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八つ当たり? 1
しおりを挟む「グゲッ…!」
……今朝の目覚めは魔物の断末魔の声だった。 せっかく森の中にいるんだから、綺麗な鳥の声とかで目覚めたかったなぁ。
「起きたのにゃ?」
「うん、おはよう。 いつもありがとうね~!」
たった今、魔物を退治したとは思えないほど可愛らしい顔でハクが戻って来ると、私のクッションになってくれていたライムがぷるぷる震えたので急いで身を起こす。
「ライムもありがとうね! お陰でゆっくりと眠れたよ」
目覚めの【クリーン】を掛けながら2匹にお礼を言うと、2匹は嬉しそうに私の周りをころころと転がった。 後でクリーンの掛け直しが必要になったけど、2匹が可愛いから気にしない♪
この野営地に近づいてくる魔物はハクが、私に近づいてくる虫などはライムがきっちりと退治してくれるから、屋外だというのに私の睡眠はいつも快適だ。
日頃の感謝を込めて、今朝のごはんは2匹の好きなものを並べよう!
フランカからの預かり物を早く届けてあげたくて、最初の予定(森の中心まで行く)を変更してさっさと森を出ることにした。
まだ探索は十分ではないけど、また来ればいいだけだ。 今はフランカの遺言を叶えることの方が大事だからね。
魔物を避けて遠回りする時間が勿体ないから、魔物の有無に拘らず最短で森を出るルートを選択する。 進路上に魔物がいれば狩って収入にするだけだし、魔物がいなければその分早く森を抜けられる。
……結局はいつもと一緒だけど、気分の問題。
ライムをハウスに避難させてハクと森の出口を目指していると、進路上に3つの赤いポイントが出てきた。 まだ名前がついていないから❝初めまして❞の魔物だ。
私たちが着く前にいなくなれば放っておくし、そのままいるようなら3匹ともさっさと狩って先に進むだけ、と思っていたんだど……。
魔物(?)を目にして気が変わった。
進路上に見えてきたのは3頭の馬、らしきもの。 多分馬ではないハズ。
だって、馬は4本足の動物だよね? どう見ても2頭には8本の足があるし、残りの1頭には角が2本も生えている。私の知っている馬とは違い過ぎるし、あれは馬型の魔物かな?
名前:スレイプニル(食用可。美味)
状態:劣(重症)
備考:毛皮や尾の毛は装備や衣類に使用可
:短時間なら空を駆けることができる
名前:スレイプニル(食用可。美味)
状態:普通(軽症あり)
備考:毛皮や尾の毛は装備や衣類に使用可
:短時間なら空を駆けることができる
名前:バイコーン(食用可。美味)
状態:普通(軽症と疲労)
備考:毛皮や尾の毛は装備や衣類に使用可。角は薬の材料になる
:異様なほどの性欲を持ち、他種族との交配可
鑑定してみると、思った通り馬の形をした魔物だった。
白い毛皮を血で汚した巨躯の8本足の馬の魔物が一回り小さな黒い毛皮の8本足の馬の魔物を後ろに庇い、2本角の黒い馬の魔物と対峙している。
違う種族の雄に絡まれている雌を、同じ種族の雄が守っているようにしか見えないな……。 2本角の魔物の備考にも❝他種族との交配可❞ってあったし、下半身に見たくないものが見えちゃってるし……。
「ねえ、ハク? バイコーンって確か、モレーノお父さまの所でご馳走になった、とってもおいしいお肉だったよね?」
「そうにゃ! おいしかったのにゃ!」
「……今日はアレを狩って、他の2頭、スレイプニルは見逃してもいい?」
「どうしてにゃ!? スレイプニルもおいしそうなのにゃ!」
いつもならハクの言う通り、❝美味❞と出ている魔物を逃がそうとは思わないんだけど……。
「なんとなく? あのバイコーンがとっても憎らしく感じるんだよね。 あんなに怪我を負ってる状態で雌を守ろうとしているスレイプニルを応援したい気もするし。 …やっぱりダメ?
もちろん、こっちを襲ってくるようならきっちりと狩るよ!」
目の前の3頭が<魔物>である以上、人族に害をなす可能性は低くない。 ハクがどうしても狩る!って言ったなら、スレイプニル2頭も狩るつもりでお伺いを立ててみると、ハクは私を少しの間だけじっとみて、小さなため息を吐いて笑ってくれた。
「アリスがそうしたいのならそうするにゃ。 今回だけは、特別にゃ!」
そう言って私の肩に乗り、
「だったら早くバイコーンを狩ってやるのにゃ! あのスレイプニルはもう限界にゃ!」
と私を急かす。 「肉質が落ちる前に」と呟いたのが聞こえたけど、ハクの照れ隠しってことにしておこうかな♪
そうと決まれば行動あるのみ!
目の前ではバイコーンが今にも襲いかかろうと威嚇しているし、雄の後ろに庇われている雌が応戦しようとして雄に後ろ足で蹴飛ばされている。
「『逃げろ』って言ってるのにゃ」
あの状態で雌を逃がそうとしている雄と、逃げずに傷ついた雄を守ろうと戦おうしている雌の姿を見て、自分の判断に自信が持てた。
とりあえずは、あの憎たらしい<バイコーン>を退治しないとね!
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