325 / 754
初級ポーション
しおりを挟むどれくらいの間眠っていたのか、目が覚めると辺りは真っ暗になっていた。
「起きたのにゃ?」
「うん」
「きゅっ」
耳元で聞こえるハクの穏やかな声とふわふわの温もりに、背中から包み込んでくれているライムのぷにぷにボディの柔らかな感触はいつもの朝と同じで、一瞬だけ状況が理解できなかったけど、起きて辺りを見回すとフランカたちのお墓が目に入り、意識を手放す前のことを思い出した。
「にゃぁ……」
「ぷきゅ……」
「…大丈夫だよ」
2匹が心配そうに寄り添ってくれるのを感じて、❝1人じゃない❞ことのありがたさをしみじみと感じる。
積まれた魔物の死骸を見ても、自分が守られていたことがよくわかる。
「大丈夫。 もう、暗くなっちゃったから、今日はこのまま……」
ここで野営しよう。と言いかけて、近づいてくる赤いポイントがマップに映っていることに気が付いた。
注意して見ると、ゴブリン3体のグループが、ゴブリンの群れがいた洞窟に向かっている。
「…フランカ。ここでお別れするよ。 いつかビジューの元で会おうね!」
お墓に向かって簡単に挨拶をすませ、魔物の死骸を回収してから足早に洞窟に向かう。
歩きながら<鴉>を取り出して腰に佩き、ライムをハウスに避難させたら準備完了だ。 ハクと一緒に洞窟に向かって走り出した。
「ゴガァァァッ!!」
「……ふぅん。 今度は足で」
「グギャァァァッ!!」
「……もう一回、腕で試そうか」
「ガアアアアアアッ!!」
「……やっぱり、半分強って所かな?」
3体いたゴブリンの内の2体はさっさと退治して、最後の1体を生け捕りにして木に縛り付けて自由を奪い、私とハクは❝検証実験❞を開始した。
私の作った<初級ポーション>の効能を調べる実験だ。
方法は簡単。 ゴブリンの両腕なり両足なりに同じ深さの傷をつけ、市販のポーションと私のポーションをそれぞれの傷に使って違いを見るだけ。
この検証は最初からこの森に来る理由の一つだったんだけど、なかなか実験を始めることができなかった。 魔物とはいえ、命を弄ぶようで抵抗を感じていたからだ。
でも、私は<ゴブリン>という種族に対しての認識を改めた。 ……今は憎悪を感じるくらいだ。抵抗を感じることなく、実験を進めることができた。
結果、私のポーションは市販の物の半分強で同じ効き目があることがわかる。
「ちゃんと、高く売るにゃ!」
ハクのアドバイスに従って、少し高めの価格を設定しよう♪
洞窟へ戻って来るゴブリンを残らず退治するために、今夜はこのまま洞窟の前で野営をすることにした。
ハクとライムがころころと転がりながらじゃれ合っているのを眺めていると、今日1日の出来事が悪い夢だったように錯覚してしまうけど、泣きはらしたせいでひりついている目元が、あれは現実のことだと教えてくれる。
無邪気に遊んでいるように見えて、2匹が私の様子を心配そうにうかがっていることにも気がついちゃったしね。 現実から目を背けることはできないな。
フランカからの預かり物をインベントリから取り出して、簡単に目録を作成する。と言っても、あまり多くはないけど。
野営に必要な道具や着替えと財布。それから真っ黒に変色してしまったギルドカード。後は、小さいけれど宝石の付いた髪飾りが1つ、大切そうにハンカチに包まれていた。
フランカは売って孤児院に寄付して欲しいと言っていたけど、全てこのまま持って行った方がいいだろう。どれも使えるものだし、髪飾りは彼女の形見になってしまったものだし。 現金化するのは孤児院の責任者に任せよう。
道具を丁寧に磨き、服のほつれを繕っていると、2匹が近づいて来て膝の上に乗った。 お腹が空いたのかな?
「何が食べたい?」
「アリスが食べたいものにゃ!」
「ありすがたべたいもの~!」
「え?」
「食べないと体に悪いにゃ……」
てっきり遊び疲れて腹ペコさんなのかと思ったら、2匹は私を心配してごはんタイムに誘ってくれていたようだ。
いろいろとあったせいで食欲がないのは確かなんだけど、2匹の気遣いが嬉しかったので、少しだけおかゆを食べることにした。 「それだけにゃ?」と心配そうに聞かれたけど、今日はこれで十分だ。 2匹にはおかずもたくさん食べてもらったけどね。
従魔たちが食事をしているのを眺めているだけでも、栄養になる気がする。
食べ終わるなり「アリスはゆっくりと眠るのにゃ!」と言ってくれるハクに夜番を任せて、私は眠ることにした。
昼間にたくさん寝てしまったので、寝られないかも?と思ったんだけどそんなことはなく、2匹に寄り添われて目を閉じると簡単に意識が遠のいていく。
……いつもありがとうね。
両頬に感じる優しいぬくもりに、心の中で感謝を伝えた。
243
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる