女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ

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検証 1

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「バカ野郎! 今ここで吐くんじゃねぇ!」

「ゲホッ…。 だって、ギルマス。 さっきまで何もなかったのに、急にこんな……」

「アリスの説明通りじゃねぇか。 わかっていたことだろう」

「いやいや、ギルマス。この臭いは冒険者のうちらでもキツイんだから、ギルド職員このこには酷でしょ」

 ここはゴブリン達の中で❝守られる存在❞がいた空間。……私がゴブリンの赤ん坊を退治した場所だ。 

 ここにいた30匹弱のゴブリンの死骸はインベントリに回収したけど、飛び散った血液や体液、肉片などはそのままだったので、通気が良くない洞窟内ということもあり結構な臭いがこもっているようだ。

 私とライムはハクの防臭結界のお陰で何ともないんだけどね。 普段現場に出ることのないギルド職員の女性には辛い環境だろう。

 それでも、みんながそれぞれ口にする検証結果や、ギルマスが検証作業の合間に私にする質問や私の答えなどもきっちりと書き留めているのはさすがだ。

 ギルマスは「ここにいたゴブリン達をどうやって倒したか、詳細に話せ」と言うけど、何日も前の戦闘の手順なんて細かく覚えてはいない。 最後に残ったゴブリンの赤ん坊を手にかけたことは覚えているけどね。

 思い出して気鬱になった私の耳をハクが齧ってくるので痛みで気がまぎれた。 ……もう少し別の方法で気を反らして欲しいと思うのは贅沢なのかなぁ?

「ここはまだまし……。鼻で息ができる」

 Y字になっている洞窟内の真ん中、分かれ道になる空間まで戻って来るとみんなの顔から少しだけ緊張が抜ける。

 ここでもたくさんのゴブリンを退治したけど、フランカたちの為に【クリーン】でその痕跡を消していたので臭いが薄いからね。でも、

「ここがフランカともう一人の少女が捕らえられていた所。少女の母親も一緒に捕らえられていたらしいけど、私が来た時にはすでに亡くなっていて遺体もなかったわ」

 もう一つのY字の先の空間。ここはゴブリンの体液や嬲り者にされた女性たちの血液が地面に染み込んだままだ。 何が行われていたのかが簡単に推測できる為、それまで平気な顔をしていたギルマスの眉間にも深いしわが寄っている。

「フランカが少女を❝楽❞にしてやったのもこの場所か?」

「違う。フランカは少女を背負って外まで一緒に連れ出した」

「……捕らわれていたフランカに背負わせたのか?」

「そう。私が発見した時にはフランカは瀕死の状態だった。 【リカバー】で治療はしたけど体力は戻ってなかったのに、フランカは自分で少女を背負って外まで連れて行ったの」

 フランカは私が少女に触れることを拒んだ。……私が少女に情を移さないように配慮してくれたのだろうと推測を話すと、ギルマスは「そうか」とだけ言って黙り込んだ。

 あまり広くはない空間の検証は簡単に終わり、外に向かって歩き出す。しばらく歩くと、

「さっきの空間以外での戦いの痕跡を消したね? どうして証拠を消すようなことをした?」

 注意深く周りを観察していたサブマスが私を振り返る。

「フランカたちにゴブリンの痕跡を見せたくなかったから【クリーン】を掛けたの。 ここにゴブリンの巣があった証拠を残す必要があるってことは思いつきもしなかった」

 思いついたとしてもクリーンを掛けていただろうと思いながら答えると、ギルマスがかすかに笑った気がした。










 洞窟の外に出ると、入り口を守ってくれていたスレイとニールが顔を寄せてきたので、急いで自分たちにクリーンを掛ける。 汚れてはいないけど気分的なものだ。

 私たちが洞窟にいた間に何事もなかったことを確認して、従魔たち4ひきが揃ってじゃれ合っているのを眺めていると、

「……やっぱり外はいいね。 もう、目に映らないとわかっていても、少女をここに連れて来てやったフランカの気持ちがわかるよ」

「メラーニア……」

 Aランク冒険者のメラーニアが私の肩に手を置いて微笑んでいた。

「フランカはここで少女を?」

「そう。フランカはとても優しい表情かおで少女に話しかけて……。 少女を眠りにつかせた。 
 ……少女の名前を聞かなかったな。 フランカも知らなかったのかな?」

「……個人を特定させない方が良いこともあるからね」

「……そうだね」

 少女や少女の母親は、こんな形で亡くなったことを他人に知られたくないかもしれない。 もしかすると、少女と母親のことを探している人がいるかもしれないけど……、

「これから確認する少女の外見の記録は残すから、彼女を探す人がいたら彼女が死んだことは伝わる。 死因は❝森で魔物に殺された❞とでもしておくから、これ以上アリスが気に病むことはない」

「……サブマス」

 サブマスの言葉で私はこれ以上考えることを止めた。 もう名前を知る機会はないのだから、これ以上考えてもどうしようもない。

「だったら少しでも綺麗な状態で確認してあげましょう!」

 まだ青白い顔色のまま立ち上がったギルド職員さんの言葉に、みんな揃って頷いた。

 ………彼女の気持ちが嬉しいから【クリーン】をこっそりサービスしちゃったんだけど、ハクはちらっと私を見ただけで何も言わなかった。 

 いつもは守銭奴おかねにしっかりものなハクだけど、優しさには優しい気持ちで返すところが私の自慢の従魔ほごしゃなんだ♪











 少しだけ森を歩くと綺麗な花が咲いている場所がある。 そこがフランカと少女、そして小さな小さなゴブリンのお墓がある場所だ。

「フランカ。最後のお別れに来たよ」

 フランカの魂はとっくにビジューの元に旅立っているはず。 それでも、ここに来るとフランカの気配を感じる気がして……。 

 墓標にしている解体用ナイフの柄を見ながら私は少しだけ、泣いた。
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