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弟自慢 2
しおりを挟む「予のモレーノも幼い頃から優秀であってなぁ…」
私の流威自慢に触発されたのか、王様のモレーノお父さま自慢が始まった。
幼い頃から利発であったこと。剣の訓練も魔法の訓練もどんなに辛くても手を抜いたりしなかったこと。
でも、師にメタメタに打ちのめされた時は、庭園の隅で一人、声を殺して泣いていたこと…。
王家の末弟に生まれて、王太子である兄王子に溺愛されて育ったにも係わらず、他者への思いやりの心を忘れずに育ったことは、王様の自慢の一つらしい。
「以前はモレーノを予の“王太子”に、と言う派閥もあったがな。モレーノがさっさと臣籍に降下してしまったので今は静かなものだ」
「あれは彼らの頭がおかしかったのですよ。 現・王太子の優秀さに気が付かなかったのですから」
お父さまはさらりと流してしまったが、当時は大変だったんだろうなぁ…。
当時を想像してお父さまに同情を感じている間も、王様の自慢話は止まらない。
「モレーノは5歳年下の予の長男を可愛がってくれてなぁ。 教育係以上に良く教え導いてくれた」
「息子はモレーノの背中を見て育ったからな。厳しさの中にも慈悲を忘れない、良き王太子に育ってくれた」
「公爵となった後もモレーノを推しておった貴族家を抑えて、王家を支えてくれた」
「王太子の地位を磐石にする為に、公爵位を返上して裁判官になった時には皆が止めのだがな……」
……っと! そろそろ止めた方が良さそうだ。なんだか湿っぽくなってきた。
「でも、お父さまは公爵に戻るので、陛下とはまた頻繁にお会いできそうですね!」
「で、あるな! また予の側で支えてくれるであろう?」
王様がお父さまに向かって嬉しそうに話しかけるけど、お父さまは、
「私は裁判官ですから王宮にはあまり用はありませんよ。 陛下のお側は宰相殿を始め、側近の方にお任せします」
とそっけない。
お父さまの返事を聞いて悲痛な声を上げる王様を気の毒に思ったのか、マルタが恐る恐る会話に加わった。
「モレーノ様の地位をもっと上げるとかはどうですか? 国のトップのワン・ツーなら仲良くしないといけない理由ができますよ。 ……アリスはどう思う?」
……どうして私に話を振るのかな? 私の背中に隠れる必要もないと思うよ?
マルタは王様に話しかけたことが怖かったのか、私の背中から出てくる気配がない。 マルタの方が背が高いから隠れられてはいないんだけどね~。
「公爵の上? 大公とかかな? ん~、ちょっと難しいかも……」
「どうして?」
「大公家って言うのは貴族のトップであると同時に、王家のスペアだからね~。 せっかく勢力を削いだお父さまを担ぎ上げたい派閥が元気を取り戻して、下手したら王太子の暗殺とかに話が広がるかも……」
むか~し、歴史の授業で習ったことがこの世界に通じているかは不明だけど。 まあ、間違っていたら「故郷ではそうだった」で押し通そう。
「それに、お父さまが<大公>になったら、嫁候補が押しかけてくる未来が簡単に想像できるよ!」
「ああ、権力者にありがちな悩みってヤツ? 貴族ってどうしても結婚しないといけないの?」
「ん~。家を存続させるためには結婚は必須かな? でも、別に家を閉じるつもりなら独身でも良いと思うよ? 養子を迎えるっていう手もあるし。 ……その辺りはどうなのですか? 宰相殿」
私もその辺りはわからないので、宰相さんに投げてみる。
「そこはアリス殿のお国と同じですよ。 モレーノ様のお気持ち次第です」
宰相さんの返事を聞いて、マルタはお父さまを振り返る。
王様も期待している声で、
「モレーノ、せっかくだから大公にならぬか!?」
と誘っているし、宰相さんも、
「いかがですか? モレーノ様!」
と王様に同調してお父さまを誘っている。
どうするのかな?と思ってお父さまを振り返ってみると、こちらを見ていたお父さまと目が合った。 何を考えているのか、視線を合わせたまま黙って動かない。
「お父さま…?」
「ふむ。 大公の方がアリスを正式な養女に出来る可能性が高くなりそうですかね? いいですよ。大公でも」
……お父さまはゆっくりと滲むように微笑むと、あっさりと了承してしまう。
「ほ、本当か!? 本当に大公位を受けるのか?」
「モレーノ様、これは冗談ではすましませんぞ! わたしは確かに聞きました! 大公位をお受けになると!!」
あまりにあっさりと言うものだから、王様も宰相さんも取り乱してしまっている。
それを聞いているお父さまは落ち着き払って、ワイングラスを傾けて満足そうに微笑むだけだ。
ギルマスたちや護衛組の「なんとかしろ」という視線を受けて、どうして私が?と思いながらも話しかけてみる。
「では、お父さまが公爵か大公になられるお祝いに、ガバン元伯爵の領地からいただく予定の税収の権利を放棄しましょう! お父さまなら良い領主になられるでしょうから、安心ですね!」
思いつきのままに口を開くと、室内からはどよめきが、従魔たちからは体当たりを、お父さま・王様・宰相さんからは、
「「それはならぬ!!」」
「それはなりませぬ!!」
との反対を受ける。 こちらを向いたお父さまの顔がちょとだけ怖かったのは内緒だ……。
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