を大事にしたいと言ってくれるのは正直嬉しい。護衛のウーゴ隊長と護衛代わりのベルトランギルドマスターがいるのもわかる(ティト裁判官はお父さまの仕事を代わる為に急いで帰った)。 

 でも、どうして商業ギルドの幹部の半分がここに残っているのかがわからない。

 じぃ~っと見つめると、決まり悪げに視線を逸らしたり、頬をぽりぽり掻いてみせたりは可愛い方で、満面の笑みを返してくれたり、狸っ腹を“ポンッ”と叩いて早く出せと催促したりする人も……。 う~ん……。

「これ、オークじゃなくてボアなんだけど?」

 興味をなくすかな?と思って言ってみても、みんな揃って頷くだけだったので、諦めて1皿に山盛りにしてアルバロに渡すと一斉に手が伸びた。

 ハクとライムはそれぞれ自分に甘い人の所で“あ~ん”してくれるのを待っている。  ちゃっかりしてるよね!

「やっぱり美味しいわ!」
「普段に食べるならボアでも十分なほどの美味さだな!」
「頼むからこれをギルドに持って帰らせてくれ! これは冒険者に欠かせないものになる!」

 と好感触な反応に気をよくして、次々に煮ボアをドライしていく。

「なあ、それって、ボア一頭分以上あるんじゃねぇか?」

 というイザックの質問に頷きだけで返して、おかわりを強請る声はきっぱりと無視する。 味見の意味がわかっているのかなー?

「さて、味見は終了! 商業ギルドの幹部さん達は出て行ってね!」

 と告げると、テーブルやコンロに出している食材に視線を走らせた幹部たちは、テーブルを握り締めて残留を希望した。

「ここからは新作だからダメ」

 と伝えると、

「だったらなおさら食べたい!」
「私たちは情報漏洩なんてしないわ!」

 と駄々を捏ねる。

「キッチンの使用料だと思って、我々に味見を…」

 と言いだした幹部の言葉に、だったらサンダリオギルマスや他の幹部たちも呼ばないと不公平だな~、と思って、

「みんな~! 撤収するよ~!  
 お父さま、お屋敷のキッチンをお借りしてもよろしいですか? 使用人のかたには私からお詫びをしますので」

 ギルドのキッチンを使うのを辞めようとすると、

「ああ、構わないよ。 料理長には私から話そう」
「待って! 私たちが出て行くわ!!」

 のんびりと了承してくれるお父さまの声と、焦ったように立ち上がるグロリアサブマスターの声が重なった。

「けじめは大切よね! 邪魔をしてごめんなさい!」
「わしらもそろそろ仕事の時間じゃ。 嬢ちゃんはゆっくりとここを使っておくれ。 …すまなんだ」

 一斉に立ち上がった幹部たちは、口々に謝りながら部屋を出て行く。

 幹部たちの態度の急変に驚きながら後ろ姿を見送っていると、お父さまがおもむろに立ち上がり幹部たちを呼び止めた。

「私がアリスの後見人なったことは皆もすでに聞いていると思うが…。 
 アリスの私への呼びかけでもわかるように、我が家ではアリスを私の娘として認識している。 ……今後もよろしく頼むよ」

 なんだろうと思うと、後見人としてのただの挨拶だった。 なんか、面映ゆいなぁ…。

 照れて顔を赤くしてしまった私とは反対に、幹部たちは少しだけ顔色を悪くしながらゆっくりと頷く。

「商業ギルドのギルド職員としての誇りにかけて、情報の漏洩など起こさないことを誓いますわ。 わたくしたちは何も見ておりません」

 グロリアサブマスターが宣誓するように言うと、他の幹部たちが一斉に腰を折る。

 ……ただの挨拶じゃなくて“警告”だったようだ。  

 テーブルの上に出している食材や途中までの調理を見ていた幹部たちには料理の出来上がりを想像することができるかもしれない。 それを見越してのお父さまの行動に感謝の笑みを浮かべて少しだけ頭を下げると、少しだけ寂しそうな微笑みが返って来た。

「……?」

 お礼の気持ちを表したんだけど、伝わらなかったかな? きちんと言葉にするべきだったかと思い直して口を開こうとすると、マルタに手で口を塞がれる。

「こういう時は『ありがとう、お父さまっ!』って言って、抱きつくのが一番よ!」

 と言ってマルタは私をお父さまの方へ押し出した。 
 
 抱きつくって…。そんなこと日本の父親にもしなかったよ? まあ、ほとんど家にいない人だったし、抱きつきたいと思ったこともないけどね。

 いきなりの難問に困っていると、

「にゃ~ん!!」
「ぷっきゃ~っ!」

 従魔たちが全力でお父さまに飛びついた。  …お手本のつもりなのかな?

 2匹を抱きとめて嬉しそうに笑っているお父さまに「お父さま、ありがとう!」と言って笑いかけると、今度は嬉しそうな笑顔が返って来た。

 マルタの言うとおり(ちょっと、アレンジしてるけど)にしてよかった♪






 これから作るのは今夜の為の料理の仕上げで、みんなに手伝ってもらったり味見をしてもらったりすると今夜の楽しみが減っちゃうから、ここからは1人でする。と伝えると、

「大丈夫だ! 今までだって味見の後の飯の時間は楽しみだった! って言うか、待ち遠しかった!!」

 とエミルが力強く反論し、それに何度も頷く護衛組を見て、自分たちも味見をしたいとお父さまとベルトランギルドマスターが手を挙げる。

「俺…、ゴホンッ! 私がいてはアリスお嬢さまが安心して調理をできないのであれば退室します…」

 ウーゴ隊長だけは、寂しそうな顔で退室を了承したが、

「そんなことは決してないから!」

 私が引きとめた。 みんなを信用していないわけではないし、レシピの流出を心配しているわけでもない。

 ギルドの幹部に出て行ってもらったのは、新作の<レシピ登録>をうるさく言われるのがイヤだっただけだし、みんなには今夜を楽しんで欲しいと思っているだけだという事を丁寧に説明すると、やっと笑顔になり、ここに残って手伝いたいと言ってくれた。

 遠慮をしても悲しませるだけだとわかったので、ウーゴ隊長にも護衛組と一緒に手伝ってもらいながら今夜の料理を仕上げていく。

 みんなの協力のお陰で15時を少し回った頃には大体の目処がついて、ギルドを出ることができた。

 ちなみに味見は大好評で、予定よりも多く作ることになったのは嬉しい誤算だ。
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