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従魔シッター
しおりを挟むせっかく解体場まで来たのだから、ついでに解体を教わって行きたいな。
前回予約しておいたヴェルの解体講座を受けたいと申し出ると、「1時間後なら」とのこと。やっぱりいきなりは無理だったけど、1時間待つだけでいいならありがたい。
待っている間にできることはいくらでもあるしね。
まずは、
「おお~、ハク~っ! ライム~っ! おまえたちは今日も可愛いなぁぁぁぁ!」
……どんどんイメージが崩れていくセラフィーノにお願いごとを。
ライムが自分で埋め込んだ<従魔プレート>は、元がペンダントタイプだった物の鎖を外しただけなので、少しだけ形が歪だ。 ライムもそれが気になっているようなので形を整えてもらいたい、と私から伝えようとしたんだけど。
ライムは自分を撫でているセラフィーノが落ち着くのを待ってから、プレートを体から取り出してセラフィーノに渡し、気になる個所を突いて見せる。 それだけでセラフィーノには十分だったらしく、受け取ったプレートを持って少しだけ奥へと引っ込むと、すぐに綺麗に整えられたプレートを持って戻って来た。
セラフィーノの肩に飛び乗ったハクが最後の仕上げ(布できれいに磨く)をチェックして、OKが出てからセラフィーノはプレートをライムに渡し、ライムがプレートを自分に埋め込んだ。
……その間、私と彼は「おはよう」の挨拶しか口にしていない。
うちの仔たちがお利口だっていうのはもちろんだけど、ちゃんと従魔たちの意思をくみ取ってくれるセラフィーノは本当に動物と相性がいいようだ。
だから、スレイとニールに朝ごはんを届けるのに同行した彼が、
「スレイ~っ! ニール~っ! おまえたちは今日も綺麗だなぁぁぁぁ!」
と2頭に突進して行くのを見ても安心して放っておいた。 会うなり褒められて、2頭も満更ではない様子だったしね。
私が従魔たちに「元気? 不都合はない?」と聞く前に、
「今朝もいい毛艶だ。飯ももりもり食ってるし、表情も穏やかないい顔をしてる。 よ~し、今日も元気だな!」
と体調のチェックもしてくれた上に、
「なあ、アリス。こいつらを庭に連れて行ってやってもいいか? 少し運動させてやりたいんだ。できたらブラッシングも……。やっぱりダメか?」
退屈していた2頭の遊び相手まで買って出てくれるんだから、ありがたいことこの上ない。
スレイとニールも、
(主さま、わたくし達のことはお気になさらなくても大丈夫ですわ。この者の面倒もきちんと見ておきますのでご安心を)
(我らがこの小さな建物の中をお供するのは邪魔になりましょう。 護衛はハク兄上たちにお任せして、我らはこの愉快な者を構ってやることにいたします)
……保護者(?)目線なのが少し微妙な気もするけど、セラフィーノを気に入っているのは間違いないようなので、お水と果物を預けて彼に任せることにした。
セラフィーノにはクッキーを。最初はスフェーンの森の桃にしようと思ったんだけど、ハクが(果物だとスレイ達に貢ぎそうにゃね~)と言ったので紅茶のクッキーにしておいた。
……ハクの言うとおりの未来が簡単に想像できたことは、内緒にしておくね。彼に❝貢ぎ体質❞なんて不名誉な噂が立たないように。
目を反らしながら買い取りカウンターにアラクネーの一部を置くと、後ろから絹を引き裂くような女性の悲鳴が上がったのでびっくりして振り返る。 依頼人、なのかな?冒険者には見えない若い女性が真っ青な顔でこちらを見ていた。 今にも倒れそうな顔を見て慌ててインベントリに仕舞いなおすと、女性も自分の様子に気がついたのか恥ずかしそうに頭を下げてくれる。
……気持ち、わかるよっ! 気持ち悪いよね!
自分の無神経さを反省しながら買い取り担当さんに事情を話すと、そのまま解体場に案内された。 解体してから査定をするのでここで出して欲しい。と言われたんだけど……。 私もアラクネーを側に置いてヴェルの解体講座を受けるのは遠慮したい。
躊躇う私を見て、同行してくれていたディアーナがこの後の解体講座の件を買い取り担当さんに説明し、❝邪魔になる❞から一旦倉庫に預けることを提案してくれた。
買い取り担当さんと別れて倉庫に向かう途中、「蜘蛛、私も苦手です…」と小さく呟いたディアーナに、感謝の言葉と共にハクを貸し出しておく。
あの場で私の立場を考えてくれたディアーナに、ハクが❝感謝❞のナメナメをしている間私はライムを抱きしめながら、どうやってアラクネーを取り出せばさっさとその場を離れることができるか、を念入りにシュミレーションしていた。
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