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初めての馬車旅 19
しおりを挟むインベントリの中にある料理の中からメニューを選び、値段はイザックと相談しながら決めた。
私が値段を決めるとどうしても安くなり過ぎてしまうらしく、イザックに決めてもらうとびっくりするほどの高値になるから、すり合わせが大変だった。 それでも、私の感覚からみると十分に高いんだけどね。
でも、メニュー表を見ても、
「おまかせ定食ってのを2つくれ!」
「はーい。 1食2,000メレだから、合わせて4,000メレね」
「俺はスープだけでいい。 ボア肉が入ってる割には安いが…。 まあ、欠片だったとしても文句は言わんさ」
「俺もだ」
「うちもスープを3つくれるか?」
「おう、スープは1杯800メレだ。 食って驚け!
ああ、ペーターの所は2杯分にしたらどうだ? ガキはあんまり食えねぇだろう。 ちゃんと3人分によそってやるぞ?」
ディエゴ親子と乗客が全員買ってくれたのにはびっくりだ。 もっともまだ2日目ということで、乗客たちは各自がおいしそうなごはんを用意していたので、スープだけのお買い上げだけど。
イザックがペーター君一家のスープを2杯分にしたのは良かったものの、1人前2個の肉団子をどう分けるかを悩んでいたので❝お子さまには肉団子を2個特別サービス!❞とメニューに追加する。
それを見ていたディエゴ親子も禿頭のおじさんとお腹の出たおじさんも何も言わずに笑っているから問題無し! ペーター君にはサルの嫌味から助けてもらったしね。ささやかだけどお返しができて良かった♪
「う、美味いなっ……! 初めて食う料理だが、こんなに美味いものだとは思っていなかったぞ!」
「ああ、これが2000メレなのか!? これが野外でこの値段なら随分と安いじゃないか!」
おまかせ定食(ご飯・野菜たっぷりスープ・ボアカツ&千切りキャベツ・木苺)を食べたディエゴ親子は「こんなの食ったことない! なんでこんなのが2,000メレなんだ!?」と満足そうだし、
「この団子はなんだ!? ボアか? ボアなのか!? どうしようもなく美味い!」
「なんだ、この肉の塊は!? 誰だよ、欠片だとか言ったの! …あ? 肉が柔らかい。 ……美味いなぁ」
「こんなにおいしいスープ、初めてだ! 母さんのよりおいしいよっ!」
「こ、こら! ペーター……」
「本当に美味しい……。 ねえ、街に着いたらレシピを買ってもいい?」
「あ? ああ、もちろんいいぞ! 楽しみだな!」
肉団子入り野菜たっぷりスープを買ってくれた人たちも満足そうだ。
ペーター君の発言で少しだけ慌てたけど、お母さんは気を悪くする様子もなくおいしそうにじっくりと味わってくれているので、そっと胸をなでおろした。
あ、レシピはまだ販売していないって言っておかないとね。
不意に魔力感知に反応があったのでマップを見てみると、ホーンラビットが2匹近づいて来ている。
イザックに断ってその場を離れ、散歩がてらの退治から戻ってみると、
「なんでだよ! 金は払うって言ってるじゃねぇか!」
……サルの怒鳴り声に出迎えられた。
「……どうしたの?」
「ああ、戻ったのか。 お疲れさん!」
「うん。ただいま! 何かあったの?」
状況を見ると、サルがスープを買おうとしたのをイザックが拒んだっぽい? サルの隣でビビアナが困ったような顔をしている。
「ああ。サルが自分たちにもこのスープを売れと言うのを止めただけだ」
思った通りの状況だったけど、イザックがスープを売るのを拒んだ理由がわからない。 値切ったりしたわけでもなさそうだし、当然、意地悪をしているわけでもないだろう。
私の不思議そうな顔を見て、苦笑したイザックがこちらを向いて説明をしてくれた。
「複数のグループで護衛依頼を受けた場合、基本的には同じものを食わないのが冒険者間の暗黙のルールになっている。 揃って腹痛を起こした時に襲われでもしたら目も当てられないからな。
俺たちが一緒のパーティーならまだしも、別々のパーティーでそんなことになったら、責任のなすりつけ合いに発展する可能性がある」
と言われて思い出した。
❝危機管理❞。 地球で生きていた頃、航空機のパイロット達が食事の内容を別々にするという話を聞いたことがある。操縦クルーはフライト中だけでなく地上でも同じものは食べないと聞いて、職業意識の高さに驚いたものだ。
そういうことなら、と納得してスープの入っている寸胴鍋をインベントリに収納すると、サルが舌打ちしながら離れて行く。
仕方なさそうに笑うビビアナは知っていたのかな? イザックの説明を聞いても特に反応がなかったから知っていたように思うんだけど、それならどうしてサルを止めなかったのか……。
軽く頭を下げてサルを追いかけていくビビアナが何を考えているのか私にはわからないけど、違和感だけが残った。
「騒がせて悪かったな」
イザックがみんなに謝るとみんなはそれぞれに苦笑を返したり、❝気にするな❞とばかりに手を振ってくれたり。この2日間で私たちとサルの仲が良くないことに慣れてしまったのか、本当に気にしていないそぶりに思わず苦笑が漏れる。
護衛の仲が良くないのはあまり良くないことだと思うんだけどね。 みんなが重い雰囲気にならないことは素直にありがたい。
でも、やっぱり気になるんだよね。
「ねぇ、イザック? みんな、私が作ったものを食べてたよね?」
「あ?」
「私の護衛をしてくれている時。 みんなは一つのパーティーじゃなかったけど、私の作ったごはんを食べてたよね?」
「ああ、そのことか」
ちょっと意地悪かな?と思いながらの質問だったのに、イザックはちっとも慌てることなく笑っている。
「依頼主や護衛対象から振舞われるものは基本的に拒んだりしないぞ? 特に、出されるものが美味いものだとわかってて断るなんてことはしやしない。
だが、俺たちが自分で用意する飯は、バラバラだっただろ?」
言われて思い出してみると、確かにそうだった。 私がゆっくりと眠っていた日の朝ごはんはみんながそれぞれに買って来ていたし、屋台通りに行った時も、みんながかぶらないものを買っていた。
好みの問題だとばかり思っていたけど、そういうことだったのかぁ。
うん。やっぱりみんなは優秀な護衛だったんだな!
「それに、俺たちはアリスが【治癒魔法】を使えることを知っていたからな! なんの心配もしてなかったんだ」
感心している私に、イザックが楽し気な顔で言った。
「もしも、アリスの料理で腹を壊したとしても、金を払って治してもらえばいいだろうって思えるくらい美味いものばかりだったからな。 断るなんてもったいないこと誰も考えもしなかったさ」
そんな風に言われてしまうと、素直に喜ぶしかないよね?
気を良くしてデザートのおかわりを用意する私が、❝サルたちが食中毒を起こしたら、私が【ヒール】で治せばいい❞ってことに気が付いたのは、食事が終わった後のことだった。
あれ? やっぱり意地悪だったのかな……?
でも、サルが【ヒール】の代金を払ってくれる保障はないし、私もただで治療をしてあげる気にはなれないから、イザックの判断は正しいのか。
うん。トラブルを未然に防いでくれたイザックはやっぱり優秀な冒険者だな! あと少しの間だけど、いっぱい学ばせてもらおう♪
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