365 / 754
きっと後悔してるはず
しおりを挟む清算に時間を取られてしまい、朝食を食べたらすぐにスフェーンに向けて出発する時間になってしまった。
(商業ギルドには行かないのにゃ?)
(うん……。サンダリオギルマスに連絡するって約束してるから、行きたいんだけどね)
私たちだけの行動ではないので、出発時間を遅らせることはできないし……。 でも、スフェーンへの往復の時間を考えると、今のうちに連絡しておいた方がいいよね? この街に着いたって知らせが遅くなると、心配をかけてしまうかもしれないし。
馬車の用意をしているようだから、みんなには先に出発してもらい、私たちは後から追いかけることを検討していると、
「そろそろ出発するが、何か不足でもあるのか?」
出発準備の指揮を執っていたサブマスが近づいて来た。 ちょうどいいタイミングだったので事情を話すと、
「そんなことか。 だったら……、誰か! 手が空いているものがいたら<商業ギルド>まで使いに行ってくれ。私たちが出発した後で構わない!」
「ああ、だったら僕が行きましょう。 商業ギルドの買い取り担当との打ち合わせがあるので」
あっさりと解決してしまった。
手を上げてくれた男性職員にサンダリオギルマスから預かっていた手紙とお礼のクッキーを渡すと、驚いたような顔で「僕は担当職員ではないのに…」と呟く。 元は私のお願いなんだから私がお礼をするのは当然だよね?
こんなことは担当職員にお願いすることでもないから、彼が引き受けてくれてとても助かったとお礼を言うと、戸惑っていた彼はとても嬉しそうな顔でクッキーのお礼を言ってくれた。 それを見ていたサブマスが、
「これでもう、不足はないね? そろそろ出発するよ!」
とみんなに合図を出すのと同時にギルドの扉を開けて職員たちが見送りに出て来てくれる。 ディアーナやシルヴァーノさんも一緒に出て来て、口々に「気を付けて!」「無事のおかえりを!」と声を掛けてくれるので、
「戻ってきたらまた一緒にごはんを食べよう! おいしいお店を紹介してくれる? もちろん私がごちそうするから高いお店でもいいよ!」
と誘ってみると、
「「だったら、アリスさんのごはんがいいです!」」
「あいすくりーむ?をもう一度!!」
「あの柔らかいステーキを是非!」
揃って笑顔でリクエストをされた。
……私の担当職員さん達は安上がりだな。気を遣ってくれているのかと思ったんだけど、
「桃とオークステーキもいる?」
「「食べたいです!!」」
昨日出したメニューを挙げてみると声を揃えて嬉しそうに即答するので、遠慮している訳でもないみたい?
どっちにしても、お店で食べるよりは安上がりなんだけどね。 ……この街のおいしいお店の開拓ができなくて残念な気持ちもあるけど、私の作るごはんを喜んでもらえる嬉しさに比べたら全然大したことじゃない。
私が笑顔で頷いたのを機に、ニールが(では、参りましょう)と私が乗りやすいように身をかがめてくれる。
憧れの目でスレイとニールを見ていた人たちから起こるどよめきや、
「スレイプニルがあんなに従順なのを見たことあるか!?」
「乗り手の為にひざを折ってくれる馬なんて初めて見た!」
などの声をスルーして、
「じゃあ、行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!」」
ディアーナたちと挨拶を交わしてゆっくり別れる。
口をぽかんと開けてニールを見ていたマスター&サブマス姉弟が気を取り直したように出発の合図を出し、私たちはフランカの眠るスフェーンの森への移動を開始した。
ちなみに……。
今回は私が1人でニールに乗せてもらい、ハクとライムはスレイの背中で楽しそうにじゃれ合っている。
みんなの前でスレイを従魔部屋に移動させるわけにもいかないし、かと言ってスレイの背中を空けておいて、誰かが乗りたいと言い出しても困るから。
「なんて贅沢な従魔たちなの……」
「ほんの少しの間でいいから代わってよーっ!!」
私たちの後ろで誰かが呟いているのが聞こえたけど、当然スルーだ。 私は何も聞いてませ~ん!
森へ行くメンバーは、ギルドマスター、サブギルドマスターを始めとして、Aランク&Bランク冒険者とギルド職員の合計5人と私たち。
ギルドマスター以外は全員女性。 ❝検分役は女性にして欲しい❞とお願いしたときは❝メンバーに女性を含む❞のつもりだったので、女性ばかりを揃えてくれた気遣いに感謝する。
「ギルマスとサブマスが揃ってギルドを留守にしていいの?」
という疑問は、
「今回は3バカに留守番させているから大丈夫さ。 あれでも少しは役に立つんだよ」
口で言う以上には例の冒険者たちを信頼しているようなサブマスターの様子で解消された。
女性ばかりのメンバーに、なぜギルマス(男性)が1人入っているのかというと、
「穴掘り要員が必要だろう。 力仕事担当だね」
……こき使われる為らしい。 ……ギルドマスターなのに。
「さすがギルマス! 頼りになるわ~♪」
おだてながらも、
「うちらが正しい女の扱い方ってやつを教えてやるよ!」
「これを機に、女性への紳士的な態度を学びましょう!」
少しだけ棘を含む彼女たちの言葉で、これがサブマスが仕組んだギルマスへの❝お仕置き❞の一環だとわかり、ほんの少しだけギルマスが不憫に思えたことは……内緒だ。
248
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる