女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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弟自慢 1

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 王様と宰相さんはマルタのドレスを見るだけは飽き足らず、私のドレスも見たがった。

 …男の人がドレスを見て楽しいのかなぁ?と思わなくもないけど、まあ、見せても減るものじゃないしね。 

 一応、

「陛下と宰相殿が見たいのはこのドレスですか? それともドレスを着た私たち? 
 まあ、下心を感じたらきっと、モレーノお父さまが叱ってくれるから大丈夫かな」

 さっき王様が漏らした「女性本来の美しい体のラインがわかるのは嬉しい」と言ったことへの牽制はしておく。

 私の言葉に不穏なものを感じたのか、お父さまが私を隠すように水晶と私の間に入ってくれたことは素直に嬉しかったけどね。 一応は、お父さまの背中をぽんぽんと叩きながら「冗談だよ~」と言っておいた。 





 私が大広間に戻る前にマルタにいくつかの質問をしていたらしく、ドレスの機能についての質問はなかったけど、その代わりに私の好みなどを事細かに聞かれてちょっと閉口してしまったことは予想外だったなぁ…。

 もしも私にドレスを仕立ててくれるつもりだったら、<冒険者>活動にドレスは必要ないから考え直してね!





 王様のリクエストに応えて、あちらを向いてはお気に入りポイントを答え、こちらを向いてはこだわりポイントを答えていたら、

「アリス殿の“飾り”は昨日と同じものであるな? 髪飾りはモレーノの贈り物だから同じでもおかしくはないが、首飾りはどうしたことか?  モレーノが用意したのであれば違うものになっているはず…。 
 それは思いの深い品であるか?」

 王様はネックレスが気になったようだ。  ふふっ! 良くぞ聞いてくれました♪

「これは弟からの贈り物を、大切な人が加工してくれた首飾りなのです。 私の宝物です」

「ほう! アリス殿の弟御が?  それはまさしく宝物であるな!」

 王様にとって『弟』はそれだけで『大切な存在・愛しい存在』だとわかるワードなので、とても優しい声で「よく似合っておるぞ」と褒めてくれる。

 でもね! このネックレスの自慢ポイントはまだまだあるんだよ?

「陛下、これはただの贈り物ではないのです。 弟はこの首飾りを手に入れるのに、家族から貰ったお小遣いを使ったりはしませんでした。
 この首飾りは、弟が初めて仕事をして得た報酬で私に買ってくれたものなのです♪」

「なんと…! 幼き弟御がアリス殿の為に労働を……っ!?」

 当時の流威は決して幼くはなかったんだけど、今の私の年齢から流威との年齢差の9歳分を引くと確かに幼いことになってしまう。 

 ここはあえてのスルーかな、と考えていると、

「その首飾りを買えるだけの仕事って、一体どんな仕事よ……」

 マルタが私のネックレスを凝視しながら、『信じられない』とでも言いたげに呟いた。  気持ちはわかるな。 みんなの頭の中の流威おとうとは7歳くらいの設定だろうしね。

「家庭教師だよ。 他家の子供に勉強とかを教える仕事。
 始めは色々な思惑しわくがあって弟に教師を頼んできた親たちも、教え上手な弟のお陰で子供が凄く成長した!って大喜びだったんだから!」

 流威はかなりのイケメンで教え上手だったから、生徒だけじゃなくて生徒の親にまで大人気だった。 だから、

「私の首飾りを手に入れるだけのお金が貯まるとあっさりと辞めてしまったから、弟に教えて欲しがっていた人たちの陳情が凄かったんだよ~」

 私の流威おとうと自慢はなかなか終わらない。 気持ちよく自慢をしていた私は水晶の向こうで、

「なるほど。 貴族であれば、より上位の家との結びつきを欲しがるであろうな。 子供を使って縁を結ぼうとすることは珍しくはない」

「それを利用して欲しいものを得てしまうとは、アリス殿の弟御もなかなかに優秀でございますな」

「ああ。それに金が手に入ったらあっさりと辞めてしまった所も見所がある。 長く続けていると情が沸くこともあるだろうし、他家に付け入る隙を与えかねんからな」

「やはりアリス殿のご実家は、上位貴族か王家の縁者という辺りでしょうか」

 王様と宰相さんが誤解を深めていたことには気が付かなかった。

「そんなに大切なものを、戦闘中も身に付けていて大丈夫なのか?」

 心配してくれるエミルに、

「ふふっ! 大丈夫なの!
 私の大切な人が、このネックレスが簡単に壊れないように…」

(ねぇ、ハク!  ネックレスに【HPの自動回復】機能がついていることは話しても大丈夫!?)

(大丈夫にゃ~。 装備に魔法を付与することはこの世界でもあることにゃ!)

 ハクの「大丈夫」が貰えたので、安心して自慢を続ける。

「壊れないようにしてくれた上に【HPの自動回復】機能をつけてくれたから、戦闘中こそ身に付けておいた方が安心なんだ♪」

 何よりも、私の精神的な『お守り』として、ずっと身に付けていたい。 その為にビジューが<破壊不可>にしてくれたんだしね!

 足元に寄って来たハクとライムを抱き上げて、もふもふし始めた私の後ろで、

「それって、家宝…。 いや、国宝とかのレベルじゃないのか?」
「生まれは隠せない」
「あれは小さくても上品質のダイヤだ。 それを見たこともないほどの美しいカットをした上に、魔法の付与か…。 間違いなく国宝クラスのものだな」
「やはりアリス殿はどこかの王家の出でしょうなぁ。 我々が存在を知らない姫となると国交のない国か、やはりあの……」

 と、誤解が著しく成長してしまっていることに、この時は気が付かなかった……。

 ハクが簡単に「大丈夫」って言うから、この世界で装備への魔法の付与が難しいものだとは思わなかったんだ…。
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